マスタデータ管理は、取引先・商品・社員・勘定科目など、多くの業務で共通して使う基本の情報(マスタデータ)を、1 か所で正しく保ち、各部署や各システムが同じ情報を使えるようにする取り組みです。英語の Master Data Management を略して MDM とも呼ばれます。マスタデータが部署ごとや表計算のファイルごとにばらばらだと、同じ取引先が別の名前で登録される、商品の単価が部署によって違う、会議で部署ごとの数字が合わない、といった問題が起きます。整えるには、どの情報をどこで正として持つかを決め、登録と変更を行う人と手順を決めることが中心で、仕組みを入れるのはその後です。

マスタデータの種類

種類中身の例使う業務の例
取引先会社名、住所、担当者、支払いの条件営業、受注、請求、支払い
商品・サービス商品の番号、名前、単価、分類見積、受注、在庫、売上の集計
社員氏名、所属、役職、権限勤怠、給与、承認、アクセスの権限
勘定科目・部門科目の番号、部門の番号会計、予算、経費の精算

マスタデータは、日々の取引の記録(受注、請求、入出庫など)が参照する土台です。土台の情報がばらばらだと、その上に積み上がる記録と集計がすべて合わなくなります。

マスタデータを整えると何が変わるか

マスタデータが整うと、まず集計の手間が減ります。部署ごとに取引先や商品の名前が違うと、月次の集計のたびに、担当者が名前を照らし合わせて数字をまとめ直す作業が発生します。名前と番号がそろっていれば、仕組みから出した数字をそのまま足し合わせられます。

次に、会議での数字の食い違いが減ります。営業の売上と経理の売上が合わない原因の多くは、取引先や商品の分け方が部署ごとに違うことにあります。同じマスタデータを使えば、部署ごとの数字の違いは、計上の時期の違いなど、説明のつくものに絞られます。

さらに、誤りが減ります。取引先の住所や振込先が 1 か所で管理されていれば、変更を反映し忘れて、古い住所に請求書を送る、古い口座に振り込む、といった誤りを防げます。顧客への対応でも、担当者が替わったことがすぐに全部署に伝わります。

マスタデータがばらばらになる原因

部署ごとに登録している

営業は顧客の管理の仕組みに、経理は会計の仕組みに、それぞれ取引先を登録していると、同じ取引先が 2 か所にあり、住所や担当者が片方だけ更新される、ということが起きます。

登録の決まりが無い

会社名の書き方(「株式会社」の前後、略称、全角と半角)や、商品の名前の付け方の決まりが無いと、同じものが別の名前で何度も登録されます。

表計算のファイルで管理している

表計算のファイルで取引先や商品の一覧を持ち、写しを各部署が持つと、どれが最新か分からなくなります。表計算のファイルが増え続ける状態の原因と対策は、脱Excelが進まない原因を解消するデータ統合基盤の構築手法で扱っています。

整える手順

手順 1:対象を決める

最初から全部のマスタデータを整えようとせず、問題が大きいものから始めます。多くの会社では、取引先と商品が最初の対象になります。

手順 2:今どこにあるかを洗い出す

対象のマスタデータが、どの仕組みや表計算のファイルに、どの項目で登録されているかを一覧にします。同じ取引先がいくつの場所にあるかが分かると、問題の大きさが見えます。

手順 3:正とする場所を決める

どの仕組みの情報を「正」とするかを決めます。例えば、取引先は会計の仕組みを正とし、顧客の管理の仕組みはそこから情報を受け取る、という形です。正とする場所は、マスタデータの種類ごとに 1 つにします。

手順 4:項目と書き方の決まりを作る

マスタデータに持つ項目と、書き方の決まりを決めます。取引先なら、会社名の書き方、住所の書き方、取引先の番号の振り方などです。取引先を確かめる手がかりとして、国税庁が法人に指定している法人番号を項目に持つ方法もあります。

手順 5:重複と誤りを直す

決まりに沿って、既存の情報の重複と誤りを直します。表記の揺れをそろえ、電話番号や住所で照らし合わせて重複を見つけ、どれを残すかを判断します。この作業は手間がかかるため、よく使う取引先や、取引の多い商品から進めます。

手順 6:ほかの仕組みにつなぐ

正とする場所の情報を、ほかの仕組みが使えるようにします。仕組みの間で自動で情報を渡せるならつなぎ、それが難しい場合は、決まった日に写す手順を決めます。

登録と変更の決まり

整えた後に同じ問題が起きないよう、次の決まりを作ります。

決めること例
登録できる人取引先の新規の登録は経理の担当者だけが行う
登録の依頼の手順営業が新しい取引先を登録したいときは、決まった書式で依頼する
変更の手順住所や担当者が変わったら、気づいた人が依頼し、登録の担当者が直す
確かめる時期年に 1 回、使っていない取引先や重複を確かめる

登録できる人を絞ると、登録を待つ時間が生じます。依頼から登録までの目安の時間を決め、急ぎの場合の手順も用意しておくと、現場が表計算のファイルで勝手に管理を始めるのを防げます。

部署の間の調整の進め方

マスタデータを整える作業では、部署の間の調整が一番の難所になります。営業は顧客を担当者の単位で、経理は請求先の会社の単位で見ている、というように、同じ取引先でも部署によって必要な単位や項目が違うためです。どちらかの部署のやり方に合わせるだけでは、もう一方の業務が回らなくなります。

調整では、まず各部署がどの項目を何に使っているかを並べ、共通で持つ項目と、部署ごとに持つ項目を分けます。例えば、会社名・住所・取引先の番号は共通で持ち、営業の担当者や商談の状況は顧客の管理の仕組みだけで持つ、という分け方です。共通の項目は正とする場所で 1 つに保ち、部署ごとの項目は、取引先の番号でつないで各部署の仕組みで持ちます。

決まりを決める場には、各部署の実務の担当者に加わってもらいます。管理職だけで決めると、日々の登録の場面で困ることが見落とされます。決まりが決まったら、経営者や部署の責任者から、なぜ整えるのかを全社に伝えてもらうと、各部署が協力しやすくなります。

実行時の落とし穴

仕組みを入れることから始める

決まりを作らずに専用の仕組みを入れても、登録のたびに表記が揺れ、重複が増えます。決まりと担当を先に決めます。

一度整えて終わる

マスタデータは、取引先の移転や商品の改定など、少しずつ変わっていきます。変更の手順と、定期的に確かめる時期を決めておかないと、数年で元に戻ります。

現場の使い勝手を考えない

登録の依頼の手順が面倒だと、現場は自分たちの表計算のファイルで管理を続けます。依頼の書式を簡単にし、登録までの時間を短くします。