管理職の役割は、次の5つに整理できます。①部署の目標を計画に落とす、②仕事を割り振り、判断する、③部下を育て、評価する、④上・下・横の部署をつなぐ、⑤仕事の仕組みを直す。どれも部下を持つ立場でなければできない仕事で、自分がプレイヤーとして成果を出すこととは別のものです。

中間管理職が「忙しいのに成果が見えない」状態に陥るのは、この5つの役割が会社の中で書かれておらず、評価もされていないためです。この記事では、役割ごとの仕事内容を示したうえで、役割が果たせなくなる構造と、役割を書き出す手順を扱います。

管理職の5つの役割と仕事内容

役割主な仕事内容成果の見え方
1. 目標を計画に落とす会社や上位部門の目標を、部署の数字と行動の計画に分ける。四半期・月の区切りで進み具合を確かめる部署の目標の達成度、計画と実績の差の説明
2. 仕事を割り振り、判断するだれに何を任せるかを決める。部下の決裁の範囲を超える判断をする。優先順位を決める判断の速さ、部下が止まっている時間の短さ
3. 部下を育て、評価する仕事を通じて経験を積ませる。面談で目標を合わせ、評価をつけ、理由を伝える部下ができる仕事の幅、評価への納得
4. 上・下・横をつなぐ上位の方針を部下に説明し、現場の事実を上に報告する。他部署と調整する情報の遅れや食い違いの少なさ
5. 仕事の仕組みを直す同じ問題が繰り返し起きる原因を探し、手順や分担を変える同じ種類のミスや手戻りの減り方

この表で見ると、管理職の成果の多くは「部下や部署がどうなったか」で現れます。管理職自身の作業量では測れません。

5つめの役割は見落とされやすいものです。部下の失敗を個人の不注意として処理すると、同じ失敗が別の人で繰り返されます。失敗が起きた手順のどこに穴があったかを探し、手順を直すのは、部下ではなく手順を変える権限を持つ管理職の仕事です。

中間管理職の仕事内容を1週間で見る

役割を実際の時間に落とすと、次のような配分になります。数字は目安を考えるための見本で、部署の人数や業務の性質で変わります。

時間の使い方1週間の中の例対応する役割
部署の定例と、計画の見直し週1回の定例、月初の計画の確認1
判断と承認部下からの相談への回答、決裁2
部下との面談1人あたり隔週に1回の面談3
上位への報告と、他部署との調整部門会議、関係部署との打ち合わせ4
仕組みの見直し手戻りの原因の分析、手順書の改訂5
自分の担当案件プレイヤーとしての実務―

最後の行の「自分の担当案件」が大きくなるほど、上の5つの時間は削られます。産業能率大学が2021年に実施した「第6回上場企業の課長に関する実態調査」では、99.5%の課長がプレイヤーとマネジャーを兼務しており、業務に占めるプレイヤーとしての仕事の割合は加重平均で50.1%でした。実務を抱えながら5つの役割を果たすには、役割の側から時間を先に確保しておく必要があります。プレイヤーとの兼務の配分はプレイングマネージャーとは|限界の原因と役割の配分で扱っています。

役割が果たせなくなる構造

役割が書かれていない。 管理職に昇進したときに、何が仕事になり、何が仕事でなくなるのかを文書で示さない会社は少なくありません。書かれていない役割は、目の前の実務と調整に押し出されます。

役割に権限が伴っていない。 部下の評価をつける役割があるのに、評価の結果が上位で覆される。仕事を割り振る役割があるのに、人員の配置を決められない。役割だけがあって権限が無いと、管理職は上下の間で伝言をするだけになります。この構造は中間管理職の板挟みを解消する権限委譲と意思決定の高速化で扱っています。持つべき権限の中身は、管理職の権限とは|課長・部長の違いと管理監督者にまとめています。

評価がプレイヤーの成果に偏っている。 管理職の評価が、本人の担当案件の数字で決まると、5つの役割に時間を使うほど評価が下がります。

雑務が集まっている。 申請の承認、会議の議事録、各種の集計などが管理職に集まり、役割に使う時間が残らない状態です。雑務の切り分けは管理職に雑務が多い根本原因。BPRで実現する権限委譲の設計で扱っています。

自社の状態は、次の項目で確かめられます。

  • 管理職に昇進したときに、役割を書いた文書を渡していない
  • 管理職の評価項目に、部下の育成や仕組みの改善が入っていない
  • 管理職がつけた部下の評価が、理由の説明なく上位で変わることがある
  • 管理職が、自分の担当案件の締切を理由に面談を延期することが多い
  • 管理職の予定の大半が、他部署との調整や報告の会議で埋まっている

役割を書き出す手順

役割は、1人1枚の役割記述書にまとめます。項目の見本は次のとおりです。

項目書く内容
役職と管理する範囲課・チームの名前、部下の人数
5つの役割ごとの期待役割1〜5について、この役職で何をしてほしいか
持っている権限決裁の上限、評価の権限、人員の配置、残業の命令など
持っていない権限上位に上げる必要がある判断
自分の担当案件の範囲プレイヤーとして持つ案件と、その上限
評価の配分部署の成果・育成・自分の担当案件の比重
見直しの時期年に1回など

書き出しは、次の順に進めます。

  1. 現状を記録する。 管理職本人に、2週間の時間の使い方を記録してもらいます。
  2. 役割との差を見る。 記録を5つの役割に当てはめ、どの役割に時間が使われていないかを確かめます。
  3. 権限を役割にそろえる。 役割があるのに権限が無い箇所を、決裁権限規程や評価の手続きで直します。
  4. 評価の配分を決める。 役割記述書の「評価の配分」を、人事評価の項目に反映します。
  5. 上位の管理職と合わせる。 部長と課長の役割記述書を並べ、役割が重なっている箇所と、だれも持っていない箇所を直します。

実行時の落とし穴

  • 役割を書いて終わる。 役割記述書を作っても、権限と評価が変わらなければ、行動は変わりません。3と4の手順を省かないでください。
  • 理想の役割を詰め込む。 すべての役割に満点を求めると、書かれた内容と実態の差が大きくなり、文書が読まれなくなります。役職ごとに重点の役割を2つほど決めます。
  • 管理職と管理監督者を混同する。 社内で管理職とされていても、労働基準法の管理監督者に当たるかどうかは、職務内容・責任と権限・勤務態様・待遇の実態で判断されます(厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」)。役割記述書で権限を書くことは、この実態を確かめる材料にもなります。個別の扱いは、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家に確認してください。
  • 一人で抱え込ませる。 役割を明確にするほど、管理職の責任は重くなります。困ったときに上げる先と支援の仕組みを同時に用意します。支援の仕組みは中間管理職が疲弊する構造と支援体制の設計で扱っています。

出典