役職定年は、一定の年齢になった管理職が、部長や課長などの役職を外れる社内の制度です。法律で定められた制度ではなく、会社が就業規則や人事の規程で決めます。目的は、管理職の新陳代謝を促し、若い人に役職の機会を回すことや、人件費を調整することにあります。一方で、役職を外れた人の意欲が下がる、経験が生かされない、元の部下との関係が難しくなる、といった問題も起きやすく、導入や見直しでは、年齢の線をどこに引くかより、役職を外れた後にどんな役割を担ってもらうかを先に決めることが大切です。
定年と役職定年の違い
| 項目 | 定年 | 役職定年 |
|---|---|---|
| 何が終わるか | 雇用の契約(会社を退職する) | 役職(会社には残る) |
| 法律との関係 | 高年齢者雇用安定法に定めがある | 法律の定めは無く、会社が決める |
| 対象 | 定年の定めがある会社の社員 | 制度を設けている会社の管理職 |
定年については、高年齢者雇用安定法で次のことが定められています。定年を定める場合は、60 歳を下回ることができません(第 8 条。一部の業務を除く)。65 歳未満の定年を定めている会社は、定年の引上げ、継続雇用制度の導入、定年の廃止のいずれかにより、65 歳までの雇用を確保しなければなりません(第 9 条)。さらに、65 歳から 70 歳までの就業の機会を確保するよう努めることも定められています(第 10 条の 2)。
働く期間が長くなると、役職を外れた後に会社で働く期間も長くなります。役職定年の制度を考えるときは、この期間をどう働いてもらうかを一緒に考える必要があります。
役職定年でよく起きる問題
意欲が下がる
役職を外れることが、本人には「会社から必要とされなくなった」という知らせとして受け止められがちです。給与が下がる場合はなおさらです。意欲が下がった状態で長い期間を働くことは、本人にも会社にも損失になります。
経験が生かされない
役職を外れた人に、明確な役割が与えられず、「ほかの人の手伝い」のような位置づけになると、その人が持っている顧客との関係、業務の知識、判断の経験が生かされません。
元の部下との関係が難しくなる
元の部下が上司になると、互いに遠慮が生まれ、指示や報告がぎこちなくなります。元の上司が、新しい上司の頭越しに部下へ指示を出してしまうと、指揮系統が乱れます。年上の部下や経験の長い社員との関係の整え方は、ベテラン社員が扱いにくい原因と対策で扱っています。
導入や見直しで決めること
| 決めること | 考える点 |
|---|---|
| 対象の役職 | 部長・課長など、どの役職を対象にするか |
| 年齢 | 何歳で役職を外れるか。例外を設けるか |
| 例外の条件 | 後任がいない、特定の役割に必要、など、役職を続けてもらう場合の条件と決め方 |
| 役職を外れた後の役割 | どんな仕事を担当し、何を期待するか |
| 処遇 | 役職の手当や給与がどう変わるか。変わる場合はいつから、どのくらいか |
| 評価 | 役職を外れた後、何を基準に評価するか |
| 伝え方 | いつ、誰が、本人に伝えるか |
処遇を変える場合は、就業規則の変更による労働条件の変更に当たることがあります。労働契約法では、会社は、労働者と合意することなく、就業規則の変更によって労働者に不利益に労働条件を変えることはできないとされ(第 9 条)、例外として、変更後の就業規則を周知し、変更が合理的なものである場合について定めています(第 10 条)。合理的かどうかは、労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合などとの交渉の状況などに照らして判断されます。制度を入れる・変える場合は、社会保険労務士や弁護士に相談してください。
役職を外れた後の役割を決める
役職定年を機能させるうえで最も大切なのは、役職を外れた後の役割を、具体的に決めておくことです。役割の例を挙げます。
- 専門の担当:これまでの経験を生かし、特定の分野の仕事を担当する(大口の顧客の担当、品質の点検、技術の指導など)
- 育成の担当:新しく入った人や若手の指導、後任の管理職の相談役を担う
- 引き継ぎの担当:自分が持っていた業務の知識を手順書にまとめ、次の担当者に引き継ぐ
- 社内の改善の担当:部署をまたぐ業務の改善や、新しい仕組みの立ち上げを担う
役割は、「何を」「どこまで」担当し、「何を」期待するのかを文書にして本人と共有します。役割の中身と権限の範囲の決め方は、ポストオフ後の役割を定義し業務の属人化を防ぐ組織改革で説明しています。
評価も、役割に合わせて変えます。役職にいたときと同じ基準で評価すると、部下の管理の項目が評価できず、本人の働きが正しく評価されません。役割ごとに、何ができればよいかを決めておきます。
見直しや廃止を考えるときの注意点
役職定年を廃止する、あるいは年齢で一律に外す形から、役割や成果で判断する形へ見直す会社もあります。見直しの際は、次の点に注意します。
1 つめは、若手の登用の機会をどう確保するかです。役職定年は、役職のポストを空ける仕組みでもあります。廃止すると、管理職が長く同じ役職に残り、若手が役職に就く機会が減ることがあります。役職ごとに任期を設ける、成果や役割の適性で定期的に見直す、といった仕組みを別に用意します。
2 つめは、すでに役職を外れた人との公平さです。制度を変えた時期によって、同じ年齢でも扱いが違うことになります。移行の期間や、すでに役職を外れた人への対応を決めておきます。
3 つめは、役職と給与の関係です。役職と給与が強く結び付いていると、役職を外れることが大きな減収になり、本人の反発が強くなります。役職ではなく、役割や技能で給与を決める考え方は、役職なしでも人財が育つ。スキルベース報酬制度の設計ステップで扱っています。
実行時の落とし穴
直前に本人へ伝える
役職を外れることを直前に伝えると、本人は準備ができません。対象となる数年前から、役職を外れた後の役割について本人と話し合う機会を設けます。
役割を決めずに外す
役職を外した後の役割が決まっていないと、本人も周りも、どう接すればよいか分かりません。役割を文書にして、周りの人にも伝えます。
年齢だけで判断する
同じ年齢でも、担っている役割や後任の状況はさまざまです。一律に外す場合も、例外の条件と決め方をあらかじめ定めておき、場当たりの判断にならないようにします。
出典
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/346AC0000000068
- 労働契約法(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128



