部下へのフィードバックは、①いつ・どの場面で、②何をしたか、③それがどんな影響を生んだか、④次にどうしてほしいか、の順に、行動の事実で伝えると受け止められやすくなります。フィードバックがうまく伝わらない原因の多くは、「もっと主体的に」「ちゃんとして」のように、行動ではなく姿勢や人柄について伝えてしまうことにあります。姿勢や人柄への指摘は、本人には何を変えればよいかが分からず、責められたという印象だけが残ります。よい行動も直してほしい行動も、具体的な場面と行動で、できるだけ早く伝えることがフィードバックの基本です。
フィードバックの型
状況・行動・影響の順に伝える方法は、SBI と呼ばれる型として広く使われています。これに「次にどうしてほしいか」を加えた 4 つの順で伝えます。
| 順番 | 伝えること | 例 |
|---|---|---|
| 1 | 場面(いつ・どこで) | 「昨日の顧客との打ち合わせで」 |
| 2 | 行動(何をしたか) | 「見積の金額について質問されたとき、その場で答えず、確かめてから連絡すると伝えていましたね」 |
| 3 | 影響(何が起きたか) | 「誤った金額を伝えずに済み、顧客からも丁寧だと言われました」 |
| 4 | 次への期待 | 「今後も、その場で確かでないことは、確かめてから答える形を続けてください」 |
大切なのは、2 の「行動」を、見た人なら誰でも同じように言える事実で伝えることです。「丁寧だった」「雑だった」は受け取り方で変わる言葉ですが、「確かめてから連絡すると伝えた」「期限の前日まで連絡が無かった」は事実です。事実で伝えると、本人は何がよかったのか、何を変えればよいのかが分かります。
よい行動を伝える例文
よい行動を伝えるときも、「よくやった」だけでなく、何がよかったのかを具体的に伝えます。何がよかったのかが分かると、本人は同じ行動を繰り返せます。
- 「今週の定例会議で、前回の宿題の結果を資料の最初にまとめてくれたので、会議の最初の 5 分で状況を全員が分かりました。次の会議もこの形でお願いします」
- 「新しく入った〇〇さんの質問に、手順書の該当する箇所を示して答えていましたね。〇〇さんが自分で手順書を見るようになり、同じ質問が減りました」
- 「請求書の金額の誤りに発行の前に気づいて、担当者に確かめてくれたおかげで、顧客に誤った請求書を送らずに済みました」
直してほしい行動を伝える例文
直してほしい行動を伝えるときは、責める言葉を使わず、事実と影響、次にどうしてほしいかを伝えます。そのうえで、本人の事情も聞きます。
- 「今回の資料の提出が、期限の翌日になりました。そのため、部長の確認が会議に間に合わず、決定が 1 週間延びています。間に合わないと分かった時点で、前日までに一言もらえると、期限を動かすなどの手を打てます。今回、遅れた事情を聞かせてもらえますか」
- 「顧客からの問い合わせに、2 日間返事が無かったと連絡がありました。すぐに答えられない場合も、受け取ったことと、いつまでに答えるかを当日中に伝えてほしいです」
- 「会議で〇〇さんの発言をさえぎる場面が 2 回ありました。〇〇さんは最後まで意見を言えず、後で個別に聞くことになりました。最後まで聞いてから意見を言うようにしてください」
最後に本人の事情を聞くことが大切です。遅れの原因が、仕事の量が多すぎたこと、指示があいまいだったことなど、本人だけでは変えられない事情にあることもあります。その場合は、上司の側で直すことも考えます。
伝える時期と場所
| 項目 | 考え方 |
|---|---|
| 時期 | その行動からできるだけ早く。時間がたつと、本人も上司も場面を正確に思い出せなくなる |
| 場所(よい行動) | 周りの人がいる場で伝えてもよい。チームにも、どんな行動が望まれているかが伝わる |
| 場所(直してほしい行動) | 他の人がいない場で、1 対 1 で伝える |
| 頻度 | 評価の時期にまとめて伝えるのではなく、日々の仕事の中で気づいたときに伝える |
評価の面談で初めて直してほしい点を伝えると、本人は「なぜその時に言ってくれなかったのか」と感じます。日々のフィードバックを積み重ねておくと、評価の面談での話も受け止められやすくなります。1on1 の場を使ってフィードバックを伝える方法もあります。
避けたい言い方
- 人柄や能力を責める:「だからだめなんだ」「向いていない」。行動ではなく人を否定する言葉は、本人を萎縮させるだけで、何も変わらない
- ほかの人と比べる:「〇〇さんはできているのに」。比べられた本人は反発し、比べられた相手との関係も悪くなる
- あいまいな言葉で伝える:「もっと主体的に」「しっかりして」。何をどう変えればよいかが伝わらない
- 昔のことを持ち出す:「前もそうだった」。今回の行動について伝え、過去の出来事は必要なら事実として別に話す
- 感情のまま伝える:強い口調で伝えると、内容より口調が本人に残る。気持ちが落ち着いてから伝える
若手の部下を叱ることにためらいがある場合の指導の進め方は、若手を叱れない悩みを解消する事実ベースの指導プロセスで扱っています。
フィードバックが続かない原因と対策
フィードバックの大切さは分かっていても、上司が部下に伝えるのをためらい、続かないことがよくあります。原因として多いのは、部下との関係が悪くなることへの心配と、何を基準に伝えればよいかが決まっていないことです。
基準が決まっていないと、上司は「自分の好みで言っているのではないか」と感じ、伝えるのをためらいます。チームで大切にしたい行動(期限の前に遅れを伝える、顧客への返事は当日中にする、など)を言葉にしておくと、上司はその基準に照らして伝えられ、部下も何を求められているのかが分かります。上司が部下に遠慮してしまう理由と、仕組みでの防ぎ方は、なぜ上司は部下に遠慮してしまうのか?「摩擦の回避」を防ぐフィードバックの仕組み化で説明しています。
実行時の落とし穴
直してほしい点ばかりを伝える
直してほしい点ばかりを伝えていると、部下は上司からの声かけを身構えるようになります。よい行動に気づいたときにも、同じように具体的に伝えます。
伝えて終わりにする
直してほしい点を伝えた後、次に同じ場面が来たときに、変わったかどうかを見て、変わっていれば伝えます。変化に気づいて伝えることで、フィードバックが本人の成長のためだったことが伝わります。
上司の側がフィードバックを受けない
上司が部下からの意見を受け付けない状態では、部下は上司からのフィードバックも一方的な指摘と感じます。上司の側から「自分の指示で分かりにくいところはないか」と聞く機会を作ります。




