プレイングマネージャーとは、部下を管理する役割を持ちながら、自分でも実務の担当を持つ管理職のことです。産業能率大学が2021年に実施した調査では、上場企業の課長の99.5%、部長の96.9%がプレイヤーとマネジャーを兼務していました。少なくとも上場企業の管理職にとって、兼務は例外ではなく標準に近い姿です。
限界が来る原因は、本人の能力ではありません。実務には顧客や取引先から来る締切があり、管理の仕事にはそれが無いため、時間の奪い合いになると必ず実務が勝つという構造にあります。この記事では、兼務の実態を数字で確かめたうえで、限界が来る仕組み、自分の時間配分の診断、実務の上限と評価の配分の決め方を扱います。
兼務の実態
産業能率大学の「第6回上場企業の課長に関する実態調査」(2021年、828人が回答)では、99.5%の課長がプレイヤーとマネジャーを兼務しており、業務に占めるプレイヤーとしての仕事の割合は加重平均で50.1%でした。約半数が、プレイヤーとしての活動がマネジメント業務に支障があると答えています。
同じ時期の「第2回上場企業の部長に関する実態調査」(2021年、385人が回答)でも、96.9%の部長が兼務しており、プレイヤーとしての仕事の割合は加重平均で43.9%でした。部長になっても、業務の4割以上が実務です。
2023年に実施された「第7回上場企業の課長に関する実態調査」を紹介した産業能率大学総合研究所の記事では、94.9%の課長が自身をプレイングマネジャーだと認識していると報告されています。
兼務を前提に回っている部署で「プレイヤーをやめて管理に専念すべきだ」と助言しても、担当案件の引き継ぎ先が無ければ実行できません。現実的なのは、兼務を前提に、実務と管理の配分を決めることです。
限界が来る仕組み
締切の強さが違う。 実務の締切は、顧客や取引先から外から決められます。一方、部下との面談、仕事の仕組みの見直し、育成のための仕事の割り振りには、外からの締切がありません。忙しくなると、締切の無い管理の仕事から後回しになります。
自分でやる方が早い。 実務に慣れた管理職ほど、部下に任せるより自分でやる方が早く、質も高くなります。1回ごとに比べると、任せない判断が毎回正しく見えます。この計算違いは仕事の任せ方|任せられない原因と渡すときの伝え方で扱っています。
評価が実務の成果で決まる。 管理職の評価が、本人の担当案件の数字で決まっていると、管理に時間を使うほど評価が下がります。
判断が詰まる。 管理職が実務に集中している間、部下からの相談や決裁は待たされます。部下が止まっている時間は、管理職の実務の成果の陰に隠れて見えません。
この4つが重なると、管理職は実務の成果を出し続けながら、部署としての成果は伸びないという状態になります。部下が育たないため実務を手放せず、手放せないため部下が育たない、という循環です。
自分の時間配分を診断する
まず2週間、30分単位で時間の使い方を記録し、次の5つに分けます。
| 区分 | 含まれる仕事 | 記録した時間 |
|---|---|---|
| 自分の担当案件 | 顧客対応、資料作成、作業 | (記入) |
| 判断と承認 | 部下の相談への回答、決裁 | (記入) |
| 育成と評価 | 面談、仕事の振り返り、評価 | (記入) |
| 報告と調整 | 上位への報告、他部署との打ち合わせ | (記入) |
| 仕組みの見直し | 手順の改善、再発防止 | (記入) |
記録と合わせて、次の項目も確かめます。当てはまる数が多いほど、実務が管理の役割を押し出しています。
- 部下との面談を、自分の担当案件の締切を理由に延期したことがある
- 部下からの相談に、翌日以降にしか答えられないことがよくある
- 自分しか対応できない顧客や案件がある
- 仕組みの見直しに使った時間が、2週間でほとんど無い
- 休暇中も、自分の担当案件の連絡に対応している
役割の配分を決める手順
1. 実務の上限を決める
担当案件の数、または週のうち実務に使う時間の上限を決めます。一律の正解は無いので、部下の人数と経験で変えます。部下が多い、または経験の浅い部下が多いほど、上限を低くします。上限は、本人と上位の管理職が合意して、役割記述書などの文書に書いておきます。
2. 手元に残す案件を選ぶ
上限を決めたら、どの案件を手元に残すかを選びます。
| 案件の種類 | 扱い |
|---|---|
| 部下が担当できる定型の案件 | 部下に渡す |
| 部下が経験を積むのに向いた案件 | 中間点を置いて部下に渡す |
| 難度が高く、部下に経験させたい案件 | 部下を主担当、管理職を補佐にする |
| 管理職でなければ対応できない案件 | 手元に残し、部下を同行させる |
最後の行の案件も、部下を同行させることで、いずれ渡せる案件に変えていきます。
3. 評価の配分を明文化する
管理職の評価項目に、部署の成果、部下の育成、仕組みの改善を入れ、本人の担当案件の比重を決めます。配分が決まっていないと、1と2で決めた上限は、評価の時期が近づくと崩れます。管理職の役割全体の書き出し方は、管理職の役割とは|中間管理職の仕事内容と優先順位で扱っています。
4. 代わりに判断できる人を置く
管理職が実務で手が離せない時間に備え、一定の範囲の判断を代わりに行う人を決めます。判断の範囲は、決裁権限規程の上限の中で決めてください。
5. 四半期ごとに見直す
四半期ごとに時間の記録を取り直し、上限が守られているか、部下の相談の待ち時間が短くなったかを確かめます。
実行時の落とし穴
- 上限を決めても、繁忙期に破る。 繁忙期こそ管理の役割が必要になります。繁忙期の扱い(どの管理の仕事を何週間まで止めてよいか)を先に決めておきます。
- 手放した案件の評価が、部下に付かない。 部下に渡した案件の成果を管理職の成果として報告し続けると、部下の意欲が下がり、また管理職に戻ってきます。
- 雑務を実務と別に数えない。 集計、申請の処理、会議の資料などの雑務が、実務でも管理でもない時間を占めていることがあります。雑務の切り分けは管理職に雑務が多い根本原因。BPRで実現する権限委譲の設計で扱っています。
- 一人で抱え込む。 配分を変える過程では、一時的に部署の成果が下がることがあります。上位の管理職が配分の変更を支持していることを、事前に部署の内外に示しておきます。疲弊を防ぐ支援の仕組みは中間管理職が疲弊する構造と支援体制の設計で扱っています。



