「渡されるリードの質が低い」と主張する営業と、「獲得したリードをフォローしていない」と主張するマーケティング。この対立は、どちらかの怠慢ではなく、両部門が「良質なリード」を異なる基準で判断していることから生まれます。リードスコアリングは、この基準を数値でそろえるための手段ですが、数値を導入するだけでは対立は収まりません。本記事では、対立が起きる構造と、スコアリングおよびSLA(サービスレベルアグリーメント)の設計手順を整理します。

なぜ基準がすれ違うのか

マーケティング部門は、リードの「獲得数」や「CPA(顧客獲得単価)」を主な指標として追います。広く網を張ることが評価につながるため、購買意欲が定まっていない層まで含めてリードとして計上しやすくなります。一方、営業部門は「成約数」や「受注率」を追うため、購買意欲が明確な層だけを「良質なリード」とみなします。

どちらの基準も、それぞれの部門の評価指標に照らせば合理的です。問題は、この基準のすり合わせを行わないまま、リードの受け渡しだけが日常的に発生している点にあります。共通の定義がない状態で「質が低い」「フォローしていない」という言葉が交わされても、議論は水掛け論から進みません。標準化されていない業務にツールだけを接ぎ木すると期待した効果が出ないという構造は、AI導入で工数が増える原因で扱った問題とも共通しています。

対立を防ぐ土台:SLA(サービスレベルアグリーメント)

もともとIT業界でサービス提供者と利用者の間の合意に使われてきたSLAという枠組みは、営業とマーケティングの連携にも使われています。ここでのSLAとは、両部門の間で「どのようなリードを」「いつまでに」「どのようにフォローするか」を明文化した合意です。

SLAに盛り込む項目として、次のようなものが挙げられます。

項目内容の例
リードの定義営業が受け取る対象を、スコアや行動条件で明確化する
提供数量マーケティングが一定期間に提供するリード件数の目安
対応時間インサイドセールス・営業が対応に取りかかるまでの時間
アクション内容フォローの方法(架電・メールなど)と実施順序

SLAを設計する手順としては、事業全体のゴールを先に定め、両部門の共通目標に落とし込んだうえで、達成に向けた戦略とKPIを具体化していく進め方が紹介されています。数値の合意から入るのではなく、ゴールから逆算して条件を決める点がポイントです。

スコアの設計手順

スコアリングは、次の3種類の情報を組み合わせて設計します。

  1. 属性情報:業界、企業規模、役職など。受注実績のある企業属性をもとに初期スコアを設定する
  2. 興味・関心:資料のダウンロードやコンテンツの閲覧など、能動的な行動から関心の度合いを判定する
  3. 行動情報:セミナー参加や自社サイトへの訪問回数など、購買検討の進み具合を示す行動を計測する

配点を決める際は、実際に受注へつながった案件の傾向を踏まえ、営業側の意見を強く反映させることが望ましいとされています。マーケティング側の指標だけで配点すると、スコアが高くても実際の受注確度が低いリードが増え、営業側の不信感につながります。

すべての行動を点数化する必要はありません。購買検討の進み具合と関係の薄い行動まで点数化すると、スコアの精度がかえって下がります。

MQL・SQLという共通言語で段階を分ける

配点ができたら、スコアの区切りに名前を付けます。よく使われるのが、MQL(Marketing Qualified Lead)とSQL(Sales Qualified Lead)という区分です。MQLは、資料請求や問い合わせなどを通じてある程度の購買意欲が確認できた、マーケティングが引き続きコミュニケーションを担当すべき段階のリードを指します。SQLは、ニーズがすでに確認され、営業が商談化に向けてアプローチすべき段階のリードを指します。

この区分がないと、「マーケティングが渡すリード」と「営業が本気で追うリード」の境目が曖昧なままになります。スコアが一定の閾値を超えた時点でMQLと認定し、営業側の接触を経てSQLへ引き上げる、という2段階の流れをSLAに明記しておくと、どちらの部門がいつまで責任を持つかがはっきりします。

閾値の設定は、最初から精緻な数値を狙う必要はありません。仮の閾値で運用を始め、実際に受注につながった顧客のスコア分布を見ながら調整していく進め方が実務では取られています。閾値を高く設定しすぎるとMQLの数が減り、低く設定しすぎると質の低いリードが営業に渡り続けるため、どちらに寄せすぎているかを定期的に点検してください。

運用開始後に崩れやすい点

  • 配点を決めたきり見直さない:市場や製品ラインナップが変われば、有効なリードの条件も変わります。スコアと実際の受注結果を定期的に突き合わせ、配点を更新する場を、SLAを作る段階で決めておく必要があります。
  • 合意した対応時間が守られているか確認しない:SLAで対応時間を決めても、実際に守られているかを追跡していなければ、形骸化に気づけません。
  • スコアの計算根拠を現場に説明していない:スコアの内訳がブラックボックスのままだと、営業はスコアそのものへの不信感を持ちます。どの情報がどれだけ加点されているかを、少なくとも管理職には開示してください。

スコアリングと合わせて、渡した後のフォローを自動化する取り組みも進んでいます。営業日報のコメント自動化は、フォロー状況の記録と報告にあたる部分で関連します。

リードスコアリングは、営業とマーケティングの主観のずれを数値で埋める手段です。ただし数値をはじき出す仕組みだけでは機能しません。配点の決め方と、対応時間・フォロー方法の合意を、SLAという形で先に固めることが、対立を防ぐための前提になります。生成AIを使ったマーケティング業務全体の設計は、生成AIマーケティング戦略の作り方で整理しています。

出典

  • MarketOne「BtoBの分業制で役立つ営業・マーケティングのSLAとは何か?」
  • MarketOne「リードスコアリングを機能させるための部門間連携・データ戦略とは?」
  • 日立ソリューションズ「リードスコアリングとは?メリットややり方、注意点を解説」
  • セールスフォース・ジャパン「MQLとSQLの違いとは?定義から基準設定、部門連携強化で売上を最大化する方法」