役員会議で決裁が下りない原因は、参加者の議論の質ではありません。報告・意見聴取・決裁という性質の違う3つを、同じ枠の中で処理しようとしていることにあります。
アジェンダを決議事項だけに絞ると、必要な時間は大幅に短くなります。会社法は、取締役会が必ず決めなければならない事項を列挙する一方で、一定の報告や決議そのものを省略できる道も用意しています。本記事では、この線引きを使ってアジェンダを組み直す手順を示します。
なお、以下で会社法の規定に触れる部分は、法定の機関である取締役会についてのものです。「経営会議」「常務会」など任意の会議体には直接は適用されませんが、何を必ず取締役会に残すかを決めることが、任意の会議体の設計の出発点になります。
まず、取締役会から外せない議案を確定させる
会社法第362条第4項は、取締役会が次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができないと定めています。
| 委任できない事項(会社法362条4項) |
|---|
| 重要な財産の処分及び譲受け |
| 多額の借財 |
| 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任 |
| 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止 |
| 社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項 |
| 取締役の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制その他の体制の整備(いわゆる内部統制システム) |
| 定款の定めに基づく取締役等の責任の免除 |
また、同条第5項は、大会社である取締役会設置会社では、取締役会が内部統制システムに関する事項を決定しなければならないと定めています。
この一覧が、アジェンダの土台です。 ここに載らない議案は、社内規程で執行側に委ねられるかを検討できます。役員会議が長い組織では、委ねられるはずの案件が慣行で上がり続けていることがよくあります。
あわせて、代表取締役および取締役会の決議で業務執行取締役に選定された取締役は、3か月に1回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければなりません(会社法第363条第2項)。この報告は省略できないため、年間の枠にあらかじめ確保しておきます。
省略できる報告を、会議から外す
会社法第372条第1項は、取締役・会計参与・監査役・会計監査人が取締役(監査役設置会社にあっては取締役および監査役)の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を取締役会へ報告することを要しないと定めています。ただし、前述の第363条第2項による報告(3か月に1回以上の職務執行状況の報告)には適用されません(同条第2項)。
つまり、事前に全員へ通知できる報告事項は、会議の枠から外せます。運用に落とすと次のようになります。
| 議案の性質 | 会議で扱うか | 扱い方 |
|---|---|---|
| 決議が必要な事項 | 扱う | 選択肢と論点を事前配布し、会議では決める |
| 3か月に1回以上の職務執行状況の報告 | 扱う | 法定のため枠を確保する |
| その他の報告事項 | 外せる | 全員への事前通知で済ませる |
| 意見の聴取・意見交換 | 外す | 別の場を設ける |
報告を外すだけで、枠の大半が空く組織は少なくありません。 会議時間の多くが状況説明に消えている場合は、ここから着手してください。
参加者を絞ることに、制度上の支障はない
決議の要件は会社法第369条第1項に定められています。取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合以上)が出席し、その過半数(同じく定款で加重できます)をもって行います。
ここで確認しておくべき点が2つあります。
- 助言者は議決権を持ちません。 現場の責任者や外部の専門家が同席していても、定足数にも賛否の数にも入りません。同席は運用上の判断であって、決議の要件ではありません。
- 特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができません(会社法第369条第2項)。誰が議決に加わるかは、議案ごとに変わります。
したがって、決議の場の参加者を議決権者に絞ることに制度上の支障はありません。同席が必要な場合も、当該議案の時間に限って呼ぶ運用にすれば、会議全体の長さには影響しません。
なお、議事録については、書面で作成されているときは出席した取締役および監査役が署名または記名押印しなければならず(会社法第369条第3項)、取締役会の日から10年間、本店に備え置く必要があります(第371条第1項)。議事録の運用そのものは再確認会議をゼロにする記録術で扱っています。
集まらずに決める選択肢を持つ
会社法第370条は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合に、その提案につき議決に加わることができる取締役の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が異議を述べたときを除く)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができると規定しています。
この定めがある会社では、争点のない議案を会議に載せる必要がありません。定款を確認し、定めが無ければ、次回の株主総会での定款変更を検討する価値があります。
ただし、全員の同意が要件であるため、意見が割れる議案には使えません。使い分けは次のとおりです。
| 議案の状態 | 扱い |
|---|---|
| 事前に論点が無いことを確認できた | 定款の定めがあれば書面決議で処理する |
| 選択肢が2つ以上あり、賛否が分かれる | 会議の枠で決める |
| 判断材料が揃っていない | 議案として上げない。次回までに揃える |
3行目を徹底してください。判断材料が揃っていない議案を会議に載せることが、「継続審議」が積み上がる直接の原因です。議案を受け付ける条件として、選択肢と、それぞれを選んだ場合の帰結が書かれていることを求めます。
アジェンダの組み直し手順
| 段階 | やること | 完了の基準 |
|---|---|---|
| 1 | 直近1年の議案を、決議・報告・意見聴取に仕分ける | 3分類の件数と所要時間が出ている |
| 2 | 決議事項のうち、会社法362条4項および社内規程で取締役会に留保すべきものを確定させる | 留保する事項の一覧がある |
| 3 | 残りの決議事項について、執行側に委ねる範囲を社内規程に書く | 誰が何を決めてよいかが文書になっている |
| 4 | 省略できる報告を事前通知に移す | 会議のアジェンダから報告の項目が消えている |
| 5 | 議案の受付条件(選択肢と帰結の記載)を決める | 条件を満たさない議案が差し戻されている |
| 6 | 定款に書面決議の定めがあるかを確認する | 有無が確認され、無い場合は追加の可否が検討されている |
段階1を実データで行うことが重要です。体感ではなく、議事録から所要時間を拾ってください。 報告に何割使われているかが数字で出ると、以降の合意が速くなります。
実行時の落とし穴
- 意見聴取の場を作らずに同席だけをやめない。 助言を聞く必要そのものは残ります。別枠を用意せずに同席を止めると、決めた後に「聞いていない」という異議が出ます。異論を扱う場の設計は異論を歓迎する会議体の再設計を参照してください。
- 事前配布を「読まれている前提」にしない。 読まれていなければ、結局その場で説明が始まります。配布の期限と、疑問を事前に受け付ける窓口を同時に決めてください。招集通知は取締役会の日の1週間前までが原則で、定款でこれを下回る期間を定めることもできます(会社法第368条第1項)。
- 報告を外した結果、監督が弱くならないようにする。 取締役会の職務には取締役の職務の執行の監督が含まれます(会社法第362条第2項第2号)。報告を事前通知に移す場合は、疑義があるときに議案として取り上げる経路を残してください。取締役会そのものの形骸化は取締役会の形骸化とガバナンス改革で扱っています。
- 定例の枠を減らしただけで終わらせない。 枠を減らすと、別の会議に議案が移るだけになることがあります。定例会議全体の設計は非同期ドキュメント共有への移行と併せて検討してください。
まとめ
- 役員会議が決裁の場にならないのは、報告・意見聴取・決裁が同じ枠に入っているためです。
- 会社法第362条第4項が列挙する事項は取締役に委任できません。この一覧がアジェンダの土台になります。
- 取締役全員に通知した報告事項は、取締役会への報告を要しません(会社法第372条第1項)。ただし3か月に1回以上の職務執行状況の報告は除かれます(第363条第2項)。
- 助言者は定足数にも賛否の数にも入りません(会社法第369条第1項)。参加者を議決権者に絞ることに制度上の支障はありません。
- 定款に定めがあれば、全員の書面同意で決議があったものとみなせます(会社法第370条)。争点のない議案は会議に載せる必要がありません。
- 判断材料が揃っていない議案を上げないことが、継続審議を減らす最短の手段です。
出典
- 会社法(平成17年法律第86号)第362条、第363条、第368条、第369条、第370条、第371条、第372条 — e-Gov法令検索



