会社が把握していない生成AIサービスを、従業員が業務で使っている。いわゆるシャドーAIです。

対処として最初に検討されるのは一律禁止ですが、これはほぼ機能しません。理由は単純で、禁止しても業務を早く終わらせたいという動機は消えず、私物の端末に移るだけだからです。会社から見える範囲が狭くなる分、状況はかえって悪化します。

本記事では、シャドーAIが生まれる構造、法律上どこから問題になるのか、そして入力してよい情報の区分とシステム側の統制の作り方を整理します。

なぜ禁止では止まらないのか

現場がシャドーAIを使うのは、目の前の作業が実際に早く終わるからです。得られる利益は確実で、その日のうちに実感できます。

一方、情報が漏れるリスクは不確実で、起きるとしても先の話です。確実な利益と不確実な損失を並べれば、行動は前者に引かれます。これは倫理観の問題ではなく、条件が揃えば誰にでも起きる選択です。

同じ構造は、以前から情報システム部門を悩ませてきました。担当者が勝手に作った表計算ファイルが業務の基幹になってしまう現象と、発生の仕方はほとんど同じです。対処の方向も共通していて、野良Excelにサポートの境界線を引くのと同様、使わせないのではなく、使ってよい場所を用意して線を引くことが出発点になります。

なお、総務省の『令和8年版 情報通信白書』(2026年)によれば、生成AIの活用に関して懸念されるリスクは、日本では「社内情報の漏えいなどのセキュリティリスクがある」と回答した割合が最も高く、次いで「出力結果の精度に問題がある」との回答が続きます。懸念自体は共有されている一方で、対処が追いついていないのが実情です。

法律上、どこから問題になるのか

ルールを作る前に、法的な線がどこにあるかを押さえておく必要があります。ここが曖昧なまま「注意して使うこと」とだけ書いた規程は、判断を現場に丸投げしているのと同じです。

個人情報保護委員会は、2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しています。個人情報取扱事業者に向けた内容は、次の2点です。

  1. 生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること
  2. あらかじめ本人の同意を得ることなく個人データを含むプロンプトを入力し、当該個人データがそのプロンプトに対する応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある。そのため、こうした入力を行う場合には、当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること

ここから導かれる実務上の線引きは明快です。無料か有料かではなく、入力したデータが学習に使われるかどうかが分かれ目になります。法人向けの契約であっても設定次第で学習に使われる場合があり、逆に無料で使えるサービスでも学習に使わない設定を備えるものがあります。契約の種別だけで判断すると足をすくわれます。

また、総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日)は、AI利用者に関する事項として、AIシステム・サービスへ個人情報を不適切に入力することがないよう注意を払うこと、および機密情報等を不適切に入力することがないよう注意を払うことを挙げています。個人情報だけでなく、営業上の機密も同じ扱いで考えてください。

入力してよい情報の区分を先に決める

「機密情報の入力には注意すること」という書き方は、ルールとして成立していません。何が機密に当たるかの判断を各自に委ねているからです。情報を区分し、区分ごとに可否を示してください。

情報区分具体例学習に使われるサービス学習に使わない設定のサービス
(個人データ・重要機密)顧客の個人情報、人事評価、未公開の財務情報、自社のソースコード禁止利用目的の範囲内であることを確認したうえで、承認を得て利用
(社内限り)社内会議の議事録、社内向けマニュアル、企画書の下書き禁止許可
(公開済み・公開前提)公開済みの製品仕様、プレスリリースの案文、一般的な技術情報許可許可

この表の目的は、現場が自分で判断しなくてよい状態を作ることです。迷う余地が残っていれば、繁忙期には必ず楽なほうへ倒れます。

区分を定義したら、その区分が実際の文書のどこに書いてあるのかまで決めてください。ファイル名や保存場所と区分が対応していなければ、運用は一週間で止まります。

ルールと同時に、システム側の統制を用意する

規程の整備だけでは、守られているかどうかが分かりません。次の3つを同時に進めてください。

1. 公式に使える環境を提供する

最も効果があるのはこれです。入力データが学習に使われない設定で運用できる環境を会社として用意し、全社に開放します。現場の動機を社内に吸収しない限り、外での利用は止まりません。

提供するときは、どの業務に使えるのかを具体的に示してください。ツールだけ配って使い方を各自に任せると、利用が広がらず、結局は使い慣れた外部サービスに戻ります。着手しやすい業務の選び方は、生成AIのビジネス活用とユースケースで整理しています。

2. 利用実態を把握する

社内ネットワークからどのサービスにアクセスがあるかを把握する仕組みを入れます。新しいサービスが検出されたら、学習利用の有無と提供条件を確認し、許可するか否かを判断して一覧を更新します。この更新が止まると、一覧は数か月で実態と合わなくなります。

3. 個人の注意力に依存しない形にする

利用可否の判断を、その都度の心がけに任せないでください。許可していないサービスへのアクセスを機械的に遮断する、公式環境を既定の入口にするといった形で、手順から外れにくくします。個人のリテラシーではなく仕組みで担保するという考え方は、テレワークのセキュリティを統制で解決する設計と同じです。

運用で崩れやすい3点

  • 承認制にしたが、申請が来ない:申請の手間が業務の短縮分を上回ると、誰も申請しません。承認が必要な区分は「高」だけに絞り、それ以外は事前に許可しておくほうが実態に合います。
  • 一覧の更新が止まる:サービスは次々に増えます。更新の担当と頻度を決めていない一覧は、作った時点が最新で、以後は形骸化します。
  • 出力の扱いを決めていない:入力の規程だけを作り、出てきた内容をそのまま社外向け資料に使う運用が残っている例は少なくありません。誰が何を確認してから外に出すのかまで含めて決めてください。AIの出力をどこまで信用するかという論点は、予測AIで意思決定を自動化する範囲の決め方でも扱っています。

シャドーAIへの対処は、禁止事項を並べる作業ではありません。安全に使える経路を用意し、判断が必要な場面を減らし、外れたときに気づける状態を作ることに尽きます。

出典

  • 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)
  • 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日)第5部 AI利用者に関する事項
  • 総務省『令和8年版 情報通信白書』第Ⅰ部第2章第1節「企業におけるAI利用の現状」(2026年)