集団意思決定とは、複数の人が関わって一つの結論を出すことです。会議での決定、稟議での承認、取締役会の決議はいずれも集団意思決定にあたります。集団で決める利点は、一人では集められない情報や視点を持ち寄れることと、決まったことへの納得を得やすいことです。一方で、時間がかかる、周りに合わせた結論になりやすい、誰が決めたのかが曖昧になる、という弱点もあります。会議で物事が決まらない組織の多くは、議題の性質にかかわらず同じ決め方、特に「全員が納得するまで話す」決め方を使っています。この記事では、集団意思決定の代表的な4つの決め方を比べ、議題に合わせて決め方を選ぶ手順と、集団で決めるときに起きやすい偏りの防ぎ方を説明します。
集団意思決定の4つの決め方
| 決め方 | 進め方 | 長所 | 短所 | 向いている議題 |
|---|---|---|---|---|
| 全員一致 | 全員が賛成するまで話し合う | 決まったあとの実行で抵抗が少ない | 1人の反対で止まる。時間がかかる。妥協案に落ち着きやすい | 全員の協力がないと実行できず、取り消しにくい議題 |
| 多数決 | 賛否を数え、多い方に決める | 速い。手続きが分かりやすい | 少数意見の中身が検討されずに終わることがある | 選択肢がはっきりしていて、参加者の立場が対等な議題 |
| 協議のうえ責任者が決める | 意見を聞いたうえで、決める人が一人で決める | 速く、責任の所在がはっきりする | 責任者が意見を聞かないと、集団で話す意味がなくなる | 責任者が結果に責任を負い、判断材料を集められる議題 |
| 委任 | 決める権限を担当者や小さな会議に渡す | 最も速い。現場の情報で決められる | 委任の範囲が曖昧だと、あとで覆される | 取り消しがきき、影響の範囲が限られる議題 |
どの決め方にも長所と短所があり、一つの決め方ですべての議題を扱うと、どこかで無理が出ます。「全員の納得」を目指す会議が長引くのは、全員一致が向いていない議題にまで全員一致を使っているためです。
法律で決め方が決まっている集団意思決定
取締役会のように、決め方が法律で定められている集団意思決定もあります。会社法第369条は、取締役会の決議を、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数で行うと定めています(定款でこれを上回る割合を定めることもできます)。同条第2項は、決議について特別の利害関係を持つ取締役は議決に加われないとし、第5項は、決議に参加した取締役で議事録に異議をとどめない者は、その決議に賛成したものと推定すると定めています。
この仕組みには、社内の会議にも応用できる考え方が含まれています。決め方(何人が出席し、何人の賛成で決まるか)を先に決めておくこと、利害のある人を決定から外すこと、反対した人はその意思を記録に残すこと、の3つです。取締役会の議題の組み方は、役員会議のアジェンダを決議事項に絞る設計手順で扱っています。
決め方を選ぶ判断材料
議題ごとに決め方を選ぶときは、次の3つの問いで考えます。
- その判断は取り消せるか。 Amazonのジェフ・ベゾス氏は2016年の株主への手紙で、多くの決定は取り消しがきく「両開きの扉(two-way doors)」であり、そうした決定には軽い手続きを使えると書いています。取り消しがきく判断は、委任や責任者の決定に回せます。
- 影響がどこまで及ぶか。 影響が一つのチームに収まる判断は、そのチームの責任者に委ねられます。複数の部門に及ぶ判断は、影響を受ける部門の意見を聞く手続きが要ります。
- 実行に誰の協力が要るか。 決まったあとに多くの人の協力が要る判断ほど、決める前に意見を聞く範囲を広げます。ただし、意見を聞くことと、全員の賛成を条件にすることは別です。
| 取り消し | 影響の範囲 | 決め方の目安 |
|---|---|---|
| きく | 狭い | 委任 |
| きく | 広い | 協議のうえ責任者が決める |
| きかない | 狭い | 協議のうえ責任者が決める |
| きかない | 広い | 協議のうえ責任者が決める。実行に全員の協力が欠かせない場合に限り全員一致 |
集団で決めるときに起きやすい偏り
周りに合わせた結論になる
集団では、反対意見を言い出しにくい雰囲気が生まれ、実際には疑問を持つ人がいても、全員が賛成しているように見える結論になることがあります。こうした同調の圧力が強まった状態の兆候と対策は、「前例がない」で却下される組織の罠とグループシンク対策で扱っています。
誰が決めたのかが曖昧になる
全員で決めたことは、うまくいかなかったときに誰の判断だったのかがはっきりしません。責任の所在が曖昧なまま同じ決め方を続けると、見直しの判断も遅れます。決める人と責任を一致させる方法は、責任の所在を明確にした決断の仕組みで扱っています。
反対が「決定を止める権利」になる
全員一致を前提にすると、反対する人は決定を止められるため、反対の理由を詰める必要がなくなります。ベゾス氏は同じ手紙で、合意がなくても進めるときに使う言葉として「disagree and commit(反対だが、決まったことには全力で取り組む)」を挙げています。反対意見は聞き、記録に残し、そのうえで決まったことには従う、という線を先に引いておくと、反対が決定を止める道具になるのを防げます。
決め方を社内に定着させる手順
- 議題ごとに決め方をアジェンダに書く。 「この議題は部長が決める」「この議題は多数決」のように、会議の前に決め方を示します。
- 決める人を名前で書く。 「協議のうえ責任者が決める」議題では、責任者の名前を書きます。
- 意見を聞く期限を決める。 意見を聞く期間を区切り、期限を過ぎたら責任者が決めることを先に伝えます。
- 反対意見を記録する。 反対した人の意見と理由を議事録に残し、見直しの条件(いつ、何を見て再検討するか)を書きます。
- 決め方が合っていたかを振り返る。 決定のあとで、決め方が議題に合っていたかを確かめ、次の議題で使い分けを直します。
運用で起きやすい失敗
- 「責任者が決める」が、意見を聞かない言い訳になる。 協議を省くと、責任者の判断材料が偏ります。意見を聞いたことが記録で確かめられる形にしてください。
- 多数決を、負けた側への説明なしに使う。 決め方を事前に確かめていない多数決は、手続きへの不満を残します。
- 委任したあとで覆す。 委任した判断を上位者が覆すと、次から委任された側が判断しなくなります。覆す条件を委任の時点で決めておきます。
- 決め方を決めずに会議を始める。 決め方が決まっていない会議は、話し合いが尽きるまで終わりません。決め方を先に決める考え方は、決め方を先に決める意思決定の設計も参考にしてください。
まとめ
- 集団意思決定とは、複数の人が関わって一つの結論を出すことで、全員一致・多数決・協議のうえ責任者が決める・委任の4つの決め方がある
- 決め方は、取り消せるか・影響の範囲・実行に要る協力の3つの問いで選ぶ
- 取締役会の決議の規定(決議の要件、利害のある人の除外、異議の記録)は、社内の会議の設計にも応用できる
- 反対意見は聞いて記録に残し、決まったことには従う線を先に引いておく
出典
- 会社法(平成17年法律第86号)第369条 — e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- Jeff Bezos「2016 Letter to Shareholders」(Amazon、2017年4月公開) https://www.aboutamazon.com/news/company-news/2016-letter-to-shareholders




