棚卸に何日もかかるのは、数える速度が遅いからではありません。全在庫を同じ日に数える設計になっているからです。数える量が同じでも、分けて数えれば業務は止まりません。

しかも、期末に全量を実地棚卸しすることだけが認められた方法ではありません。法人税基本通達は、業種や棚卸資産の性質に応じた部分計画棚卸しを、継続適用を条件に認めています。着手の順序は、①数える設計を変える、②読み取りを自動化する、③ずれる原因を潰すです。この順序を逆にすると、機器を入れても工数は下がりません。

全社を止める棚卸が続く理由

帳簿在庫が信用されていないから、一括で照合するしかない

期末に全量を数える運用が残っている組織では、日々の帳簿在庫が意思決定に使われていません。入出庫の記録が遅れる、記録されない移動がある、保管場所が実態と合わない。こうした状態では帳簿の数字を信用できないため、年に1〜2回、全部を数えて帳尻を合わせるしかなくなります。

ここで起きているのは作業効率の問題ではなく、データの信頼性の問題です。信頼できない帳簿を前提にすると、安全在庫を厚く積む、営業が納期を即答できない、欠品と過剰在庫が同時に起きる、といった症状が並行して現れます。

部分計画棚卸しは通達で認められている

国税庁の法人税基本通達5-4-1(棚卸しの手続)は、次のように定めています。

棚卸資産については各事業年度終了の時において実地棚卸しをしなければならないのであるが、法人が、その業種、業態及び棚卸資産の性質等に応じ、その実地棚卸しに代えて部分計画棚卸しその他合理的な方法により当該事業年度終了の時における棚卸資産の在高等を算定することとしている場合には、継続適用を条件としてこれを認める。

重要なのは「継続適用を条件として」という部分です。期末が忙しいときだけ分割する、という使い方は想定されていません。年間を通じた運用として定着させることが前提になります。実際に採用する際は、顧問税理士や監査人と事前に確認してください。

自社がどの段階にあるかを見る

棚卸の改善は、段階を飛ばすと効きません。次の表で、自社がどこにいるかを確認してください。

段階状態次にやること
0入出庫の記録が遅れる・漏れる。保管場所が固定されていない記録のタイミングと保管場所のルールを先に直す
1記録は追いつくが、年1〜2回の一斉棚卸で全社が止まる区画・品目区分ごとに分ける循環棚卸へ移す
2循環棚卸で回っているが、数える作業自体に人手がかかるバーコード・RFIDなど読み取りの自動化を検討する
3読み取りは自動化済み。それでも差異が出る差異の原因を工程別に分類し、発生源を潰す

段階0を飛ばして段階2の投資をすると、ずれた数字が速く出てくるだけになります。 機器の導入検討に入る前に、入出庫の記録が現物の動きと同じ日に入っているかを確認してください。

一斉棚卸と循環棚卸の違い

鈴与シンワートの解説によれば、循環棚卸(サイクルカウント)は、棚卸資産の種類・保管場所・実施日によって作業を分ける手法です。一斉棚卸のように全業務を止める必要がなく、対象の区画だけが入出庫を止め、数え終わった区画から業務が戻ります。

比較項目一斉棚卸循環棚卸(サイクルカウント)
業務への影響全業務を止める対象区画だけ入出庫を止める
実施の単位全在庫を同じ日に種類・保管場所・実施日で分割
差異の発見期末にまとめて表面化する早い段階で小さく表面化する
原因の追跡半年分の取引を遡ることになる直近の取引に絞って追える
頻度の決め方決算期に固定ABC分析などで区分ごとに設定

同社の解説は、頻度の決め方として、売上への寄与度で商品に重み付けを行うABC分析を挙げています。寄与の大きい区分は頻度を上げ、小さい区分は下げる考え方です。ここに「過去に差異が出た品目・場所」という軸を足すと、同じ工数でも検出できる誤りが増えます。

着手の順序

順序やること完了の基準
1入出庫の記録タイミングを、現物の移動と同じ日に揃える記録日と移動日がずれた件数が測れている
2保管場所コードを現物に貼り、場所単位で在庫を持つ「探す時間」が作業記録から消えている
3品目をABC区分に分け、区分ごとに棚卸の頻度を決める年間の棚卸カレンダーができている
4顧問税理士・監査人に部分計画棚卸しの採用を確認する継続適用の方針が文書で残っている
5差異が出た品目・場所を記録し、頻度の高い側へ寄せる差異の再発率が前期と比較できる
6ここまで回った段階で、読み取り機器の投資対効果を試算する対象範囲と削減工数が数字で出ている

順序6を先に持ってこないでください。読み取りの自動化が効くのは、数える対象と頻度が決まってからです。 全在庫に一律でタグを付ける前提で試算すると、投資額が過大になり、稟議が通らないか、通っても効果が出ません。

在庫そのものを減らす側の打ち手はサプライチェーン可視化で実現する在庫圧縮と調達の高速化で、数えても動かない在庫の扱いは不良在庫の処分基準で扱っています。

実行時に崩れる4か所

  • 繁忙期だけ分割する。 通達が条件としているのは継続適用です。都合のよいときだけ方法を変える運用は、根拠として説明できません。
  • 差異を「調整」で消す。 帳簿を現物に合わせて終わらせると、原因が残ります。差異は、入庫・出庫・移動・廃棄のどの工程で生じたかまで分類して初めて減ります。
  • 数える人と記録する人を同じにする。 同じ担当者が記録と照合を兼ねると、記録側の癖がそのまま照合をすり抜けます。区画を交差させる程度でも検出力は上がります。
  • タグの対象を絞らない。 読み取り機器の効果は、点数が多く回転の速い区分に集中します。全品目に一律で適用する前提を置くと、費用だけが先に立ちます。

まとめ

  • 棚卸が長いのは数える速度ではなく、全在庫を同じ日に数える設計が原因です。
  • 法人税基本通達5-4-1は、実地棚卸しに代えて部分計画棚卸しその他合理的な方法を、継続適用を条件として認めています。採用は税理士・監査人と確認してください。
  • 循環棚卸は、種類・保管場所・実施日で作業を分け、対象区画だけを止めて進める手法です。差異が早く小さく表面化するため、原因を直近の取引に絞って追えます。
  • 着手の順序は、記録の運用 → 保管場所 → 頻度設計 → 差異の追跡 → 読み取りの自動化です。
  • 読み取り機器の投資は、数える対象と頻度が決まってから試算してください。先に入れると、ずれた数字が速く出るだけになります。

出典

  • 国税庁「法人税基本通達 第4節 棚卸しの手続」5-4-1(昭55年直法2-15「八」により追加)
  • 鈴与シンワート株式会社「サイクルカウント(循環棚卸)」物流用語集