意思決定マトリクスとは、複数の案を、同じ評価軸と重みで点数化して比べる表です。作り方の要点は、点数を付ける前に「足切りの条件」と「評価軸の重み」を決めておくことです。先に案を見てから軸や重みを決めると、気に入った案が勝つように表を組み立ててしまいます。反対に、軸と重みを先に決めて関係者と合意しておけば、結論の理由を説明しやすくなり、声の大きい人の意見や思いつきで結論が変わることも減らせます。この記事では、表の基本形と記入例、作る手順、重みを変えて結論が入れ替わるかを確かめる方法、上司の思いつきの指示を既存の仕事と比べる使い方、点数に頼りすぎる落とし穴を順に説明します。

意思決定マトリクスの基本形

表は次の要素でできています。

要素内容
案比べる選択肢。「何もしない」も案に入れると、比べる基準がはっきりする
足切りの条件満たさなければ点数に関係なく外す条件(法令・社内規程・予算の上限など)
評価軸案を比べる観点(費用、期間、現場の負担、将来の拡張性など)
重み評価軸ごとの大事さ。合計に効く度合い
点数案ごと・軸ごとの評価(1〜5点など)
合計点数 × 重み の合計

記入例:業務システムの入れ替え

3つの案を、4つの評価軸で比べた例です。点数は1〜5点、重みは1〜3で付けています。足切りの条件は「社内の情報セキュリティの基準を満たすこと」とし、3案とも満たしている前提です。

評価軸(重み)A案:既存システムの改修B案:新しいクラウドサービスC案:外部への業務委託
費用(3)4点 → 123点 → 92点 → 6
導入までの期間(2)4点 → 82点 → 45点 → 10
現場の負担(2)3点 → 64点 → 85点 → 10
将来の拡張性(1)2点 → 25点 → 53点 → 3
合計282629

この重みでは、C案が29点で最も高くなります。ただし、A案との差は1点しかありません。差が小さいときは、次に示す「重みを変えて確かめる」手順が欠かせません。

作り方の手順

  1. 決めることと期限を書く。 「来期の業務システムの方針を、11月末までに決める」のように、何をいつまでに決めるかを1行で書きます。
  2. 足切りの条件を決める。 法令や社内規程、予算の上限、期限など、満たさなければ採用できない条件を先に書き、満たさない案は外します。足切りの条件を評価軸に混ぜると、重要な条件が他の軸の高い点数で埋め合わされてしまいます。
  3. 評価軸を決める。 決める目的から逆算して、4〜6個程度の軸を選びます。似た意味の軸が重なっていないかを確かめます。
  4. 重みを決め、関係者と合意する。 案を見る前に、軸ごとの重みを決めます。この段階で関係者と合意しておくことが、表の説得力の源になります。
  5. 点数の基準を書く。 「費用:5点=予算の半分以下、1点=予算の上限いっぱい」のように、各軸で何点が何を意味するかを決めます。基準がないと、同じ案でも人によって点数が変わります。
  6. 採点し、合計を出す。 判断に関わる人が複数いれば、各自が別々に採点し、大きく割れた項目を話し合います。
  7. 重みを変えて確かめる。 次の節の手順で、結論が入れ替わらないかを確かめます。
  8. 結論と理由を記録する。 採用した案と、決め手になった軸、次点の案との差を記録に残します。

目的別の評価軸の例

決めること評価軸の例足切りの条件の例
業務システムや道具の選定費用、導入までの期間、現場の負担、将来の拡張性、サポートの体制社内の情報セキュリティの基準、予算の上限
委託先・仕入先の選定価格、品質、納期の守りやすさ、担当者の対応、取引の継続性必要な許認可や資格の有無、契約条件の受け入れ
新規の施策の優先順位重点目標への貢献、必要な工数、効果が出るまでの期間、やらなかったときの損失今期の予算・人員の範囲に収まるか
採用の最終判断職務に必要な技能、経験の近さ、仕事の進め方の合い方募集の要件として示した必須の条件

評価軸の例は出発点で、決める目的に合わせて入れ替えてください。採用の判断に使う場合は、職務に関係のない事柄を評価軸や採点の根拠に入れないよう注意が必要です。

重みを変えて結論が入れ替わるかを確かめる

上の記入例で、費用の重みを3から4に上げると、合計は次のように変わります。

案重みを変える前費用の重みを4にした後
A案2832
B案2629
C案2931

費用の重みを1つ上げるだけで、最も高い案がC案からA案に入れ替わります。このように結論が重みの小さな変化で入れ替わる場合、表は「どちらでもよい」ことを示しているだけで、決め手は表の外にあります。その場合は、費用をどこまで重く見るかを決定者が明示的に判断し、その理由を記録に残してください。反対に、重みを多少変えても同じ案が最も高ければ、その結論は重みの設定に左右されにくいと言えます。

上司の思いつきの指示を比べる使い方

新しい指示が突然降ってきて、今の仕事が後回しになる状況にも、同じ表が使えます。

  1. 今抱えている仕事と、新しい指示を同じ表に並べる。 新しい指示だけを評価すると、いつも「やる価値はある」という結論になります。
  2. 評価軸は、部署の目標と結びつける。 「今期の重点目標への貢献」「期限の迫り方」「必要な工数」「やらなかったときの損失」など、部署の目標から軸を選びます。
  3. 結果を指示した人に見せ、どれを後回しにするかを決めてもらう。 新しい指示を受けるかどうかではなく、「どれを止めるか」を決める材料として使います。

表を見せることで、指示した人も今の仕事の量と優先順位を把握したうえで判断できます。優先順位の判断を上司と部下の力関係ではなく、合意した軸の上で行えるのが、この使い方の利点です。

落とし穴

  • 点数を付けてから重みを決める。 案の点数を見たあとで重みを決めると、望む案が勝つように重みを調整してしまいます。重みは必ず先に決め、変える場合は理由を記録します。
  • 点数の差を実際の差より重く見る。 1点や2点の差は、採点の揺れの範囲に収まることがあります。差が小さいときは、重みを変えて確かめる手順を省かないでください。
  • 数えにくいものを軸から外す。 現場の納得や取引先との関係のように点数を付けにくいものほど、あとで問題になります。点数の基準を言葉で書き、無理にでも軸に入れるか、足切りの条件として扱います。
  • 表が結論を決めたことにする。 表は判断の材料で、決めるのは決定者です。「表で決まった」とすると、うまくいかなかったときに誰も判断の理由を説明できません。判断の手順を先に決めておく考え方は、決め方を先に決める意思決定の設計で扱っています。

点数の根拠になる数字の集め方は、データ分析とは|データドリブンな意思決定を始める方法も参考になります。判断を狂わせる思い込みの種類と対策は、経営判断を狂わす認知バイアスの罠と対策で扱っています。

まとめ

  • 意思決定マトリクスは、複数の案を同じ評価軸と重みで点数化して比べる表
  • 足切りの条件、評価軸、重み、点数の基準を、案の点数を見る前に決めて関係者と合意する
  • 重みを変えて結論が入れ替わるかを確かめ、入れ替わるときは決め手を決定者が明示する
  • 上司の思いつきの指示は、今の仕事と同じ表に並べ、「どれを止めるか」を決める材料にする