人事評価のエラーとは、評価者が部下を評価するときに陥りやすい判断の偏りのことです。代表的なものに、全体の印象で個々の項目まで同じように評価してしまう「ハロー効果」、評価が甘くなる「寛大化傾向」(逆に辛くなる「厳格化傾向」)、大半を「普通」にしてしまう「中心化傾向」、関連がありそうな項目を同じように評価する「論理的錯誤」、自分を基準にしてしまう「対比誤差」、処遇から逆算して評価を作る「逆算化傾向」があります。これらは評価者の性格ではなく、記録の不足や項目の書き方、評価と処遇の関係といった条件から生まれます。この記事では、国家公務員の人事評価ガイドが示す種類と対応策を整理したうえで、エラーを制度の側で減らす方法を説明します。

評価エラーの種類と対応策

内閣人事局・人事院の「人事評価ガイド《評価者・調整者の手続編》」(2022年6月版)は、評価者が陥りやすいエラーとその対応策を次のように整理しています。表の内容は同ガイドの記載を要約したものです。

エラーどういう傾向か対応策
ハロー効果全体的な印象や一つの印象から、個々の特性まで同じように評価する特性を区別し、項目の内容に即した具体的な行動の事実で評価する。一つの事実は一つの項目だけで評価する
寛大化傾向長く一緒に働いているなどの人情から、評価が甘くなる見分ける力を身につけ、段階の解説に照らして目線が甘すぎないか確かめる
厳格化傾向評価が全般に基準より辛くなる(寛大化傾向と表裏)寛大化傾向と同じく、段階の解説に照らして目線を確かめる
中心化傾向大部分を「普通」「平均的」とし、優劣の差を付けることを避ける被評価者についての具体的な事実を十分に知る
論理的錯誤自分の論理を持ち込み、関連がありそうな項目に同じような評価をする項目ごとに何を評価するのかの区別をはっきり認識する
対比誤差自分の能力を基準にし、得意な分野は厳しく、苦手な分野は甘く評価する自分を基準に置かず、期待される水準と客観的な事実で評価する
逆算化傾向処遇(全体の評価)から逆算して、個々の評価を作り上げる処遇は考慮せず、具体的な行動の分析を経てから評価する

同じガイドは、評価の対象を評価期間内の行動に限り、前回の評価結果や評価期間外の実績に影響されないこと、評価期日に近い時期の事実だけでなく期間全体の事実に基づいて評価することも求めています。期末に近い出来事に引きずられる誤りは、期末誤差と呼ばれることもあります。

評価エラーが起きる構造

エラーの一覧を覚えても、評価の場で同じ誤りが繰り返されるのは、エラーを生む条件が制度の側に残っているからです。

一つ目の条件は、判断に使える事実が足りないことです。半年や1年の間に部下がとった行動を、評価の時期になってから思い出そうとしても、記憶に残っているのは印象の強い出来事と直近の出来事だけです。事実が足りないとき、評価者は全体の印象で埋めるしかなくなり、ハロー効果と中心化傾向が同時に起きます。

二つ目の条件は、項目の境目があいまいなことです。「積極性」と「粘り強さ」のように、どちらにも当てはまりそうな行動がある項目が並んでいると、評価者は一つの出来事で両方の項目を評価してしまいます。これが論理的錯誤です。項目ごとに「何を見るのか」が書き分けられていないと、評価者がどれだけ注意しても防げません。

三つ目の条件は、評価と処遇が直結していて、評価者がその結果を知っていることです。「この人の賞与を下げたくない」という気持ちがあると、評価者は全体の段階を先に決め、それに合わせて個々の項目の段階を調整します。これが逆算化傾向です。部下と長く同じ職場にいて関係を壊したくない場合は、寛大化傾向として表れます。

四つ目の条件は、評価者が一人で決めていることです。評価者本人は自分の目線が甘いのか辛いのかを知る手段を持たず、偏りがあっても誰も気づきません。

制度の側でエラーを減らす方法

期中に事実を記録する仕組みを作る

評価の材料は、期末に思い出すのではなく、期中に書き留めます。前出のガイドは、記憶は時間とともに鮮明でなくなるため、必要に応じて記録にとどめておくことが有益だとし、参考として「職務行動記録メモ」の様式も示しています。記録の項目は、日付、出来事、関係する評価項目の三つで足ります。1on1 や週次の打ち合わせの記録から転記すると、評価者の手間が増えません。

1つの事実は1つの項目だけで評価するルールにする

評価シートに「根拠となった事実」の欄を設け、同じ事実を複数の項目の根拠に使えないようにします。これはガイドがハロー効果の対応策として挙げている考え方でもあります。項目の書き方そのものを見直す場合は、人事評価の評価項目の例で示した、1項目で1つのことだけを見る書き方が役に立ちます。

上位者が評価のばらつきを審査する

評価者の上の上司を審査役に置き、評価の偏りを確かめる段を設けます。国家公務員の人事評価では、調整者が「自己の把握する事実と評価者の評価とが大きく食い違っていないか」「特定の部分に重きを置き過ぎたバランスを欠く評価になっていないか」「全体的な水準から見た評価の甘辛などの偏りがないか」といった観点で審査し、偏りがある場合は評価者に再評価を求めます。評価を修正する場合は、評価者に理由を十分に説明することも求められています。本人に結果を説明するのは評価者であり、評価者が理由を説明できなければ面談が成り立たないからです。

評価者どうしで目線を合わせる

評価の前に、同じ架空の事例を全評価者がそれぞれ評価し、結果を見せ合う場を設けます。段階の付け方の違いが具体的に見えるため、「普通」の意味がそろっていきます。評価の後には、評価者ごとの段階の分布を並べ、極端に偏った評価者と個別に話します。

評価者が自分のエラーに気づく確かめ方

制度を整えたうえで、評価者自身が評価を提出する前に確かめられる点を決めておくと、審査役の負担も減ります。確かめ方は、付けた段階の並び方を見るだけの簡単なもので構いません。

まず、一人の部下について、すべての項目が同じ段階になっていないかを見ます。報告の速さと成果物の正確さのように性質の違う項目が、そろって同じ段階になっている場合は、全体の印象で付けている可能性があります。項目ごとに根拠の事実を一つずつ挙げられるかを確かめ、挙げられない項目は段階を付け直します。

次に、自分が評価した部下全員の段階を並べ、中間の段階に集まりすぎていないか、上の段階に偏っていないかを見ます。部下の仕事ぶりに実際に差があるのに段階の差がほとんどない場合は、中心化傾向を疑います。全員が上の段階にいる場合は、段階の定義の文章をもう一度読み、自分の目線が定義より甘くなっていないかを確かめます。

最後に、全体の段階を先に決めていなかったかを振り返ります。「この人は今期よく頑張ったから全体で上の段階」と考えてから個々の項目を埋めた場合は、逆算化傾向にあたります。個々の項目を事実に基づいて先に付け、全体の段階はその結果から導く順序を守ることが、ガイドの示す対応策とも一致します。

実行時の落とし穴

  • 分布を強制して中心化を防ごうとする:上位と下位の人数を決めると、中心化は見かけ上なくなりますが、評価の根拠が事実から枠の配分に移ります。枠を使うかどうかは、評価が甘い組織で中心化を防ぐ設計とあわせて慎重に判断してください。
  • 審査役が自分の評価で上書きする:審査役が理由を示さずに段階を変えると、評価者は次から審査役の顔色を見て評価するようになり、逆算化傾向が強まります。修正するときは理由を評価者に伝え、記録に残します。
  • 研修をエラーの暗記で終わらせる:エラーの名前を覚えても、評価の場で自分の偏りに気づけるとは限りません。自分の評価の分布を見る機会と組み合わせます。

評価の甘さが制度全体の問題になっている場合は、客観的なデータに基づく絶対評価への移行も参考になります。人事・評価のほかの記事は人事・評価にまとめています。

出典