管理職の権限は、①仕事の指示、②予算の執行、③人事への関与(採用・評価・配置)、④労働時間の管理、⑤対外的な約束、の5つに分けて書き出すと整理できます。課長と部長の違いは、肩書の上下ではなく、この5つのそれぞれについてどこまで一人で決めてよいかの違いとして決めるのが実務的です。

権限の話では、もう1つ区別しておくべきことがあります。社内で管理職とされていることと、労働基準法の「管理監督者」に当たることは別だという点です。管理監督者に当たるかどうかは、役職名ではなく、職務内容・責任と権限・勤務態様・待遇の実態で判断されます。この記事では、権限の種類、課長と部長の分け方、管理監督者との違い、職務権限表の作り方を順に扱います。

管理職が持つ権限の種類

権限の種類内容決めておくこと
1. 仕事の指示部下に仕事を割り振り、優先順位を決める他部署の人に仕事を頼めるか
2. 予算の執行部署の予算の範囲で支出を決める1件あたりの上限、予算外の支出の扱い
3. 人事への関与採用の選考、部下の評価、配置の変更採用の最終決定に関わるか、評価の何次評価者か
4. 労働時間の管理勤務の割り振り、時間外労働の命令、休暇の承認残業の命令と承認をだれが行うか
5. 対外的な約束取引先との価格・納期・契約条件の約束値引きの上限、契約書に署名できる範囲

この表の右の列が空欄のままになっている会社では、管理職は責任だけを負って、決める場面では上位に伺いを立てることになります。役割と権限の食い違いが生む問題は、管理職の役割とは|中間管理職の仕事内容と優先順位でも扱っています。

課長と部長の違い

課長と部長の違いは、会社の規程で決まるものです。法律に「課長の権限」「部長の権限」の定めがあるわけではありません。そのうえで、権限を分けるときは、次の3つの軸で考えると整理しやすくなります。

軸課長部長
扱う単位課・チームの日々の仕事複数の課を束ねた部門
時間の幅月・四半期の計画の実行年度の計画と、次の年度の方針
権限の典型課の予算の範囲の支出、一次評価、日々の仕事の指示、残業の命令部門の予算の配分、二次評価と評価の調整、課をまたぐ人員の配置、部門の方針の決定

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(2025年)で、一般労働者のうち雇用期間の定めのない人の役職別の賃金(6月分の所定内給与額の平均)を見ると、部長級が635.8千円、課長級が529.2千円、係長級が399.2千円、役職の無い人が310.5千円でした。平均年齢は部長級が53.1歳、課長級が49.5歳、平均の勤続年数は部長級が22.6年、課長級が20.9年です。

この調査では、事業所で使っている役職の名称が調査の区分と同じでも、内容が違えばその役職として扱わないとされています。統計の上でも、役職は名前ではなく中身で分類されているということです。自社の課長・部長を他社と比べるときも、肩書ではなく、上の表の3つの軸で比べてください。

管理職と管理監督者は別のもの

労働基準法第41条第2号は、「監督若しくは管理の地位にある者」について、労働時間・休憩・休日に関する規定を適用しないと定めています。これが一般に管理監督者と呼ばれる人です。

厚生労働省のパンフレット「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」は、管理監督者を「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とし、当たるかどうかは役職名ではなく実態で判断するとして、次の判断基準を示しています。

  • 労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるを得ない、重要な職務内容を持っていること
  • 同じく、重要な責任と権限を持っていること
  • 現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないものであること
  • 賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること

同じパンフレットは、「課長」「リーダー」といった肩書があっても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事項について上司に決裁を仰ぐ必要がある人や、上司の命令を部下に伝えるだけの人は、管理監督者とは言えないとしています。また、管理監督者であっても、深夜業(22時から翌5時まで)の割増賃金の支払と、年次有給休暇の付与は必要だと明記しています。

権限の設計と労務の扱いは、別の問題として扱う必要があります。管理職の権限を広げたり狭めたりするときに、あわせて管理監督者としての扱いが実態に合っているかを確かめてください。個別の判断は、労働基準監督署や社会保険労務士・弁護士などの専門家に相談してください。

自社の管理職の権限を点検する

  • 管理職ごとの決裁の上限が、文書で確かめられる
  • 管理職がつけた評価を上位で変えるときの手続きが決まっている
  • 採用の選考に、配属先の管理職が関わっている
  • 部下の残業の命令と承認をだれが行うかが決まっている
  • 取引先に約束してよい値引きや納期の範囲が決まっている
  • 管理監督者として扱っている役職について、権限・勤務態様・待遇の実態を確かめたことがある

職務権限表の作り方

権限は、役職を列、判断の項目を行にした職務権限表にまとめます。見本は次のとおりです。

判断の項目担当者課長部長取締役会・社長
予算内の備品の購入起案決裁(上限まで)決裁(上限超)―
予算外の支出起案審査決裁(上限まで)決裁(上限超)
部下の評価―一次評価二次評価・調整最終の承認
中途採用の決定―選考に参加推薦決定
時間外労働の命令―命令・承認課長の不在時の代行―
標準価格からの値引き標準価格表の範囲課長の上限まで部長の上限まで上限超

作るときは、次の順に進めます。

  1. 判断の項目を集める。 管理職が実際に下している判断と、上位に上げている判断を、1か月分集めます。
  2. いまの実態を書く。 規程の記載ではなく、実際にだれが決めているかを書きます。
  3. 規程との差を直す。 実態と規程が違う項目は、どちらに合わせるかを決めます。
  4. 会社法の天井を確かめる。 取締役会設置会社では、会社法第362条第4項が重要な財産の処分や多額の借財などの決定を取締役に委任できないと定めています。金額の上限の設計は決裁権限の設計|金額基準・性質基準と事後監査の作り方で扱っています。
  5. 本人に渡して説明する。 表を管理職本人に渡し、範囲の外の判断をどこに上げるかも合わせて伝えます。

実行時の落とし穴

  • 権限を人に付ける。 特定の課長だけに広い権限を認める運用は、その人の異動で崩れます。権限は役職に付けてください。
  • 権限の外の判断を、上位が黙って引き取る。 範囲の外の判断を上位が引き取るときに、理由を伝えないと、管理職は自分の範囲がどこまでか分からなくなります。
  • 表を作っても、上位が口を出し続ける。 課長の範囲の判断に部長が介入すると、表の意味がなくなります。介入してよい条件を決めておく方法はマイクロマネジメントと放置を繰り返す組織に必要な権限定義で扱っています。
  • 待遇だけを管理監督者並みにして、権限を渡さない。 権限の実態が伴わないまま管理監督者として扱うと、労務の上でも問題になりえます。

出典