人事評価制度は、評価シートから作り始めると失敗しやすくなります。先に「評価の目的と結果の反映先」「等級(役割の段)」を決め、そのうえで「何を評価するか(評価の軸)」「段階の定義」「評価の手順」「報酬への反映のルール」を順に決めると、評価と処遇がつながった制度になります。公開されている設計の見本としては、国家公務員の人事評価が参考になります。能力評価と業績評価の2本立て、評価者と調整者の2段の審査、期首と期末の面談といった仕組みが、政令と内閣人事局の資料で細かく公開されているためです。この記事では、その仕組みを中小企業の規模に合わせて読み替えながら、7つの手順と運用で崩れる点を説明します。

人事評価制度が回らなくなる構造

評価制度が運用の途中で止まる会社には、作り方の順序に共通点があります。

一つ目は、評価シートから作っていることです。項目と点数の欄を先に決めると、評価の結果を昇給・賞与・昇格のどれに、どの割合で反映するのかが後回しになります。期末に点数は出ても処遇との対応が決まっていないため、最後は経営者が総合的に判断して金額を決めることになり、社員から見ると「評価と給与が関係していない」制度になります。

二つ目は、評価の目的が混ざっていることです。処遇を決めるための評価と、育成のための評価では、求める情報の細かさも、結果の見せ方も違います。どちらにも使うのであれば、どの部分をどちらに使うのかを先に分けておく必要があります。国家公務員の人事評価は、目的を「能力・実績を正確に把握して、任用、給与等の人事管理の基礎とするとともに、人材育成やパフォーマンス向上につなげる」と明記したうえで、手続きを組み立てています(内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《評価者・調整者の手続編》」2022年6月版)。

三つ目は、評価者に解釈を任せていることです。「積極性」「協調性」のような言葉だけの項目は、評価者ごとに意味がずれます。同じガイドは、評価基準への理解にばらつきがあると、評価者が自分の価値判断や経験で項目を解釈し、思惑や感情が入りやすくなると指摘しています。評価者の努力で揃えるのではなく、項目と段階の書き方で揃える必要があります。

作る前に決めること(判断材料)

制度の中身に入る前に、次の7点を決めておきます。ここが決まらないまま項目を作ると、後から作り直すことになります。

決めること選択肢の例決め方の目安
評価の目的処遇の決定/育成/配置主な目的を一つ決め、他は従とする
反映先昇給/賞与/昇格反映先ごとに、使う評価の軸を決める
対象者正社員のみ/有期・短時間を含む待遇差の説明ができる範囲で決める
評価の軸業績(目標の達成)/能力・行動等級が上がるほど業績の比重を高くする
段階の数3段階/5段階/6段階段階ごとの定義を文章で書ける数にとどめる
評価期間半期/年1回業績は半期、能力・行動は年1回が扱いやすい
評価者直属の上司+その上の上司1人で決めず、2段で見る

人事評価制度の作り方:7つの手順

手順1:目的と反映先を決める

最初に、評価の結果を何に使うかを決めます。昇給に使うのか、賞与に使うのか、昇格の判断に使うのかで、必要な評価の軸と期間が変わります。たとえば賞与を半期ごとの業績で決めるなら、業績の評価は半期で区切る必要があります。昇格の判断に使うなら、1回の評価ではなく複数回の結果を見るルールが要ります。

手順2:等級(役割の段)を定義する

次に、社員を役割の大きさで何段かに分けます。等級ごとに「この段の人に期待する仕事の範囲と責任」を文章にしておくと、評価の基準がそこから導けます。等級の段の数は、社員数と職種の数に見合った数にとどめます。厚生労働省の「職業能力評価基準」は、会社で期待される責任・役割の範囲と難易度によって4つのレベルを設定しており、段の数や書き方の参考になります。

手順3:評価の軸を決める

評価の軸は、大きく「業績(期首に決めた目標や役割をどれだけ果たしたか)」と「能力・行動(仕事の中でどのような行動をとったか)」の二つに分けると整理しやすくなります。国家公務員の人事評価も、能力評価と業績評価の2本立てです。能力評価は、評価期間に職員が職務遂行の中で実際にとった行動を、評価項目ごとに定めた行動に照らして評価し、業績評価は、あらかじめ示した役割を果たした程度を評価すると定められています(人事評価の基準、方法等に関する政令 第4条)。性格や人柄ではなく、行動と結果を見るという線引きを、制度の文書に書いておくことが大切です。

手順4:評価項目と段階の定義を書く

評価項目は、等級ごとに5〜8個程度に絞り、それぞれに「期待する行動」を1〜2文で書きます。段階は、点数ではなく「期待する行動がどのくらいとられていたか」で定義すると、評価者の解釈がずれにくくなります。国家公務員の能力評価では、課長級以下の個別の評語を6段階とし、「望ましい行動が基本的にとられていた」を「良好」、「望ましい行動がとられないことがやや多かった」を「やや不十分」のように、行動の頻度で定義しています(同ガイド 参考資料「評語等の解説」)。項目の具体例は、人事評価の評価項目の例で職種別に示します。

手順5:評価の手順を決める

誰が、どの順で、何をするかを決めます。国家公務員の定期評価は、本人の自己申告、評価者による評価、調整者による審査(評価の不均衡の有無を見る)、実施権者による確認、本人への結果の開示、評価者による面談での指導・助言、という順で進みます(同政令 第8条〜第11条)。中小企業では実施権者を経営者、調整者を部門長に置き換えると、同じ骨組みで回せます。上司1人で決めない仕組みにすることで、評価の甘さ・辛さの偏りを二人目が見つけられます。

手順6:報酬への反映ルールを決め、就業規則に書く

評価の段階ごとに、昇給額(または昇給の幅)と賞与の係数を決めます。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則に「賃金の決定、計算及び支払の方法」と「昇給に関する事項」を書いて届け出る必要があります(労働基準法 第89条)。評価の結果を昇給に使うなら、そのことを昇給の定めに書いておきます。既存の賃金を下げる方向の変更は、労働者との合意か、変更の必要性や内容の相当性などに照らして合理的な就業規則の変更が必要です(労働契約法 第8条〜第10条)。個別の判断は社会保険労務士などの専門家に確認してください。

手順7:試行して、評価と処遇のずれを確かめる

最初の1期は処遇に反映しない試行期間とし、評価の分布と、従来の方法で決めた昇給・賞与とのずれを確かめます。ずれが大きい部署は、項目の書き方か評価者の目線に問題がある可能性が高いため、そこを直してから本番に移ります。

運用で崩れる落とし穴

  • 項目を増やしすぎる:網羅しようとして項目が20を超えると、評価者が全項目に同じ点を付けるようになります。1項目で1つのことだけを見る書き方にし、数を絞ります。
  • 評価者に項目の意味を説明しない:制度を配っただけでは、評価者は自分の経験で項目を読みます。評価エラーの種類と防ぎ方を、最初の評価の前に全評価者で確認します。評価の甘さが生まれる仕組みは人事評価が甘くなる構造と中心化を防ぐ設計で扱っています。
  • 反映ルールを社員に公開しない:段階と昇給の対応を伏せると、社員は評価の結果を処遇の説明として受け取れません。対応表は就業規則や賃金規程とあわせて周知します(労働基準法 第106条は就業規則の周知を義務づけています)。
  • 有期・短時間の社員を対象から外したまま説明を用意しない:短時間・有期雇用労働者から求めがあれば、通常の労働者との待遇の相違の内容と理由を説明する義務があります(短時間・有期雇用労働法 第14条第2項)。対象から外すなら、その理由を説明できるようにしておきます。
  • 行動要件を書かずに「理念の体現」を項目にする:理念を評価に入れるなら、行動に分解してから項目にします。手順は行動要件の言語化プロセスと企業理念を評価基準に落とし込む設計を参照してください。

評価制度は一度作れば終わりではなく、事業の変化に合わせて項目と比重を見直す前提で作ります。人事・評価のほかの記事は人事・評価にまとめています。

出典