DX投資が止まらない原因は、成果が出ていないことではありません。成果が出ていないことを判定する仕組みが無いことです。判定の仕組みが無い状態では、費用は毎年自動的に承認され、効果の薄い施策ほど長く残ります。本記事では、投資対効果を測るKPIの作り方と、抵触したら止める撤退基準の設計を扱います。

評価されないまま承認される構造があります

日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2025」は、4,500社を対象に実施され981社から回答を得た調査です。同調査は、IT投資の評価について「4割近い企業でIT投資の評価を『未実施』」であり、「既存システムにかかるランニングコストの評価実施率は3割程度にとどまる」と報告しています。評価項目別の集計(回答973社)では、「評価を実施していない」と答えた企業は事前評価で35.0%、事後評価で42.8%でした。投資の前より後のほうが、評価されない割合が高くなっています。

成果の側にも差が出ています。情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2025 – 成長のためのDXに求められる取組」(調査分析ディスカッション・ペーパー2025-01)は、効率化のDXと成長のDXの両方に取り組む企業を母数として、成果の有無を次のように示しています。

対象効率化と成長の両方で成果ありいずれも成果なし
日本1,011社26.8%32.3%
米国388社80.9%5.7%
ドイツ366社77.6%6.8%

同ペーパーは、日本企業では効率化のDXで成果を上げたが成長のDXでは成果が上がっていない企業が36.7%を占め、DXの成果が効率化にとどまっている実態が分かるとしています。あわせて同ペーパーは、この調査が企業自身による主観的評価に基づいており、文化的な回答スタイルの違いの影響を受ける可能性に留意が必要だと注記しています。数字の絶対値ではなく、傾向として読む必要があります。

取組の差として同ペーパーが挙げているのが「成果指標の設定」です。成長のDXで成果を上げる米国企業では50%以上が取り組む一方、成果を上げる日本企業では50%未満にとどまる項目のひとつとして挙げられています。何をもって成果とするかを決めないまま投資が始まっている、という構図です。

指標を3階層に分け、財務に接続します

評価が機能しない原因の多くは、測っている指標が財務に接続していないことです。利用者数やログイン回数は利用状況の把握には使えますが、そのままでは投資の可否を判定できません。指標は次の3階層に分け、上の階層へ換算する式を企画段階で決めておきます。

階層測るもの確認の頻度
利用状況システムが使われているか対象部門の実利用率、入力完了率週次・月次
業務成果業務が変わったか1件あたりの処理時間、差し戻し件数、リードタイム月次
財務成果損益が変わったか人件費・外注費の削減額、機会損失の回避額四半期・半期

この3階層を持つと、「使われているが業務時間は減っていない」「業務時間は減ったが費用は減っていない」という状態を切り分けられます。切り分けができて初めて、追加投資すべきか止めるべきかを議論できます。

換算の式は、企画書の承認条件にします。たとえば「1件あたり10分の短縮 × 月間処理件数 × 時間単価」という形で、誰が計算しても同じ数字になるところまで書きます。式を後から作ると、出た数字に合わせた式が作られます。

撤退基準は、予算の承認と同時に決めます

投資を承認する起案に、次の3つが揃っていない場合は差し戻す運用にします。

  1. 判定指標と目標値:3階層のどの指標を、いつまでにどこまで動かすか。
  2. 判定の時期:本稼働から何か月後に判定するか。日付で指定します。
  3. 未達時の扱い:目標を下回った場合の改善期限と、期限を過ぎたときの停止手順。

3つ目が最も抜けやすい項目です。ここが空欄のまま承認された投資は、判定の時期が来ても議論が「もう少し様子を見る」で終わります。撤退の条件は、まだ費用を投じていない承認の段階でしか合意できません。プロジェクト単位で同じ設計を行う方法はプロジェクト計画書に撤退基準を書く手順で、段階ごとに予算を刻む方法は段階的予算承認の設計で扱っています。

既存システムは、台帳を作って毎年判定します

新規投資に基準を設けても、IT予算の大きな部分は既存システムの維持に使われます。JUAS調査が示すとおり、既存システムのランニングコストは評価の実施率が最も低い領域です。ここを扱うには、全社のシステムを1枚の台帳に並べ、毎年同じ項目で判定する運用が要ります。台帳に持つ項目は、判定に必要な4つに絞ります。

  • 年間費用:保守費、インフラ費、ライセンス費、改修委託費の合計。
  • 実利用率:発行アカウント数に対する実際の利用者数の割合。
  • 代替可能性:全社で導入済みの別のシステムで置き換えられるか。
  • 業務上の必要性:法令や取引先の要請で保持が必要かどうか。

この4項目で、継続・統廃合・廃止・期限付き保持のいずれかに振り分けます。判定の基準値は各社の実情で決めて構いませんが、毎年同じ基準で通すことが条件です。年ごとに基準が動くと、声の大きい部門のシステムが残ります。

廃止を通知すると、現場からは業務が回らなくなるという反対が出ます。ここで有効なのは反論ではなく数字です。実利用率が低いという事実と、代替手段の有無を台帳の同じ行に並べておけば、議論は事実の確認に収まります。

運用でつまずく3つの箇所

目標値を稼働後に決める。 稼働してから指標を選ぶと、良い数字が出た項目が指標になります。判定指標は承認の条件として先に固定します。

評価を推進部門が行う。 推進した部門が事後評価も担うと、評価は報告になります。財務部門または投資を審査する会議体が、同じ式で判定する構造にします。全社の事業単位で同じ考え方を使う場合は、経営戦略に撤退基準を組み込む方法が参考になります。

停止の手順を書いていない。 止めると決めても、契約期間、データの移行先、代替手段の用意が決まっていなければ実際には止まりません。撤退基準には、判定だけでなく停止の手順まで含めます。

投資対効果を高める作業は、良い道具を選ぶことよりも、効果の出なかった投資を毎年一定量やめ続けることに近いものです。今年の予算のうち、判定の時期と未達時の扱いが書かれている投資が何割あるか。そこから確かめてください。