内部通報制度は、窓口を置き、通報に対応する担当者を指定し、調査から是正までの手順と通報者を守るルールを規程にまとめ、社員に知らせる、という順で作ります。公益通報者保護法(2004年制定)は、常時使用する労働者が300人を超える事業者にこの体制の整備を義務づけ、300人以下の事業者には努力義務としています。消費者庁の法定指針(2021年告示)は、窓口の独立性、利益相反の排除、通報者の探索の防止、記録の保管などを具体的に定めています。この記事では、法定指針に沿って項目を点検表にし、規程の条文例と作る手順を示します。
内部通報制度が求められる理由
内部通報は、不正を早く見つける手段として効果が大きいとされています。ACFE(公認不正検査士協会)の「Occupational Fraud 2026: A Report to the Nations」では、職業上の不正の発見のきっかけとして最も多かったのは通報で、43%を占めました。通報の55%は従業員からで、通報の手段はウェブ(46%)、電子メール(34%)、電話(23%)の順でした。社内の人が最初に気づくことが多いので、その声が届く経路を用意しておく意味があります。
法律の面では、公益通報者保護法第11条が、事業者に対し、公益通報に対応する業務に従事する者(従事者)を定めることと、公益通報に適切に対応するための体制を整えることを求めています。常時使用する労働者が300人以下の事業者は、これらが努力義務になります(同条第3項)。法律の全体像は公益通報者保護法をわかりやすくで解説しています。
制度があっても使われない構造
窓口を作っても、通報がまったく来ない会社は少なくありません。よくある原因は次のとおりです。
- 窓口が社長や直属の上司につながっていて、通報の対象になりうる人に内容が伝わる
- 通報したあと何が起きたかが通報者に知らされず、「言っても変わらない」と受け取られる
- 誰が通報したかを探る動きがあり、通報者が特定されるのを恐れる
- 制度があることや窓口の連絡先が社員に知られていない
法定指針は、これらの原因にそれぞれ対応する措置を定めています。
制度に入れる項目の点検表
消費者庁の法定指針(令和3年内閣府告示第118号)の内容をもとに、制度に入れる項目と確かめる観点をまとめました。
| 項目 | 決めること | 確かめる観点 |
|---|---|---|
| 従事者の指定 | 通報の受付・調査・是正を担う人 | 書面などで指定し、本人にも従事者であることを伝えているか |
| 窓口 | 受付の部署・連絡先・受付の方法 | 経営陣から独立した経路があるか |
| 利益相反の排除 | 通報の対象者が調査にかかわらない仕組み | 関係者を調査から外す手順があるか |
| 調査と是正 | 調査の進め方、是正の措置、是正後の確認 | 是正したあと再発していないかを確かめているか |
| 不利益取扱いの防止 | 通報者を不利に扱わない、扱った者への措置 | 通報後の人事上の扱いを見ているか |
| 情報の共有範囲 | 通報者を特定させる情報を知る人の範囲 | 必要な範囲を超えて共有していないか |
| 通報者の探索の防止 | 誰が通報したかを探らないこと | 探索を禁じ、した者への措置を定めているか |
| 教育と周知 | 労働者・役員・退職者への周知、従事者への教育 | 窓口の連絡先を社員が知っているか |
| 結果の通知 | 書面の通報者に是正の結果などを知らせる | 通知の担当と時期を決めているか |
| 記録と点検 | 記録の保管、制度の評価と改善、運用実績の開示 | 年に一度は件数や対応を振り返っているか |
| 内部規程 | 上の事項を規程に定めて運用する | 規程と実際の運用が合っているか |
内部通報規程の条文例
規程の骨子の例です。自社の窓口や担当に合わせて書き換えて使います。
第1条(目的)この規程は、法令違反等の早期発見と是正を図るため、通報の受付、調査、是正および通報者の保護について定める。
第2条(通報できる者)役員、従業員(退職後1年以内の者を含む)は、この規程により通報することができる。
第3条(窓口)通報の窓口は、社内窓口(管理部の従事者)および社外窓口(会社が委託する外部の窓口)とし、通報者はいずれかを選べる。匿名の通報も受け付ける。
第4条(従事者)会社は、通報の受付、調査および是正にかかわる者を従事者として書面で指定する。従事者は、通報者を特定させる情報を正当な理由なく漏らしてはならない。
第5条(調査)通報の内容に関係する者は、調査にかかわることができない。
第6条(是正と通知)調査の結果、法令違反等が認められたときは、会社は是正の措置をとり、再発していないかを確かめる。通報者には、支障のない範囲で調査と是正の結果を知らせる。
第7条(通報者の保護)会社は、通報したことを理由に、通報者を解雇その他不利益に取り扱わない。何人も、通報者を探索してはならない。これらに反した者は、就業規則にもとづく処分の対象とする。
第8条(記録と見直し)従事者は、通報と対応の記録を保管する。会社は、年に一度、制度の運用状況を点検し、改善する。
内部通報制度を作る手順
- 窓口の経路を決める:社内の窓口の担当部署と、経営陣から独立した経路(社外の窓口、監査役など)を決めます。
- 従事者を指定する:受付・調査・是正にかかわる人を書面で指定し、守秘の義務を伝えます。
- 規程を作る:上の点検表の項目を規程に落とし込みます。
- 社員に知らせる:窓口の連絡先、通報できる人、通報者が守られることを、社内の掲示や研修で知らせます。退職者にも伝わるようにします。
- 最初の通報に備える:受け付けてから何日以内に受理を伝えるか、誰が調査の計画を立てるかを決めておきます。
- 運用を点検する:年に一度、件数、対応にかかった日数、是正の内容を振り返り、社内に開示できる範囲で示します。
実行時の落とし穴
経営陣が通報の対象になったときの経路がない:窓口の報告先が社長だけだと、社長自身が関係する通報は止まります。監査役や社外の窓口に直接届く経路を別に持たせます。経営者自身の行動をどう統制するかは経営者の暴走を防ぐガバナンス設計で扱っています。
規程を写して終わる:他社の規程を写しても、窓口の担当が決まっていなければ通報は受け付けられません。規程が機能しない一般的な理由はコンプライアンス規程が機能しない理由も参考になります。
改正への備えが遅れる:2025年に成立した改正法(令和7年法律第62号)は2026年12月1日に施行され、300人を超える事業者について、体制の周知が明文化されるなど義務が強化されます。規程と周知の方法を施行日までに見直しておきます。
制度の設計は一般的な解説にとどめています。自社にどの義務がかかるか、規程の内容が法律と指針に合っているかは、弁護士や、消費者庁の「公益通報者保護制度相談ダイヤル」などの公的な窓口に確かめてください。
出典
- 公益通報者保護法(平成16年法律第122号)第11条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000122
- 消費者庁「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号、2021年) https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_210820_0001.pdf
- 消費者庁「公益通報者保護法と制度の概要」(令和7年改正の成立・公布・施行日、2025年) https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/
- 消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律 改正概要」(2025年) https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/consumer_partnerships_cms205_260501_01.pdf
- ACFE「Occupational Fraud 2026: A Report to the Nations」(2026年) https://legacy.acfe.com/report-to-the-nations/2026/




