業務の効率化のためにSaaSを導入した。ところが、半年経ってもExcelへの転記が残り、入力の手間はむしろ増えている。
この状態の原因は、ツールの選定ミスではないことがほとんどです。部署ごとに違う業務のやり方を、揃えないままツールに載せようとしたことにあります。
本記事では、導入前に揃えるべき業務の手順と、カスタマイズするかどうかの判断基準を整理します。
二重入力が残る構造
導入後にExcelが残る理由は、おおむね次の3つに分かれます。
| 残る理由 | 何が起きているか | 対処の方向 |
|---|---|---|
| ツールで出せない集計がある | 部署独自の帳票や報告書の形式に、ツールの出力が合わない | 帳票の側を見直す、または出力設定を追加する |
| 入力の前に下書きが要る | 入力項目が多い、途中保存ができない、承認前に確認が必要 | 入力の手順を分ける |
| 部署ごとに入力のルールが違う | 同じ項目に、部署によって違う意味の値を入れている | 業務の手順を揃える |
前の2つは、ツールの設定や運用で解決できます。問題は3つ目です。
部署ごとに入力のルールが違う状態でツールを入れると、ツールの中のデータが部署を超えて使えません。結果として、全社の数字を出すには各部署のデータを誰かが手で揃える必要があり、そのための作業場所としてExcelが残ります。
揃えないまま導入すると何が起きるか
| 導入前の状態 | 導入後に起きること |
|---|---|
| A部は受注日を「契約書の日付」、B部は「発注書の受領日」で記録 | 同じ「受注日」でも月がずれ、月次の集計が合わない |
| A部は顧客名を正式名称で、B部は略称で入力 | 同じ顧客が別の顧客として登録され、取引履歴が分断される |
| A部は案件を見積時点で登録、B部は受注後に登録 | 案件数・受注率が部署間で比較できない |
| 承認の段数がA部は2段、B部は4段 | ワークフローを部署ごとに作ることになり、設定が複雑化する |
どれも、ツール自体に問題はありません。同じツールに違うルールでデータが入っていることが問題です。
導入前に揃えるもの
全業務を標準化してから導入しようとすると、何年もかかります。導入対象の業務のうち、次の4点だけを揃えます。
1. 項目の定義
同じ名前の項目に、全部署で同じ意味の値を入れるようにします。
| 項目 | 決めること |
|---|---|
| 日付 | 何の日付か(契約日/受領日/納品日) |
| 金額 | 税込か税抜か、値引き前か後か |
| 顧客名 | 正式名称か、どの表記に揃えるか |
| ステータス | 選択肢の一覧と、それぞれに移る条件 |
項目の定義を1枚の表にまとめ、導入時の設定の根拠にします。これが無いと、導入後に各部署から「この項目の意味が違う」という問い合わせが続きます。
2. 登録のタイミング
いつの時点でツールに登録するかを揃えます。見積時点で登録する部署と、受注後に登録する部署が混在すると、件数の比較ができなくなります。
3. 承認の段数
部署ごとに承認の段数が違う場合、揃えられないかを最初に検討します。4段ある部署の4段が本当に必要かを確認すると、慣習で残っているだけの段が見つかることが少なくありません。
4. 出力の形式
部署ごとに独自の報告書の形式を持っている場合、それをツールに合わせて作り直すか、全社で1つの形式に揃えます。独自の形式をツールに再現させようとすると、カスタマイズが増えます。
カスタマイズするかどうかの判断基準
「現場の業務に合わないから、ツールをカスタマイズする」という判断は、慎重に行う必要があります。カスタマイズが増えるほど、設定が複雑になり、担当者が替わると誰も保守できなくなります。
判断は、その業務のやり方に変えられない理由があるかで行います。
| 業務のやり方の根拠 | 判断 |
|---|---|
| 法令で決まっている | ツールを合わせる(カスタマイズする) |
| 取引先との契約で決まっている | ツールを合わせる |
| 業界の商慣習として、取引先側が変えない | ツールを合わせる |
| 社内の慣習、前任者のやり方 | 業務をツールの標準に合わせる |
| 「うちの部署は特殊だから」 | 業務をツールの標準に合わせる |
下の2行が大半を占めます。ツールの標準に業務を寄せられないかを先に検討し、それができない理由がある場合だけカスタマイズする、という順序を守ってください。
導入の進め方
| 段階 | やること | 完了の基準 |
|---|---|---|
| 1 | 導入対象の業務について、部署ごとのやり方の違いを洗い出す | 違いの一覧がある |
| 2 | 違いのうち、変えられない理由があるものを特定する | 根拠つきで分類されている |
| 3 | 理由のないものは、全社の標準を決める | 項目定義の表ができている |
| 4 | 標準に沿ってツールを設定し、1部署で先行して運用する | 二重入力なしで1か月回っている |
| 5 | 先行部署で出た問題を直してから、他部署へ広げる | 全部署で同じ設定で運用されている |
段階4で1部署に絞ることが重要です。全部署同時に始めると、問題が同時多発して対処が追いつかず、各部署が独自の回避策(=Excel)を作り始めます。
部署間の調整は、社内でしか決められない
ベンダーの導入支援を使えば、ツールの設定は進みます。しかし、業務のやり方をどう揃えるかは社内の決定です。部署間の利害を調整する必要があるからです。
ここをベンダーに任せると、各部署の要望をそのまま設定に反映する形になり、ばらばらのまま導入されます。標準化の決定権を持つ人を、社内に1人置いてください。
まとめ
- 導入後に二重入力が残るのは、ツールの問題ではなく、部署ごとに違う業務のやり方を揃えないまま載せたためです
- 揃えるのは全業務ではありません。項目の定義・登録のタイミング・承認の段数・出力の形式の4つです
- カスタマイズは、法令・契約・取引先の都合で変えられない場合に限ります。社内の慣習は業務の側を変えます
- 導入は1部署で先行し、問題を直してから広げます
- 業務の揃え方は社内でしか決められません。標準化の決定権を持つ人を置いてください
データの置き場そのものが部署ごとに分かれている場合は、脱Excelが進まない原因を解消するデータ統合基盤の構築手法も参考になります。



