稟議書は、決裁する人が「やるか・やらないか」を判断するための文書です。書く順番は、件名 → 申請内容(何を・いくらで・いつ)→ 目的と理由 → 効果 → 比較した案 → リスクと対策 → 予算 が基本です。経緯や作成者の苦労は判断に使わないので、本文には書かず、必要なら添付に回します。

この記事では、稟議書の基本項目と書き方の手順を示したうえで、物品の購入・業務委託の契約・中途採用の3つの例文を載せます。後半では、書式を整えても差し戻しが減らない理由と、その直し方を扱います。

稟議書の基本項目

項目書くこと書き方の注意
件名何についての稟議か「〇〇の購入について」のように、対象と行為が一目で分かる形にする
起案日・起案者・所属提出日と申請者書式にあらかじめ欄を設ける
決裁区分決裁権限規程のどの項目に当たり、だれが決裁するかこの欄があると、回す経路の誤りが減る
申請内容何を、いくらで、いつ実行するか金額は税込か税抜かを明記する
目的と理由なぜ必要か、やらないと何が起きるか結論を1〜2文で先に書く
効果実行すると何がどれだけ変わるか時間・件数・金額など数字で書けるものは数字にする
比較した案ほかの選択肢と、選ばなかった理由「何もしない」も1つの案として書く
リスクと対策起こりうる問題と、その手当て無いと書くより、小さくても挙げておく
予算予算内か予算外か、どの費目から出すか予算外なら、どこを削るか・追加を求めるかを書く
希望決裁日いつまでに決めてほしいか理由(納期・契約の期限)も添える
添付資料見積書、仕様書、契約書案など本文で触れたものだけを付ける

書き方の手順

  1. 結論を1文で書く。 「〇〇を〇〇円で購入したいので、承認をお願いします」のように、何を求めているかを最初に置きます。
  2. 理由を、やらない場合と比べて書く。 「効率が上がる」だけでは判断できません。「やらないと、いまの状態が続いて何が起きるか」を並べると、必要性が伝わります。
  3. 比較した案を書く。 決裁者が最も気にするのは「ほかの方法は無いのか」です。見積を複数取ったなら、その比較を表にします。
  4. リスクを先に書く。 決裁者から指摘される前に、懸念とその手当てを書いておくと、差し戻しが減ります。
  5. 決裁区分と予算を確かめる。 金額と内容から、どの決裁者の権限に当たるかを規程で確かめてから回します。

例文1:物品の購入

件名: 営業部のノートパソコン入れ替えについて 決裁区分: 決裁権限規程 別表「備品の購入」/部長決裁 申請内容: 営業部のノートパソコン10台を入れ替えるため、〇〇社から購入します。総額〇〇円(税込)。納品は来月中旬を予定しています。 目的と理由: 現在の10台は導入から5年が経ち、メーカーの修理受付の期限が今年度末で終わります。故障した場合、修理ができず、担当者の業務が止まります。 効果: 起動や資料作成の待ち時間が短くなり、外出先での資料の修正が可能になります。 比較した案: ①同じ構成を3社に見積依頼し、最も安い〇〇社を選びました(比較表を添付)。②リースも検討しましたが、5年間の総額では購入の方が安くなります。③入れ替えない場合、故障のたびに代替機の手配が必要になります。 リスクと対策: データの移行中に作業が止まるため、2台ずつ週をずらして入れ替えます。古い機器のデータ消去は、消去の証明書を発行する業者に依頼します。 予算: 今年度の設備予算の範囲内です。 希望決裁日: 〇月〇日(見積の有効期限のため) 添付: 見積書3社分、比較表

例文2:業務委託の契約

件名: 経理業務の一部の外部委託について 決裁区分: 決裁権限規程 別表「業務委託契約の締結」/取締役決裁(契約期間が1年を超えるため) 申請内容: 請求書の発行と入金の照合を、〇〇社に委託します。期間は来年4月から2年間、月額〇〇円(税抜)です。 目的と理由: 経理担当2名のうち1名が来年3月に退職します。後任の採用が決まるまでの間、月末の請求業務が1名に集中し、締めの遅れが見込まれます。 効果: 経理担当の月末の作業時間を減らし、決算の準備に充てられます。 比較した案: ①派遣社員の受け入れは、教育の期間が必要で、4月からの開始に間に合いません。②〇〇社のほかに1社を比較しました(比較表を添付)。 リスクと対策: 取引先の情報を社外に渡すことになるため、秘密保持の条項と、委託先での情報の取り扱いの報告を契約に入れます。契約書案は法務担当の確認を受けています。 予算: 予算外です。退職に伴う人件費の減少分を充てることを提案します。 添付: 提案書、見積書、契約書案、比較表

例文3:中途採用

件名: 製造部の品質管理担当者1名の中途採用について 決裁区分: 決裁権限規程 別表「人員計画外の採用」/社長決裁 申請内容: 品質管理の経験者1名を、今期中に正社員として採用します。想定する年収の幅は〇〇円〜〇〇円です。 目的と理由: 取引先から品質管理の記録の強化を求められていますが、現在の担当者1名では記録と検査の両方をこなしきれず、残業が続いています。 効果: 検査の記録を取引先の求める形式で残せるようになり、担当者の残業を減らせます。 比較した案: ①社内の異動は、候補者の部署も人員が不足しているため難しいと判断しました。②記録の作業の一部を検査機器の機能で自動化する案は、機器の入れ替えが必要で来期以降になります。 リスクと対策: 採用が長引いた場合に備え、来月から記録の様式を簡素にして、現担当者の負担を減らします。 予算: 今期の人員計画には含まれていません。 添付: 求める経験と役割の説明、年収の幅の根拠

例文の金額や期間は見本です。自社の決裁権限規程に合わせて、決裁区分の欄を必ず書き換えてください。

差し戻しを減らす点検表

回す前に、次の項目を確かめます。

  • 件名だけで、何についての稟議か分かる
  • 最初の1〜2文で、何を求めているかが分かる
  • 金額が税込か税抜か書いてある
  • 「何もしない」を含め、比較した案が書いてある
  • リスクと、その手当てが書いてある
  • 予算内か予算外かが書いてある
  • 決裁区分が規程と合っている
  • 添付資料は、本文で触れたものだけになっている

その書式が回らなくなる理由と直し方

書式を整えても、差し戻しや決裁の遅れが減らないことがあります。原因は書式ではなく、書式の外にあることがほとんどです。

決裁区分の欄が無い。 だれが決めるのかが書式から分からないと、念のため全員に回す運用になります。書式に決裁区分の欄を設け、規程の別表の番号を書かせると、経路の誤りと回しすぎが減ります。

承認者が見る観点が決まっていない。 回議の途中の承認者が何を確かめるのかが決まっていないと、それぞれが自分の関心で差し戻します。承認者ごとに見る観点を決めておけば、差し戻しの理由がそろいます。多段階の承認が形だけになっている場合の見直しは、稟議のスタンプラリーを廃止し決裁を高速化するBPRで扱っています。

稟議だけでは決められない事項がある。 取締役会設置会社では、会社法第362条第4項が「重要な財産の処分及び譲受け」「多額の借財」などの決定を取締役に委任できないと定めています。こうした事項は、稟議で社長が決裁しても取締役会の決議が別に必要です。稟議の書式に「取締役会決議の要否」の欄を設けておくと、手続きの漏れを防げます。個別の案件が当たるかどうかは、顧問の弁護士などの専門家に確認してください。

事後の稟議が常態化している。 実行してから稟議を出す運用が続くと、稟議は追認の書類になり、書き方をいくら整えても判断の場になりません。緊急時の扱いを規程に書き、それ以外の事後稟議は受け付けない運用に戻す必要があります。値引きの稟議が形だけになる構造はなぜ値引き要求がやまないのか?営業の交渉力を奪う「スタンプラリー化」した稟議の罠で扱っています。

稟議の仕組みそのもの(決裁との違い、流れ、決裁基準)は、稟議とは|決裁との違いと流れ、決裁基準の決め方にまとめています。

出典