RJPとは、Realistic Job Preview(現実的な仕事の事前開示)の略で、応募者に仕事と会社の良い面だけでなく厳しい面も入社前に伝え、本人が納得したうえで入社を決められるようにする採用の方法です。1970年代に米国の研究者 Wanous が広めた考え方で、入社後の「聞いていた話と違う」という離職を減らすことを狙います。ただし、研究を束ねた分析では、離職を減らす効果は「控えめ」とされており、これだけで早期離職がなくなるわけではありません。この記事では、研究で分かっている効果と伝え方の例文を示し、導入の手順と落とし穴を扱います。
早期離職が採用の段階でつくられる構造
入社して間もない離職は、本人の我慢の問題として片付けられがちですが、採用の段階に原因があることが少なくありません。
- 採用する側は魅力を伝えたい:応募を集めたいので、仕事のやりがいや働きやすさが中心になり、繁忙期や地味な作業の話は後回しになります
- 候補者は聞きにくい:残業や人間関係のことを聞くと評価が下がると考え、確かめないまま入社します
- 期待と実際の差が入社後に一度に出る:最初の数か月で差に気づき、「ここではない」と判断します
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(令和7年公表)では、2022年3月に卒業して就職した人の3年以内の離職率は、大学卒で33.8%、高校卒で37.9%でした。大学卒を事業所の規模別に見ると、5〜29人の事業所で52.0%、1,000人以上で27.0%と、規模が小さいほど高くなっています。小さな会社ほど一人の離職の重みが大きく、採用の段階で差を小さくしておく意味があります。
また、厚生労働省「雇用動向調査」(令和6年)で転職した人が前の職場を辞めた理由を見ると、「その他」を除いた上位には、女性では「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.8%、「職場の人間関係が好ましくなかった」11.7%、男性では「給料等収入が少なかった」10.1%が並びます。労働時間や賃金は、入社前に数字で伝えられる項目です。
RJPの判断材料
研究で分かっていること
米国の児童福祉分野の人材研究をまとめた QIC-WD の資料(Graef, 2020)は、RJPに関する複数の分析を次のように整理しています。
| 論点 | 分かっていること |
|---|---|
| 離職を減らす効果 | 効果はあるが小さい。仕事の内容が複雑な場合に効果が出やすい(McEvoy & Cascio, 1985) |
| 伝える時期 | 入社後に伝えたほうが、入社前より離職への効果がわずかに大きい(Earnest et al., 2011) |
| 伝え方 | 動画は応募者の受け入れや「会社が正直だ」という印象を高め、口頭は離職を減らす効果が大きい(Earnest et al., 2011) |
| 副作用 | 応募者から見た会社の魅力を下げうる |
つまり、RJPは「言っておけば辞めない」道具ではなく、期待と実際の差を小さくする手段の一つです。
伝え方の比較
| 伝え方 | 伝えられること | 手間 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 求人票・募集ページの文章 | 仕事の流れ、繁忙期、求める条件 | 小さい | すべての募集 |
| 面接での説明 | 具体的な場面、候補者の質問への回答 | 中くらい | すべての選考 |
| 職場の見学 | 職場の雰囲気、実際の作業 | 中くらい | 現場の仕事、工場・店舗など |
| 現場の社員との面談 | 1日の流れ、苦労する点、人間関係 | 中くらい | 内定の前後 |
| 仕事の一部の体験 | 仕事への向き不向き | 大きい | 技術職、仕事の内容が想像しにくい職種 |
求人票・面接で使える書き方の例文
| 伝えたいこと | 魅力だけの書き方 | RJPの書き方 |
|---|---|---|
| 繁忙期 | 「メリハリのある働き方」 | 「3月と9月は決算対応で、月20時間前後の残業があります。それ以外の月はほぼ定時です」 |
| 仕事の地味な部分 | 「幅広い業務を経験できます」 | 「入社後3か月は、伝票の入力と電話の一次対応が仕事の半分を占めます」 |
| 教え方 | 「充実した研修制度」 | 「研修は入社初日の1日だけで、その後は先輩について仕事を覚えます」 |
| 人の少なさ | 「少数精鋭のチーム」 | 「担当は3人で、休みを取るときは互いに業務を代わります」 |
例文の数字は書き方の見本です。実際の数字は自社の実態に合わせて書いてください。職業安定法第5条の4は、募集の情報を虚偽や誤解を生む表示にしないこと、正確で最新の内容に保つことを求めています。RJPは、この求めを一歩進めて、候補者の判断に必要な厳しい面まで伝える考え方ともいえます。
RJPを取り入れる手順
手順1:入社1年以内に辞めた人の理由を集める 退職面談の記録や、残っている同期の話から、「聞いていなかった」と言われた点を洗い出します。
手順2:伝える厳しい面を3〜5つに絞る 繁忙期、地味な作業、教え方、人間関係、配置の変更など、候補者の判断を左右する点に絞ります。
手順3:求人票と面接の説明を書き直す 上の例文のように、場面と数字で書きます。求める人物像と合わせて見直す方法は、採用ミスマッチの原因は要件の曖昧さ。選考基準を可視化するで扱っています。
手順4:現場の社員と話す場を設ける 内定の前後に、配属先の社員と30分ほど話す場を設けます。候補者が質問しやすいよう、人事や面接官は同席しない形も検討します。
現場の社員には、次の項目を話してもらうよう事前に頼んでおくと、話が雑談で終わりません。
- □ 入社した頃に一番戸惑ったこと
- □ 1日の仕事の流れと、忙しい時間帯
- □ 今の仕事で大変だと感じていることと、それでも続けている理由
- □ 困ったときに誰に相談しているか
- □ 入社前に知っておきたかったこと
社員が話しにくい点を無理に言わせる必要はありません。「話せる範囲で」と伝えたうえで、会社として説明すべき点は人事が補います。
手順5:入社後の受け入れでも同じ話をする 入社直後の面談で、入社前に伝えた厳しい面が実際にどうだったかを確かめます。受け入れの手順をそろえる方法は、OJTが放置になる構造と、オンボーディング標準化の設計手順が参考になります。
RJPで起きやすい落とし穴
- 応募が減ったことだけを見て止める:応募の数ではなく、入社1年以内の離職や内定辞退と合わせて判断します。選考の段階ごとの数え方は、採用の歩留まりとは|計算方法と内定辞退を減らす改善手順で扱っています
- 厳しさを大げさに伝える:実際より悪く伝えると、合う人まで応募を控えます。事実と数字で伝えます
- 「伝えたのだから我慢して」と使う:RJPは入社後の問題を放置してよい理由にはなりません。伝えた厳しい面のうち、直せるものは直します
- 伝える内容が古くなる:繁忙期や体制が変わったら、求人票と説明を書き直します
採用と選考を扱うほかの記事は、人事・評価にまとめています。
出典
- QIC-WD「Realistic Job Previews」(Graef, 2020) https://www.qic-wd.org/umbrella-summary/realistic-job-previews
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します」(2025年) https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00010.html
- 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」(2025年) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/dl/gaikyou.pdf
- e-Gov法令検索「職業安定法」第5条の4 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000141



