ステークホルダーマップとは、提案やプロジェクトに関わる人を「影響力」と「関心」の2つの軸で4つに分け、誰に、どの程度、どう関わるかを決めるための図です。部門をまたぐ提案が会議で思わぬ反対にあう、決裁のあとで別の部署から修正を求められる、といったことが起きるのは、関係者を組織図の上の役職だけで捉え、実際に結果を左右する人や影響を受ける人を見落としているためです。この記事では、関係者の洗い出し方、影響力と関心の評価の基準、4つの区分ごとの関わり方、そのまま使える一覧表の見本を示し、作るときと使うときの注意点を説明します。

ステークホルダーマップの基本形

縦軸に影響力、横軸に関心をとり、4つの区分に分けます。

区分影響力関心関わり方の基本
重点的に関わる高い高い企画の早い段階から意見を聞き、節目ごとに直接説明する
満足を保つ高い低い要点を短く伝え、判断が要る場面だけ相談する。細かな報告で負担をかけない
情報を届ける低い高い進み具合を定期的に知らせ、意見を出せる窓口を用意する
様子を見る低い低い大きな節目だけ知らせる。立場が変わっていないかを見直しのときに確かめる

この区分は、関わりの「手間」の配分を決めるためのものです。全員に同じだけ説明していると時間が足りなくなり、逆に一部の人だけに説明していると、残りの人から不信感を持たれます。

作り方の手順

手順1:関係者を洗い出す

組織図の役職だけでなく、次の観点で漏れなく書き出します。

  • 決裁する人(決裁権限の規程上の決裁者)
  • 予算や人員を配分する人
  • 実行を担う人・部署
  • 結果の影響を受ける人・部署
  • 反対すれば実質的に止められる人(協議先、専門部署、社内で意見が重んじられる人)
  • 社外の関係者(取引先、顧客、委託先など)

5つ目の「反対すれば止められる人」が、組織図だけで作ると見落としやすい人です。過去に似た提案がどこで止まったかを確かめると、見つけやすくなります。

手順2:影響力と関心を評価する

評価は、感覚ではなく基準に沿って行います。

軸高いと評価する目安
影響力決裁権限を持つ、予算や人員を動かせる、反対すれば提案が止まる、ほかの関係者の判断に影響する
関心提案の結果で自分の業務・予算・評価が変わる、過去に同じテーマで意見を出している

3段階(高・中・低)などで評価し、中の人は、どちらの区分に寄せるかを話し合って決めます。評価は一人でせず、事情を知る人と一緒に行うと偏りが減ります。

手順3:現在の立場と望む立場を書く

一人ひとりについて、提案に対する現在の立場(賛成・中立・懸念あり・反対・不明)と、提案を進めるうえで望む立場を書きます。「全員を賛成に」ではなく、「反対はしないが懸念を記録に残してもらう」のように、現実的な目標を置きます。

手順4:関わり方を決める

区分と立場の差から、誰が、いつ、どの手段で関わるかを決めます。現在の立場ごとの関わり方の目安は次のとおりです。

現在の立場関わり方の目安
反対反対の理由を具体的に聞き、提案で対応できる部分と、できない部分を分ける。対応しない部分は理由と一緒に提案書に書く
懸念あり懸念を解消する条件(試行の範囲、見直しの時期など)を一緒に考え、提案に組み込む
中立判断に必要な情報を渡し、決める前に確かめたいことがないかを聞く
賛成実行の段階で協力してほしいことを具体的に伝える。賛成を他の人への圧力に使わない
不明誰が立場を確かめるかを決め、最初の説明の機会を早めに設ける

関わる担当者は、相手との関係や役職の近さで選びます。同じ相手に複数の人がばらばらに説明すると、説明の食い違いが生まれるため、相手ごとに窓口を1人に決めておきます。

一覧表の見本

関係者役割影響力関心区分現在の立場望む立場主な懸念関わり方担当時期
事業部長決裁者高高重点中立賛成投資の回収時期企画書の案で個別に説明し、回収の前提を相談企画課長企画書提出の2週間前
経理部長協議先高低満足を保つ不明懸念を記録に予算の枠予算の要点を1枚で説明企画担当提出の1週間前
現場の班長実行低高情報を届ける懸念あり中立以上作業の負担説明会と意見募集企画担当提出前と実行前

図を描くときは、この一覧表から2軸の図に配置します。図は全体の見通しをつかむため、一覧表は実際に動くために使います。

組織図だけで作ると起きること

  • 決裁のあとで止まる。 決裁者の了承は得たものの、実行を担う部署や協議先の懸念を拾っていなかったため、実行の段階で修正を求められます。
  • 会議で初めて反対が出る。 影響力の高い人に事前の説明がなく、会議の場で懸念が出て差し戻しになります。事前説明の進め方は、根回しとは|意味と進め方、公式の合意形成との分け方で扱っています。
  • 影響を受ける人の不満が後から表に出る。 関心は高いが影響力が低い人を「様子を見る」に置いてしまうと、実行の段階で協力が得られません。

使うときの注意点

  • 人物評の文書にしない。 マップには、人柄や好き嫌いではなく、役割・権限・懸念の中身を書きます。個人への評価のように読める書き方は、万一目に触れたときに関係を損ねます。閲覧できる人を限り、プロジェクトが終わったら扱いを決めておきます。
  • マップを根回しの道具に閉じない。 マップで集めた懸念と対応は、正式な提案書に書いて会議の参加者全員が見られるようにします。一部の人との調整だけで結論を固める進め方の弊害は、決裁ルートの単線化から始める透明な意思決定プロセスの作り方で扱っています。
  • 決め方と混同しない。 マップは誰に関わるかを決めるもので、誰が決めるかを決めるものではありません。影響力の高い関係者の賛成を決定の条件にしてしまうと、全員一致と同じ状態になります。決め方の選び方は、集団意思決定とは|全員一致・多数決・一任の使い分けで扱っています。
  • 一度作って終わりにしない。 人事異動や組織変更、提案の中身の変更で、関係者の影響力や関心は変わります。節目ごとに見直します。

まとめ

  • ステークホルダーマップは、関係者を影響力と関心の2軸で4つに分け、関わりの手間の配分を決める図
  • 洗い出しでは、決裁者だけでなく、予算を持つ人・実行する人・影響を受ける人・反対すれば止められる人を拾う
  • 一覧表に、現在の立場・望む立場・懸念・関わり方・担当・時期を書き、図は全体の見通しに使う
  • 人物評にしない、集めた懸念は正式な資料に残す、決め方と混同しない、の3点に注意する