経費精算の不正を防ぐには、承認の段数を増やすより、承認者ごとに確かめる中身を決めることが効きます。上司は業務上の必要性を、経理は規程と領収書などの証憑との整合を確かめ、さらに精算のデータから異常を定期的に拾う、という三段で組み立てます。ACFE(公認不正検査士協会)の「Occupational Fraud 2026」でも、経営者による見直しやデータの定期的な監視を行っている組織では、被害が小さく発見も早い傾向が示されています。この記事では、よくある手口と確認の仕方、規程に入れる項目、承認が形だけになる理由と直し方を整理します。

経費精算の不正のよくある手口

経費精算の不正は、一件ごとの金額が小さく、長く続くと見つけにくいのが特徴です。手口ごとに、見るべき点が違います。

手口内容確認のポイント
架空の請求実際には使っていない経費を申請する業務の予定・日報と日付が合っているか
金額の水増し領収書の金額を書き換える、白紙の領収書に書き込む領収書の原本やデータの金額と申請額が一致するか
二重請求同じ領収書を別の月や別の精算で使う同じ店・同じ日・同じ金額の申請が重なっていないか
私的な支出の混入家族との食事や私物の購入を業務の経費として申請する参加者・目的が書かれているか、社内の上限に合うか
交通費の過大請求実際より遠い経路や、定期券の区間を含めて申請する定期券の区間と重なっていないか、経路が妥当か
金券・ポイントの流用会社の支払で付いたポイントや購入した金券を私的に使う金券の購入と使途が記録されているか

承認が形だけになる構造

承認の欄に印が並んでいても、不正が見つからないことがあります。原因の多くは承認の仕組みにあります。

  • 確かめる中身が決まっていない:承認者が何を見て承認するのかが決まっていないため、金額だけを見て印を押す
  • 段数が多い:承認者が多いほど、前の人か後の人が見るだろうと考え、誰も中身を見ない
  • 上司と部下が近すぎる:日常的に一緒に動く上司は、部下の申請を疑いにくい
  • 経理が差し戻せない:経理が規程に合わない申請を見つけても、上司の承認済みを理由に通してしまう

金融庁の内部統制の実施基準(2023年改訂)は、業務の手順として承認・検証・記録などを定め、承認・記録・資産の管理を別の者に担当させることで相互に牽制させることを示しています。経費精算で言えば、申請する人、必要性を承認する人、規程との整合を検証して支払う人を分けることにあたります。職務の分け方の全体は社内の横領を防ぐ対策で扱っています。

経費精算規程に入れる項目

確かめる基準がなければ、承認者も経理も判断できません。規程には次の項目を入れておきます。

項目決めること
対象となる経費精算できる経費の種類と、できないもの
上限額飲食・宿泊・交通などの一人当たりの上限
申請の期限使った日から何日以内に申請するか
必要な証憑領収書、利用明細、参加者の一覧など、経費の種類ごとに必要なもの
記入する事項目的、相手先、参加者、経路
承認者と役割上司が確かめること、経理が確かめること
事前の承認一定額以上の支出や出張で、事前の承認が必要なもの
上位者の経費社長や役員の経費を誰が確かめるか
違反したときの扱い差し戻し、返還、就業規則にもとづく処分

金額によって承認者を変える場合の決め方は決裁権限の金額基準と事後監査の作り方も参考になります。

確認の仕組みを作る手順

  1. 承認者の役割を分ける:上司は「業務上必要だったか」、経理は「規程と証憑に合っているか」を確かめる、と役割を分けて規程に書きます。
  2. 確かめる観点を一覧にする:上の手口の表をもとに、承認者と経理が見る観点をチェック項目にし、承認の画面や申請書に載せます。
  3. 経理に差し戻しの権限を持たせる:規程に合わない申請は、上司の承認があっても経理が差し戻せることを明記します。
  4. データで異常を拾う:月に一度、精算のデータを並べ、次のような申請を抜き出して確かめます。
    • 上限額のすぐ下の金額が続いている
    • 同じ店・同じ日付・同じ金額の申請が複数ある
    • 休日や休暇の日付の経費がある
    • 特定の人の申請額が前年や同じ職務の人より大きく増えている
  5. 抜き打ちで原本を確かめる:一定の割合で申請を選び、領収書の原本や利用明細と突き合わせます。

経費精算の仕組みで設定しておくこと

経費精算を表計算ソフトや紙から専用の仕組みに移す場合は、人の目に頼っていた確認の一部を設定に置き換えられます。導入のときに次の点を確かめておきます。

設定防げること
上限額を超える申請に警告を出す規程の上限を超えた申請の見落とし
同じ日付・金額・支払先の申請を知らせる同じ領収書の二重請求
領収書の画像やデータの添付を必須にする証憑のない申請
申請者が自分の申請を承認できないようにする上位者が自分の経費を自分で承認すること
承認後の修正を記録に残す承認されたあとの金額の書き換え

設定で拾える異常は、形のはっきりしたものに限られます。私的な支出の混入のように中身を見なければ分からないものは、上司と経理の確認で拾います。設定と人の確認の受け持ちを分けて考えると、確認の手間を増やさずに済みます。

実行時の落とし穴

上位者の経費が素通りになる:部長や役員の経費は、承認する人がいないか、部下が承認者になって実質的に確かめられないことがあります。上位者の経費は経理が確かめて記録を残し、取締役会や監査役など、さらに上の場に報告する経路を決めます。

確認を細かくしすぎる:すべての申請を同じ細かさで見ると、経理の手が回らず、結局形だけの確認に戻ります。金額や手口の起きやすさで確認の強さを変え、残りはデータで異常を拾う形にします。なぜ確認の仕組みが不正を減らすのかは不正のトライアングルとはで解説しています。

不正が見つかったときの返還の求め方や処分は、労務と法律がかかわります。個別の判断は、社会保険労務士や弁護士に相談してください。

出典