従業員の秘密保持誓約書に入れる一般的な項目は、目的、秘密情報の範囲、在職中の義務、退職後の義務、資料の返還と消去、違反時の扱い、の六つです。中でも大切なのは秘密情報の範囲を具体的に書くことで、「業務上知り得た一切の情報」のような書き方だけでは、何が秘密か社員に伝わらず、いざというときにも効きにくくなります。IPA(情報処理推進機構)の「組織における内部不正防止ガイドライン」(第5版、2022年)は、退職時には提出を拒まれることがあるとして、誓約書を入社時や重要な業務に就くときに取っておくことを勧めています。この記事では項目の表と例文、効かなくなる書き方の直し方を示します。

誓約書が効かなくなる理由

秘密保持誓約書を取っていても、情報の持ち出しを防げなかったり、後から争えなかったりすることがあります。原因の多くは書き方と取るタイミングです。

  • 範囲があいまい:何が秘密かが書かれていないため、社員が判断できず、会社も「これは秘密だった」と示しにくい
  • 退職時にしか取っていない:退職時は関係がこじれていることもあり、署名を断られると空白になる
  • 会社の管理と合っていない:誓約書で秘密としている情報を、社内では誰でも見られる場所に置いている

不正競争防止法は、営業秘密の要件の一つに「秘密として管理されている」ことを挙げています(第2条第6項)。IPAのガイドラインも、秘密情報であることを社員が客観的に認識できるようにしておくことを対策に挙げています。誓約書は、この「秘密として扱っている」ことを示す手段の一つですが、社内の管理が伴っていなければ、紙だけでは足りません。社内の管理の組み立ては情報漏洩の社内対策で解説しています。

秘密保持誓約書の項目

一般的な項目と、書くときの要点を表にまとめました。

項目書く内容書くときの要点
目的会社の秘密情報を守るために誓約すること短く書く
秘密情報の範囲守る情報の種類顧客情報、取引条件、原価、技術資料など具体例を並べる。社内で「社外秘」などの表示をした情報も含める
在職中の義務業務以外で使わない、許可なく開示・複製・持ち出ししない社内のルール(情報の区分や持ち出しの手順)に従うことと結び付ける
退職後の義務退職後も使用・開示しない期間を定めるかどうかを決める
返還と消去退職時・会社の求めに応じて資料を返し、写しを消す私物の端末やクラウドに残った写しも対象と書く
第三者の秘密情報前職など他社の秘密情報を持ち込まない入社時の誓約書に入れる
違反時の扱い就業規則にもとづく処分、損害の賠償違約金の額をあらかじめ定めない
日付・署名誓約の日付と本人の署名控えを本人にも渡す

違反時の扱いで注意したいのは、労働基準法第16条です。同条は、使用者が労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定したりする契約を禁じています。「違反した場合は〇〇万円を支払う」と金額を決めておく書き方は避け、実際に生じた損害の賠償を求めうる、という書き方にとどめます。

条文の例文(入社時)

入社時に取る誓約書の例です。自社の情報の種類に合わせて第2条の具体例を書き換えて使います。

秘密保持に関する誓約書

私は、貴社に雇用されるにあたり、次の事項を守ることを誓約します。

第1条(目的)私は、貴社の秘密情報を適切に取り扱い、貴社の事業上の利益を損なわないよう、本誓約書の事項を守ります。

第2条(秘密情報)本誓約書で秘密情報とは、次の情報をいいます。(1) 顧客・取引先の名称、担当者、連絡先および取引の内容 (2) 商品・サービスの価格、原価および取引条件 (3) 技術資料、設計情報、業務の手順書 (4) 従業員の人事・給与に関する情報 (5) その他、貴社が秘密である旨を表示し、または秘密として指定した情報

第3条(在職中の義務)私は、在職中、秘密情報を業務の目的以外に使用せず、貴社の許可なく第三者に開示し、複製し、または社外に持ち出しません。秘密情報の取り扱いは、貴社の定める規程と手順に従います。

第4条(退職後の義務)私は、退職後も、秘密情報を使用し、または第三者に開示しません。

第5条(返還と消去)私は、退職するとき、または貴社から求められたときは、秘密情報を含む書類、記録媒体およびその写しをすべて返還し、私有の機器や外部のサービスに保存した写しを消去します。

第6条(他社の秘密情報)私は、前職その他の第三者の秘密情報を、その権利者の許可なく貴社に持ち込み、または貴社の業務に使用しません。

第7条(違反した場合)私は、本誓約書に違反したときは、就業規則にもとづく処分を受けることがあること、および貴社に生じた損害の賠償を求められることがあることを承知します。

年 月 日 住所 氏名

退職時の誓約書で足すこと

退職時の誓約書は、入社時の内容を確かめ直すとともに、在職中に実際に触れた情報を具体的に書き足すのが特徴です。

  • 担当した顧客や案件、携わった製品・技術の名称
  • 返却した資料・機器の一覧と、写しを消去したことの確認
  • 退職後に連絡を受けたときの窓口

退職前後の手続き全体は退職者の情報持ち出し対策に点検表としてまとめています。

作るときと運用するときの手順

  1. 守る情報を洗い出す:自社にとって漏れたら困る情報を種類ごとに書き出し、第2条の具体例に反映します。
  2. 社内の表示と管理をそろえる:誓約書で秘密とした情報に、社内でも「社外秘」などの表示を付け、見られる人を絞ります。
  3. 取るタイミングを決める:入社時、重要な業務に就くとき、退職時の三つを基本にします。
  4. 説明してから署名を受ける:書面を渡すだけでなく、何が秘密で何をしてはいけないかを口頭でも説明します。
  5. 控えを保管する:誓約書は人事の記録として保管し、本人にも控えを渡します。

実行時の落とし穴

競業の制限を同じ書面に詰め込む:退職後に同業他社へ転職しないことまで誓約させようとすると、秘密保持とは別の問題になり、書面全体への反発を招くことがあります。競業の制限を設けるかどうかは、秘密保持とは分けて弁護士に相談して検討します。

誓約書を取って終わりにする:誓約書は取った時点がゴールではありません。退職時に返還と消去を確かめる手続きと組み合わせて初めて意味を持ちます。退職者との関係を損なわない進め方はオフボーディングの目的と退職者との関係設計も参考になります。

この記事の例文は一般的な書き方の例です。自社の業種や就業規則との整合、退職後の期間などの個別の判断は、弁護士や社会保険労務士に確かめてから使ってください。

出典