稟議とは、決める権限を持つ人(決裁者)に、起案した人が文書で判断を求め、関係する人に順に回して承認を得る社内の手続きです。決裁は、その手続きの最後に決裁者が行う「決める行為」を指します。つまり、稟議は手続きの名前で、決裁はその中の1つの行為です。

稟議の仕組みは法律で決まっているものではなく、会社ごとの規程で決まります。そのため、同じ「稟議」という言葉でも、会社によって回す範囲や決裁者の決め方が違います。この記事では、稟議にまつわる用語と流れを整理したうえで、会社法との関係、決裁基準の決め方、稟議が形だけになる理由と直し方を扱います。

稟議にまつわる用語

稟議の話が噛み合わない原因の1つは、用語の使い方が人によって違うことです。社内で次のように定義をそろえておくと、規程を読むときの迷いが減ります。

用語意味(一般的な使い方)
稟議起案から決裁までの一連の手続き
起案稟議の文書を作り、手続きを始めること
回議起案した文書を、関係者に順に回して意見や承認を得ること
合議(あいぎ)起案した部署以外の、関係する部署の同意を得ること
決裁権限を持つ人が、実行するかどうかを最終的に決めること
専決規程で定めた範囲について、本来の決裁者に代わって下位の役職者が決裁すること
代決決裁者が不在のときに、あらかじめ定めた人が代わりに決裁すること

「決裁」と「承認」を同じ意味で使う会社もありますが、回議の途中で押される承認と、最後の決裁は役割が違います。途中の承認は確認や同意、最後の決裁は決定です。この区別があいまいだと、だれが決めたのかが分からない稟議になります。

稟議の流れ

稟議は、次の5つの段階で進みます。

  1. 起案。 起案者が稟議書を作ります。何を・いくらで・なぜ行うか、ほかの案と比べてどうか、リスクは何かを書きます。書き方と例文は稟議書の書き方と例文|購入・契約・採用の見本にまとめています。
  2. 回議・合議。 直属の上司や関係部署(経理・法務など)に回し、それぞれの観点で確認を受けます。
  3. 決裁。 決裁権限規程で定められた決裁者が、実行するかどうかを決めます。
  4. 通知・実行。 決裁の結果を起案者と関係者に知らせ、実行に移します。
  5. 保存と事後の確認。 稟議書を保存し、必要に応じて実行の結果を確かめます。

5つめは省かれがちですが、決裁した案件がどうなったかを確かめないと、決裁基準が適切だったかを見直す材料が残りません。

稟議だけでは決められない事項

稟議は社内の手続きなので、法律が会社の機関に決定を求めている事項は、稟議で決裁しても足りません。

取締役会設置会社では、会社法第362条第4項が、「重要な財産の処分及び譲受け」「多額の借財」「支配人その他の重要な使用人の選任及び解任」「支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止」などの重要な業務執行の決定を、取締役に委任できないと定めています。これらに当たる案件は、稟議で社長が決裁しても、取締役会の決議が別に必要です。

取締役会を置いていない会社でも、取締役が2人以上いる場合、会社法第348条第3項が、支配人の選任・解任や支店の設置・移転・廃止などの決定を各取締役に委任できないと定めています。

どの案件が「重要な財産」「多額の借財」に当たるかは、会社の規模や財産の状況に照らして判断されます。個別の案件については、顧問の弁護士などの専門家に確認してください。社内の決裁権限規程で線をどう引くかは、決裁権限の設計|金額基準・性質基準と事後監査の作り方で扱っています。

稟議にかける案件と、かけない案件

稟議は、判断の材料を文書で残し、関係者の確認を経て決める手続きなので、時間がかかります。すべての案件を稟議にすると、決める必要のない案件まで待たされ、本当に判断が要る案件の審査が薄くなります。どの案件を稟議にかけるかは、次のように分けて考えます。

区分例扱い
稟議にかける予算外の支出、新規の取引先との契約、人員計画にない採用、標準外の契約条項起案から決裁まで、通常の流れで回す
稟議を簡略にする予算内で金額の小さい定型の支出、既存の契約の同条件での更新決裁者1人の承認と、事後の一覧での確認にする
稟議にかけない決められた手続きによる申請(経費精算・休暇など)、日々の業務の判断申請書や業務の手順で処理する

簡略にする区分を設けないと、稟議の件数は会社の規模に比例して増え続けます。反対に、稟議にかける区分に当たる案件を口頭の了解で進める運用が広がると、だれが何を決めたのかが記録に残らなくなります。区分の線は、次の決裁基準と合わせて規程に書いておきます。

決裁基準の決め方

決裁基準は、「どの案件をだれが決めるか」の線です。線は1本ではなく、次の3つを組み合わせて引きます。

基準内容例
金額支出や取引の額で決裁者を分ける一定額までは課長、それを超えると部長
性質金額が小さくても影響が大きい案件を上位に引き上げる新規の取引先、標準外の契約条項、個人情報を社外に渡す取引
予算の内外予算で承認済みかどうかで分ける予算内は下位の決裁、予算外は上位の決裁

金額だけで線を引くと、金額が小さくても影響が大きい案件を取りこぼします。反対に、性質の基準を増やしすぎると、ほとんどの案件が上位に上がり、金額の基準の意味が無くなります。性質の基準は、過去に問題になった型から数個に絞るのが実務的です。

基準を決めたら、次の点を確かめます。

  • 決裁基準が、決裁権限規程の別表などの文書になっている
  • 会社法で取締役会などの決定が必要な事項が、規程で上位の決定とされている
  • 予算内の支出まで一律に稟議にしていない
  • 決裁者が不在のときの代決者が決まっている
  • 基準の見直しの時期が決まっている

稟議が形だけになる理由と直し方

稟議が「意味がない」と言われるとき、原因は稟議という手続きではなく、次のような運用にあります。

実行してから稟議を出す。 事後の稟議が常態化すると、稟議は追認の書類になります。緊急時の扱いを規程で決め、それ以外は事前に出す運用に戻します。

回議の承認者がだれも責任を負わない。 回す人数が多いほど、1人ひとりは「ほかの人が見ている」と考えます。決定する人を1人に決める方法は稟議の責任の所在を明確にするRACIによる単独決裁の導入で扱っています。

基準が古い。 会社の規模が大きくなっても、創業期に決めた金額の基準のままだと、小さな支出まで上位に集まります。決裁が遅い組織に共通する構造は稟議が遅い組織の共通点|意思決定を高速化する権限設計の極意で扱っています。

不確実な案件に、既存事業と同じ基準を当てる。 新規事業のように結果が読めない案件に、確実な投資回収の見込みを求めると、稟議は通らなくなります。段階ごとに判断する方法は新規事業の稟議が通らない壁を破るステージゲート型投資判断で扱っています。

出典