SaaSの請求額が毎年少しずつ増えている。何にいくら払っているのか、全体を把握している人がいない。
SaaSの費用が増え続ける原因は、単価の上昇ではありません。導入時に稟議を通したあと、使われているかどうかを誰も見ていないことです。契約は自動で更新され、使われなくなったライセンスにも毎月費用が発生し続けます。
本記事では、使われていないライセンスの見つけ方と、更新前に判断するためのルールを整理します。
買い切りの予算管理を、SaaSに当てはめている
費用が膨らむ構造は、予算管理の考え方にあります。
| 買い切りのソフトウェア | SaaS | |
|---|---|---|
| 費用の発生 | 購入時に1回 | 使い続ける限り毎月・毎年 |
| 判断のタイミング | 購入時の稟議 | 導入時と、更新のたび |
| 使われなくなったとき | 追加の費用は発生しない | 解約するまで費用が発生し続ける |
| 利用人数の変化 | 関係ない | 人数分の費用が発生する |
多くの組織では、SaaSも買い切りと同じく導入時の稟議だけで判断を終えています。更新時に「まだ必要か」「人数は適正か」を判断する工程がありません。
その結果、次のような費用が気づかれずに残ります。
- 退職者・異動者のアカウント分のライセンス
- 導入したがほとんど使われなかったツール
- 別のツールに乗り換えた後も、解約していない旧ツール
- 同じ機能のツールを、部署ごとに別々に契約している重複分
使われていないライセンスを見つける
手順1:契約を洗い出す
情報システム部門の管理台帳だけでは足りません。経費精算の明細と、法人カードの利用履歴から拾います。部門が個別に契約したツールは、ここにしか記録がありません。
洗い出しの方法と、台帳にどの項目を持たせるかはSaaS管理台帳の作り方で扱っています。
手順2:最終ログイン日時を確認する
多くのSaaSは、管理画面でユーザーごとの最終ログイン日時を確認できます。CSVで出力できるものも少なくありません。
| 最終ログイン | 判定 | 対処 |
|---|---|---|
| 30日以内 | 利用中 | 継続 |
| 31〜90日 | 利用が低調 | 所属部署に要否を確認 |
| 91日以上 | 実質的に未使用 | 原則として削除、必要なら理由を記録 |
| ログイン履歴なし | 一度も使われていない | 削除 |
91日以上ログインがないアカウントは、退職者・異動者であることが多いです。人事の入退社情報と突き合わせると、削除の判断がすぐにつきます。
手順3:機能の重複を確認する
同じ用途のツールを複数契約していないかを確認します。よく重複するのは次の領域です。
- Web会議、チャット
- ファイル共有・ストレージ
- タスク管理・プロジェクト管理
- 電子署名、アンケート作成
重複を見つけても、すぐに片方へ寄せる必要はありません。寄せることで削減できる額と、現場の業務に合わないツールを使わせることによる生産性の低下を比べて判断します。
更新前に判断するルール
使われていないライセンスを一度整理しても、見直す工程がなければ再び増えます。更新のたびに判断が入る仕組みを作ります。
ルール1:更新日の3か月前に見直しを始める
自動更新の多くは、更新日の30〜90日前までに解約や条件変更を通知しないと、同じ条件で継続されます。更新日を知ったのが更新後だったという事態は、この仕組みを知らないと必ず起きます。
台帳に更新日を持たせ、3か月前に担当者へ通知が届くようにしてください。
ルール2:更新時に確認する3つの数字
| 確認項目 | 見るもの | 判断 |
|---|---|---|
| 利用率 | 契約ライセンス数に対する、直近30日のアクティブユーザー数 | 70%を下回るなら、次回の契約数を減らす |
| 1人あたり単価 | 年額 ÷ アクティブユーザー数 | 契約時の想定から大きく上がっていないか |
| 代替の有無 | 既に契約中の他ツールで同じことができるか | できるなら統合を検討 |
利用率の基準は業種や用途で変わりますが、判断の基準を事前に数字で決めておくことが重要です。決めていないと、「念のため残しておく」が繰り返されます。
ルール3:部門と全社で、判断を分担する
| 役割 | 担当 | 理由 |
|---|---|---|
| 台帳の管理、更新日の把握 | 情報システム部門または管理部門 | 全体を横断して見られるのはここだけ |
| 利用状況のデータ抽出 | 同上 | 管理画面へのアクセス権が必要 |
| 継続の要否の判断 | 利用している部門 | 業務に必要かどうかは現場にしか分からない |
| 予算の確保 | 利用している部門 | 費用対効果の責任を持つのは使う側 |
判断まで全社側に寄せると、申請が遅くなり、部門が経費精算で個別に契約し始めます。そうなると台帳から漏れ、費用がさらに見えなくなります。全社が持つのは把握と通知まで、判断は部門、という分担が回ります。
削減を進めるときの注意
退職者のアカウント削除は、費用より先にセキュリティの問題
使われていないライセンスの中に退職者のアカウントがあった場合、それは費用の問題である前に情報漏洩の経路です。退職後もログインできる状態が残っていることになります。
入退社の手続きに、SaaSアカウントの停止を組み込んでください。
年額の削減目標を先に置かない
「SaaS費用を年20%削減」のような目標を先に置くと、必要なツールまで削られます。現場は削られた機能を補うために、無料ツールや個人アカウントを使い始めます。
削減は、使われていないものを外した結果として出るものです。目標にするのは削減額ではなく、全契約の利用状況が把握され、更新前に判断されている状態です。
まとめ
- SaaSの費用が増えるのは、導入時の稟議だけで判断を終え、更新時に見直さないためです
- 未使用のライセンスは、最終ログイン日時で見つけます。91日以上は原則削除、人事情報と突き合わせます
- 更新日の3か月前に見直しを始めてください。自動更新は数十日前の通知が必要なことが多くあります
- 更新時は利用率・1人あたり単価・代替の有無の3つを見ます。基準は事前に数字で決めておきます
- 把握と通知は全社、継続の判断は利用部門。判断まで全社に寄せると、見えない契約が増えます
脱Excelやデータ統合基盤の費用対効果の見方は、脱Excelが進まない原因を解消するデータ統合基盤の構築手法で扱っています。



