サーバント・リーダーシップは、「部下に優しく接するリーダー」の言い換えではありません。提唱者ロバート・K・グリーンリーフが置いた判定基準は、仕えられた人が人として成長したかどうかを問うものです。関わり方が穏やかでも、相手が成長していなければ、この基準では合格しません。

この区別を落とすと、支援は容易に放任に変わります。本記事では、出典に沿って定義と10の特性を確認したうえで、支援と放任を分ける境目、機能しない場面、導入の順序を扱います。

グリーンリーフが置いた判定基準

サーバント・リーダーシップは、ロバート・K・グリーンリーフが1970年の論考「The Servant as Leader」で示した考え方です。グリーンリーフ・センター(Greenleaf Center for Servant Leadership)は、その中核を次の言葉で示しています。

The servant-leader is servant first… It begins with the natural feeling that one wants to serve, to serve first. (サーバント・リーダーは、まず仕える者である。それは、仕えたい、まず仕えたいという自然な感情から始まる。)

重要なのは、グリーンリーフがこの姿勢を「最良のテスト(best test)」という問いの形で検証可能にしている点です。同センターは、その問いを次のように挙げています。

  • 仕えられた人たちは、人として成長しているか
  • 彼らはより健康に、より賢く、より自由に、より自律的になっているか
  • 彼ら自身もまた、仕える者になろうとしているか
  • 社会の中で最も恵まれない人々に、どのような影響が及ぶか

この4つは、リーダーの心構えではなく結果を問うています。 自社で支援型の関わり方を導入したかどうかを判定するなら、研修の受講率ではなく、この問いに答えられるかで見てください。

スピアーズが整理した10の特性

よく引用される「10の特性」は、グリーンリーフ本人の記述ではありません。ラリー・C・スピアーズが、グリーンリーフの著作から抽出した整理です。スピアーズは Journal of Virtues & Leadership 第1巻第1号(2010年)所収の論考で、「グリーンリーフの原著を長年かけて検討したのち、決定的に重要と考える10の特性を特定した」と述べています。

特性内容職場での現れ方
傾聴(Listening)集団の意思を聞き取り、明確にする面談の前半で、助言も評価も挟まずに聞く
共感(Empathy)相手を理解し、共感しようと努める失敗の報告に対し、原因の追及より先に状況を整理する
癒し(Healing)関係の修復を変革と統合の力とみなす対立の後、当事者だけに任せず場を設ける
気づき(Awareness)一般的な気づき、とりわけ自己認識自分の判断の癖を、記録して振り返る
説得(Persuasion)役職上の権限ではなく説得に依拠する決定の目的を先に示し、異論を先に集める
概念化(Conceptualization)日々の業務を超えた全体像を描く担当業務と組織の目的のつながりを言語化する
先見力(Foresight)過去の教訓と現在から、決定の帰結を読む成功前提の計画に、失敗の分岐を併記する
執事役(Stewardship)組織をより大きな善のために預かる予算と機会の配分を、記録の残る形で決める
人々の成長への関与人の価値を、労働としての貢献を超えて見る現在の目標と別に、数年先の獲得能力を話す
コミュニティづくり組織の中に共同体を築く手段を探す成果の共有を、本人の言葉で行う場を設ける

表の右列は、特性そのものではなく観測できる行動に落としたものです。 特性のままでは評価も育成もできません。管理職の要件として使うなら、この粒度まで落としてから運用してください。要件の書き方そのものは次世代リーダーが育たない企業に足りない自社独自の要件定義で扱っています。

研究の現状を正しく押さえる

導入を検討する立場では、「効果が実証されている」という説明をそのまま受け取る前に、研究の状態を知っておく必要があります。

Nathan Eva らは Leadership Quarterly 第30巻第1号(2019年、111〜132ページ)の体系的レビューで、1998年から2018年までの285本の論文を対象に、この分野の理論的発展を妨げてきたのが一貫性と明確性の欠如であると指摘しています。同レビューは、概念の明確化と新しい定義の提示、16種類の既存尺度の厳密性の評価、先行要因・結果・調整変数・媒介変数の関係の整理を行っています。

ここから実務が受け取るべきことは、次の2点です。

  • 「サーバント・リーダーシップ」という同じ言葉が、研究でも別々のものを指してきた。 16種類の尺度があるとは、測っている中身が分かれてきたということです。
  • したがって、他社が「導入して成果が出た」と言うとき、何を導入したのかは確認しないと分からない。 言葉の一致は中身の一致を意味しません。

自社の判定には、前掲のグリーンリーフの4つの問いを使うほうが確実です。成長したか、自律的になったか、その人自身も人に仕えるようになったか。 これは尺度を選ばなくても観測できます。

支援と放任を分ける境目

実務でこの考え方が崩れるのは、ほぼ次の3つの経路です。

崩れ方現れる症状分岐点
放任になる指摘すべき品質の問題が指摘されないまま進む成長につながる負荷を残しているか
御用聞きになるリーダーが要望の窓口になり、判断が止まる要望を引き受けたか、判断できる材料を渡したか
決まらなくなる合意形成に時間がかかり、機会を逃す合意を取る決定と、その場で決める決定を分けているか

1つ目が最も多く起きます。 グリーンリーフの問いは「相手が心地よくなったか」ではなく「より賢く、より自由に、より自律的になったか」です。厳しい指摘を避けることは、この基準では支援に当たりません。

3つ目への対処は、権限の線引きを先に決めておくことです。合意を取る決定(方針・配分・人)と、担当者がその場で決める決定(運用・手順)を分け、後者ではリーダーが指示型に切り替えると宣言しておきます。判断が速度を要する局面についてはVUCAとは?予測不能な時代を生き抜く会社と人の育て方も参照してください。

導入の順序

順序やること完了の基準
1グリーンリーフの4つの問いを、自部門の評価項目の言葉に置き換える「成長したか」を何で見るかが決まっている
2合意を取る決定と、その場で決める決定を線引きして明文化する管理職が迷わず切り替えられる
310の特性のうち、自社で最も欠けている2〜3個に絞る全部をやろうとしていない
4絞った特性を、上の表の右列のような行動に落とす第三者が観測できる記述になっている
5半年後に、部下の側の変化(自律的に決めた件数、担当範囲の広がり)を確認するリーダーの行動ではなく結果を見ている

順序3を飛ばして10項目すべてを管理職の評価表に載せると、どれも中途半端になります。欠けている特性から始めてください。

順序5が、この取り組みで最も省かれやすい段階です。研修の満足度や実施率ではなく、部下の側で何が変わったかを見ます。グリーンリーフの判定基準が、そもそも結果を問うものだからです。

なお、リーダーシップとマネジメントは別の機能であり、支援型の関わり方はリーダーシップ側の話です。管理の仕組みが無い組織で支援だけを足しても回りません。両者の区別はリーダーシップとマネジメントの違いとは?で、リーダー自身の自己認識の扱いはオーセンティック・リーダーシップとは?EQとの関係と育成法で扱っています。

まとめ

  • グリーンリーフの判定基準は、関わり方の柔らかさではなく、仕えられた人が成長し、より健康で、賢く、自由で、自律的になったかを問うものです。
  • よく引用される10の特性は、ラリー・C・スピアーズが Journal of Virtues & Leadership 第1巻第1号(2010年)で整理したものであり、グリーンリーフ本人の一覧ではありません。
  • Eva らの体系的レビュー(Leadership Quarterly 第30巻第1号、2019年)は、285本の論文を対象に一貫性と明確性の欠如を指摘し、16種類の既存尺度を評価しています。言葉が同じでも中身は一致しません。
  • 実務で崩れるのは、放任・御用聞き・決まらないの3経路です。特に放任との境目は、成長につながる負荷を残しているかで判定してください。
  • 導入は、判定基準の言語化 → 決定権限の線引き → 欠けている特性の絞り込み → 行動への翻訳 → 部下側の変化の確認という順序で進めます。

出典

  • Greenleaf Center for Servant Leadership「What is Servant Leadership?」(Robert K. Greenleaf, “The Servant as Leader”, 1970 の引用を含む)
  • Larry C. Spears, “Character and Servant Leadership: Ten Characteristics of Effective, Caring Leaders”, Journal of Virtues & Leadership, Vol. 1, Iss. 1 (2010)
  • Nathan Eva, Mulyadi Robin, Sen Sendjaya, Dirk van Dierendonck, Robert C. Liden, “Servant leadership: A systematic review and call for future research”, The Leadership Quarterly, Vol. 30, No. 1 (2019), pp. 111-132