採用管理システム(ATS:Applicant Tracking System)とは、応募者の情報と選考の進み具合を1か所にまとめ、面接の日程調整・評価の記録・応募者への連絡・集計を同じ画面で行う仕組みです。Excelやメールでの管理と比べた利点は、連絡漏れが減ること、面接官の評価が1か所に集まること、選考の段階ごとの人数が自動で数えられることです。一方で、導入しても入力されずにExcelへ戻る会社も少なくありません。原因の多くは製品ではなく、入力項目と運用の決め方にあります。この記事では、主な機能と選び方を先に示し、後半で導入の手順と、使われなくなる理由と直し方を扱います。
Excelとメールの管理が破綻する構造
応募者の管理がExcelとメールで回らなくなるのは、次のことが重なったときです。
- 応募の経路が増える:求人サイト、自社の募集ページ、ハローワークなどから別々に届き、一覧に転記する手間と漏れが出ます
- 面接官が増える:評価がメールや紙に散らばり、誰がどう評価したかが1か所で見えません
- 連絡を複数人で分ける:誰がいつ連絡したかが分からず、二重に連絡したり、連絡が漏れたりします
- 応募書類がメールの添付で散らばる:誰がどこに保存したか分からず、不要になった書類も消せません
特に4は個人情報の管理の問題です。職業安定法にもとづく指針は、応募者の個人情報について、正確かつ最新に保つ措置、漏えいを防ぐ措置、権限のない人が見られないようにする措置、不要になった情報を破棄・削除する措置を講じることを求めています。
採用管理システムの機能と選び方
主な機能の一覧
| 機能 | できること | 解決する問題 |
|---|---|---|
| 応募の取り込み | 求人サイトや募集ページからの応募を自動で一覧に入れる | 転記の手間と漏れ |
| 選考の段階管理 | 応募者ごとに「書類選考」「一次面接」などの段階を管理する | 誰がどこまで進んでいるか分からない |
| 日程調整 | 面接官の空き時間を示し、応募者が選べるようにする | 日程のやり取りの往復 |
| 評価の記録 | 面接官ごとの評価を同じ項目で記録する | 評価の散らばり |
| 連絡のひな形 | 書類通過・面接案内・結果の連絡を定型文で送る | 連絡の遅れと文面のばらつき |
| 集計 | 段階ごとの人数・日数・応募経路ごとの結果を出す | 歩留まりが数えられない |
| 権限の管理 | 面接官が担当する応募者だけを見られるようにする | 見なくてよい人が個人情報を見る |
| 保存期間と削除 | 決めた期間が過ぎた応募者の情報を消す | 不要な個人情報が残り続ける |
Excel管理との比較
| 観点 | Excel・メール | 採用管理システム |
|---|---|---|
| 費用 | ほぼかからない | 月額などの利用料がかかる |
| 始めるまでの手間 | すぐ始められる | 項目・段階・権限の設定が要る |
| 連絡漏れ | 担当者の注意に頼る | 期限と未対応の一覧で気づける |
| 評価の集約 | 手で集める | 面接官が入力すれば集まる |
| 見られる人の制限 | ファイル単位でしか分けにくい | 応募者・募集ごとに分けられる |
| 集計 | 手で数える | 自動で出る |
選ぶときのチェックリスト
- □ 使っている応募の経路から、応募を取り込めるか
- □ 選考の段階を、自社の進め方に合わせて変えられるか
- □ 面接官がスマートフォンからでも評価を入力できるか
- □ 面接官ごとに、見られる応募者を制限できるか
- □ 保存期間を決めて、期間が過ぎた情報を消せるか
- □ 提供する会社の安全管理の体制を確かめられるか
最後の項目は、個人情報保護法との関係で必要です。同法は個人データの漏えい・滅失・毀損を防ぐ安全管理の措置を求め(第23条)、個人データの取り扱いを外部に委託する場合は、委託先に対して必要かつ適切な監督を行うことを求めています(第25条)。
採用管理システムを導入する手順
手順1:選考の段階と、各段階の連絡の期限を決める システムを選ぶ前に、今の選考の段階と、段階ごとの連絡の期限を紙に書き出します。段階ごとの人数の数え方は、採用の歩留まりとは|計算方法と内定辞退を減らす改善手順で扱っています。
手順2:入力する項目を絞る 必須にする項目は、連絡と判断に要るものだけにします。項目が多いほど入力されなくなります。
手順3:評価の項目をそろえる 面接官が入力する評価の項目を、面接評価シートと同じにします。評価の項目の作り方は、面接評価シートの形骸化を防ぐ、基準の構造化とデータ運用設計が参考になります。
手順4:権限と保存期間を決める 誰がどの応募者を見られるか、不採用や辞退の後の情報を何か月残すかを決め、応募者に示す利用目的の文面と合わせます。
応募の画面や募集ページに示す利用目的は、たとえば次のように書きます。
ご応募の際にお預かりした氏名・連絡先・経歴などの情報は、採用選考の実施、選考に関するご連絡、採用後の雇用管理の準備にのみ使います。選考の結果、採用に至らなかった方の情報は、選考の終了後〇か月以内に削除します。情報は採用の担当者と面接を担当する社員だけが閲覧します。
指針は、利用目的を応募者が一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に示すことを求めています。「採用活動のため」だけでは、何に使われるのかが応募者から分かりません。使う場面、残す期間、見る人の範囲を書くと、応募者の不安を減らせます。〇か月の部分は、自社で決めた期間を入れてください。
手順5:1つの募集で試してから広げる 最初の1か月は1つの募集だけで使い、入力されない項目や手間の多い操作を洗い出してから、ほかの募集に広げます。
入力されずにExcelへ戻る理由と直し方
| 戻ってしまう理由 | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
| 必須の項目が多い | 面接官が入力を後回しにし、結局人事が代わりに入れる | 必須を連絡と判断に要る項目だけにする |
| Excelも並行して残している | 二重入力になり、慣れたExcelが優先される | 切り替えの日を決め、それ以降はExcelを更新しない |
| 面接官が入力する理由を知らない | 評価がメールや口頭で届き続ける | 評価が入力されないと次の段階に進めない流れにする |
| 段階の名前が実態と違う | 応募者がどの段階か迷い、更新されない | 段階の名前と数を、実際の選考に合わせて直す |
| 集計を誰も見ない | 入力しても何も変わらないと感じる | 月1回、段階ごとの人数と日数を採用の会議で見る |
システムは入力されて初めて役に立ちます。導入の前に「何のために、誰が、いつ入力するか」を決めておくことが、製品を選ぶより先の仕事です。個人情報の取り扱いについて個別に判断が要るときは、個人情報保護委員会の相談窓口や専門家に確認してください。
採用と選考を扱うほかの記事は、人事・評価にまとめています。
出典
- e-Gov法令検索「職業安定法」第5条の5 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000141
- 厚生労働省「職業安定法にもとづく指針(平成11年労働省告示第141号)」(最終改正2024年) https://www.mhlw.go.jp/content/001003997.pdf
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」第23条・第25条 https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057




