絶対評価は、あらかじめ決めた基準に照らして一人ひとりを評価する方式で、相対評価は、同じ集団の中で順位を付けて評価する方式です。絶対評価は「なぜこの評価か」を基準で説明でき、育成につなげやすい一方、評価者の目線がそろっていないと評価が上に寄ります。相対評価は評価の分布を一定に保てる一方、全員が基準を満たしていても誰かが下位になり、協力よりも競争を促しやすくなります。人事評価では、評価そのものは基準に照らして行い、賞与や昇給の原資が限られている場合に、配分の段階でだけ順位や係数を使う組み合わせが扱いやすくなります。

相対評価と絶対評価の違い

観点絶対評価相対評価
何と比べるかあらかじめ決めた基準同じ集団のほかの人
結果の分布全員が上位になることも、全員が中位になることもある上位・中位・下位の割合があらかじめ決まる
本人への説明「この基準に届いた/届かなかった」で説明できる「ほかの人より上/下だった」という説明になる
育成との相性基準との差が次の課題になるため使いやすい順位は分かっても、何を直せばよいかが分かりにくい
起きやすい問題評価が上に寄る(寛大化傾向)同僚との協力を避ける、少人数だと偶然に左右される
人件費との関係原資の上限と連動させる仕組みが別に要る分布が決まっているため原資に収めやすい

国家公務員の人事評価の段階は、基準に照らす考え方で作られています。人事評価の基準、方法等に関する政令 第6条は、発揮した能力や果たした役割の程度が、その職員に求められる程度に達していると認めるときに付ける段階を、職員の区分ごとに定めています。つまり、ほかの人との比較ではなく「求められる程度に達しているか」が段階の基準になっています。

相対的な比較の弱点を示す公的な資料もあります。内閣人事局が管理職向けの「多面観察」(部下などが上司のマネジメント行動を観察して本人に伝える取り組み)の手法を見直した資料(「多面観察の新たな手法の方向性について」2025年3月)は、所属組織の平均と個人の結果を比べる方法について、組織平均からの乖離に危機感を覚える人には有効とする一方、相対比較であるために本人のマネジメントの課題そのものを明確にしにくいと整理し、平均との比較をやめる方向を示しています。

相対評価が組織に及ぼす作用

相対評価の弱点は、評価者の運用ではなく方式そのものから生まれます。

まず、上位の枠が決まっていると、同じ集団の同僚は協力相手であると同時に、枠を争う相手になります。ノウハウを共有すると自分の順位が下がる可能性があるため、情報を抱え込む動機が働きます。個人の成績だけを見る評価がチームの連携を損なう仕組みは、個別最適を助長する評価制度の欠陥で詳しく説明しています。

次に、評価の結果が本人の行動ではなく、周りの顔ぶれで決まります。優秀な人が集まった部署では、基準を十分に満たしている人でも下位に置かれます。本人から見ると、同じ働きをしても配属先で評価が変わることになり、評価への納得感が下がります。

さらに、評価者が「誰を下位にするか」を先に決め、それに合わせて個々の項目を調整するようになります。これは、処遇から逆算して評価を作り上げる逆算化傾向と同じ構造です。評価エラーの種類と防ぎ方は人事評価のエラーの種類と対策で整理しています。

一方で、絶対評価にも弱点があります。段階の定義があいまいだと、評価者は部下との関係を考えて上の段階を付けやすくなり、全員が高評価という状態が生まれます。この状態では評価が処遇の差の根拠にならず、実質的には年功で処遇が決まるのと変わらなくなります。

どちらを使うか:場面ごとの使い分け

場面向いている方式理由
行動・能力の評価絶対評価基準との差が育成の材料になる
目標の達成度の評価絶対評価期首に決めた目標が基準になる
賞与の原資の配分絶対評価の結果+配分の係数原資に上限があるため、配分の段階で調整する
昇格者の選抜(ポストに数の上限がある)絶対評価で候補を絞り、相対比較で選ぶ要件を満たした人の中から選ぶ形にする

要点は、「評価」と「配分」を別の段階に分けることです。評価は基準に照らして行い、本人への説明もその基準で行います。原資に上限があるときは、評価の段階ごとの係数を原資に合わせて調整し、その計算方法を社員に示します。こうすると、原資が少ない年でも「評価が下がった」のではなく「配分の係数が下がった」と説明でき、評価の意味が保たれます。

評価と配分を分けるときの考え方

評価と配分を分けるといっても、仕組みは複雑にする必要はありません。考え方は、評価の段階ごとに「配分の重み」を決めておき、その年の原資をその重みの合計で割って一人あたりの額を出す、というものです。段階の高い人ほど重みを大きくしておけば、原資が多い年も少ない年も、段階の差は処遇の差として保たれます。変わるのは一段あたりの金額だけで、誰がどの段階かという評価の結果は、原資の大小に左右されません。

この形にすると、評価者は「上位を何人にするか」を考えずに、基準に照らして評価することに集中できます。評価を付けるときに原資のことを考えさせないことが、逆算化傾向を防ぐ一番の方法です。一方で、全員が上の段階に寄ると、重みを掛けても一人あたりの差が小さくなり、処遇の差が付かなくなります。そのため、配分を分けても、段階の定義と審査の仕組みは欠かせません。

昇格のように数に上限がある判断では、順位を使うこと自体は避けられません。ただしその場合も、いきなり順位で選ぶのではなく、等級の要件を満たしているかを基準に照らして判断し、要件を満たした人の中から選ぶ形にすると、選ばれなかった人にも「要件は満たしている」という評価を伝えられます。選抜の結果と評価の結果を分けて伝えることで、次の機会に向けた本人の動機を保てます。

相対評価から絶対評価に移る手順

  1. 段階の定義を文章にする:各段階を「期待する行動がどのくらいとられていたか」で書きます。点数の目安だけにすると、評価者の目線がそろいません。
  2. 評価の審査役を置く:評価者の上の上司が、評価の甘辛の偏りを審査し、偏りがあれば評価者に再評価を求める段を設けます。国家公務員の人事評価でも、調整者が全体的な水準から見た甘辛の偏りを審査します(人事評価の基準、方法等に関する政令 第9条)。
  3. 配分の計算方法を決める:評価の段階と賞与・昇給の係数の対応表を作り、原資に合わせて係数を調整するルールを決めます。
  4. 1期は並行して試す:旧方式と新方式の両方で評価を出し、処遇の差がどの程度変わるかを確かめてから切り替えます。

移行時の落とし穴

  • 段階の定義を作らずに方式だけ変える:評価が一斉に上に寄り、処遇の差が付かなくなります。評価の甘さが常態化した組織の直し方は、客観的なデータに基づく絶対評価への移行法で扱っています。
  • 配分の係数を社員に示さない:評価は基準どおりでも、賞与が下がった理由を説明できず、「実は相対評価のまま」と受け取られます。
  • 賃金の決め方の変更を手続きなしで行う:評価方式の変更が賃金を下げる方向に働く場合は、労働者との合意か、合理性のある就業規則の変更が必要です(労働契約法 第8条〜第10条)。個別の判断は専門家に確認してください。

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