コンピテンシー評価とは、成果につながる行動を評価の基準として定め、社員が仕事の中で実際にとった行動を、その基準に照らして評価する方式です。保有している知識や潜在的な能力を評価する職能評価と違い、仕事の場で表に出た行動だけを見るため、評価の根拠を事実で示しやすいのが特徴です。一方で、基準が「リーダーシップ」「主体性」のような言葉のままだと、ほかの評価方式と同じように評価者の印象で決まります。導入の成否は、基準を自社の仕事の具体的な行動で書けるかどうかにかかっています。この記事では、評価項目の例と、自社の行動基準から項目を作る手順を説明します。

コンピテンシー評価と職能評価の違い

観点コンピテンシー評価職能評価(能力評価)
何を評価するか仕事の中で実際にとった行動保有している能力(知識・技能・潜在能力を含む)
基準の書き方「〇〇のときに△△している」という行動の文「〇〇ができる」「〇〇の知識がある」という能力の文
評価の根拠期間中に観察した行動の事実能力を持っていると判断した理由
起きやすい問題基準の文が抽象的だと印象評価に戻る能力の有無を確かめにくく、年功で評価が上がりやすい

公的な制度でも、行動で評価する考え方がとられています。国家公務員の能力評価は、評価期間に職員が職務遂行の中で実際にとった行動を、評価項目ごとに定めた行動に照らして評価すると定められています(人事評価の基準、方法等に関する政令 第4条第3項)。内閣人事局・人事院の「人事評価ガイド《評価者・調整者の手続編》」(2022年6月版)も、人事評価は被評価者が保有するすべての能力や潜在的な能力を評価するものではなく、職務行動を通じて表に出た能力と職務の結果を把握するものだと説明しています。

コンピテンシー評価が形だけになる構造

コンピテンシー評価を導入しても、数年で「結局は上司の印象で決まっている」と言われるようになる会社があります。原因は主に三つあります。

一つ目は、基準を外部の一覧から持ってきたことです。一般的な項目の一覧は、多くの会社に当てはまるように抽象的な言葉で書かれています。そのまま使うと、評価者は項目の意味を自分の経験で補い、印象で段階を付けるようになります。

二つ目は、成果との関係を確かめていないことです。コンピテンシーは本来、成果を上げている人に共通する行動を基準にする考え方です。自社で成果を上げている人が実際にどう動いているかを確かめずに項目を決めると、評価の高い人と成果を上げている人が一致しなくなり、制度の信頼が失われます。

三つ目は、行動の事実を記録していないことです。行動で評価すると決めても、期中の行動を記録していなければ、期末に評価者が思い出せるのは印象の強い出来事だけです。評価の根拠が事実から印象に戻り、項目の違いを区別しない評価が増えます。

コンピテンシー評価の項目の例

以下は、よく使われる項目を、担当者と管理職で書き分けた例です。自社の仕事に合わせて言葉を書き換えて使います。

項目担当者に期待する行動管理職に期待する行動
顧客への対応顧客の依頼の目的を確かめてから作業に入っている顧客の声をチームの仕事の改善に反映する場を設けている
計画と段取り作業の手順と期限を事前に書き出しているチームの仕事を優先順位で並べ、やめる仕事も決めている
情報の共有問題が起きたらその日のうちに上司に報告している部署をまたぐ情報を、関係者が参照できる形で残している
課題の解決ミスの原因を調べ、再発防止策を提案している繰り返し起きる問題を仕組みの側で直す手を打っている
人の育成自分の知見を手順書などの形で後輩に渡しているメンバーごとに育成の課題を決め、機会を割り当てている

厚生労働省の「職業能力評価基準」は、仕事に必要な知識と技術・技能に加えて、成果につながる職務行動例を、業種別、職種・職務別に整理しており、56業種で作られています。レベルは、会社で期待される責任・役割の範囲と難易度によって4段階に分かれています。自社の業種の基準から行動例を拾い、自社の言葉に置き換えると、項目づくりの手間を減らせます。

自社の行動基準から項目を作る手順

  1. 成果を上げている人の行動を集める:各部署で成果を上げている人と、その上司に、成果につながった具体的な出来事を聞き取ります。「どんな場面で、何をして、どうなったか」の形で集めると、行動の文に直しやすくなります。
  2. 共通する行動をまとめて項目にする:集めた出来事を似たものどうしでまとめ、5〜8個程度の項目に絞ります。成果を上げていない人にも同じ行動が見られる場合は、その行動は成果との関係が薄いため外します。
  3. 等級ごとに期待する行動を書き分ける:同じ項目でも、担当者と管理職では期待する行動の範囲が違います。上の表のように、等級ごとに1〜2文で書き分けます。
  4. 段階を行動の頻度で定義する:「期待する行動が基本的にとられていた」を真ん中の段階に置き、「上回る行動が頻繁にとられていた」「とられないことがやや多かった」のように頻度で上下を書き分けます。段階の書き方は人事評価の評価項目の例で詳しく示しています。
  5. 試行して、評価と成果の関係を確かめる:最初の1期は処遇に反映せずに評価し、評価の高い人と成果を上げている人が一致しているかを確かめます。一致しない項目は、書き方か項目の選び方を見直します。

行動を観察して記録するときの考え方

コンピテンシー評価は、評価者が期間中の行動をどれだけ事実として持っているかで精度が決まります。前出の人事評価ガイドは、記憶は時間とともに鮮明でなくなるため、必要に応じて記録にとどめておくことが有益だとし、「職務行動記録メモ」の様式を参考として示しています。記録するのは「いつ、どの場面で、何をしたか」という事実で、「頑張っていた」「頼りになる」のような感想は書きません。感想は評価の段階そのものであり、根拠にはならないからです。

記録は、良い行動と改善が必要な行動の両方を残します。どちらか一方だけを記録すると、期末には記録のある側に評価が引き寄せられます。また、評価者が直接見られない行動もあります。外回りの多い営業職や、別の拠点で働く人の行動は、関係する部署の担当者から事実を聞き取り、誰から聞いた事実かを添えて記録します。

記録した事実は、期末の評価だけでなく、期中の1on1で本人に伝えるのにも使います。行動の基準に照らして「この場面のこの行動は期待どおりだった」「この場面では基準の行動がとられていなかった」と、その時点で伝えておけば、期末の評価が本人にとって意外なものになりません。行動の評価は育成と結びつけやすい方式であり、その利点は期中に事実を返すことで初めて生きます。

業績の評価と組み合わせるときの考え方

コンピテンシー評価は、行動を見る評価です。行動がそろっていても、それが成果に結びついていなければ、会社にとっての貢献は限られます。反対に、成果だけを見ると、運や担当先の違いで評価が上下し、再現性のある行動を育てる材料になりません。そのため多くの制度では、行動を見る評価と、目標の達成度を見る業績の評価を組み合わせています。国家公務員の人事評価も、能力評価と業績評価の2本立てです(人事評価の基準、方法等に関する政令 第4条)。

組み合わせるときは、それぞれの評価をどの処遇に反映させるかを先に決めます。行動の評価は、身につけた行動が次の期以降も続くと考えられるため、昇給や昇格のように長く効く処遇に向いています。業績の評価は、その期の結果を表すため、賞与のようにその期で完結する処遇に向いています。反映先を分けておくと、一時的な成果で等級が上がったり、成果が出ない期に行動の評価まで下がったりすることを避けられます。

導入時の落とし穴

  • 挑戦や失敗を評価の外に置く:行動の基準が「ミスをしない」ことに寄ると、新しいことに手を出す人ほど評価が下がります。挑戦の行動を項目に入れる考え方は挑戦を促す人事評価システムの構築と失敗を恐れる若手に向けた加点評価への移行法で扱っています。
  • 一つの出来事で複数の項目を評価する:印象に残った出来事一つで、関連のありそうな項目をまとめて高く付けると、項目を分けた意味がなくなります。評価エラーの種類と防ぎ方は人事評価のエラーの種類と対策にまとめています。
  • 行動要件を一度作って更新しない:事業や組織が変わると、成果につながる行動も変わります。少なくとも年に1回、項目と行動の文を見直します。行動要件を言葉にする手順は行動要件の言語化プロセスが参考になります。

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出典