スパン・オブ・コントロールは、1 人の管理職が直接見る部下の人数のことで、「管理の幅」とも呼ばれます。適切な人数は一律に決まるものではなく、部下の仕事がどれだけ似ているか、部下の経験、管理職自身がどれだけ担当の業務を持っているか、仕事の手順がどれだけ決まっているか、などで変わります。人数が多すぎると、管理職が部下一人ひとりの仕事を見られず、判断や指導が遅れます。少なすぎると、管理職の数と階層が増え、決定が遅くなり、人件費も増えます。人数を決めるときは、何人が正しいかを探すより、自社の条件で管理職が何人を見られるかを確かめ、見られる人数を増やす工夫と組み合わせることが大切です。
見られる人数を左右する要素
| 要素 | 人数を多くできる条件 | 人数が少なくなる条件 |
|---|---|---|
| 部下の仕事の似かより | 同じような仕事をしている | それぞれ違う仕事をしている |
| 部下の経験 | 経験があり、自分で判断できる | 経験が浅く、指導が多く要る |
| 仕事の決まり具合 | 手順が決まっていて、例外が少ない | 例外が多く、その都度判断が要る |
| 管理職の担当業務 | 管理に専念できる | 自分も担当の業務を持っている |
| 働く場所 | 同じ場所で働いている | 拠点や在宅など、離れて働いている |
| 仕組みの整い方 | 進み具合が一覧で見え、報告の形が決まっている | 進み具合を個別に聞かないと分からない |
| 部署の外との調整 | 調整が少ない | 他部署や社外との調整が多い |
例えば、同じ手順で受注の処理をする事務のチームで、経験のある人が多く、進み具合が一覧で見えるなら、管理職 1 人で多くの人数を見られます。一方、それぞれ違う顧客を担当する営業のチームで、経験の浅い人が多く、管理職自身も大口の顧客を担当しているなら、見られる人数はずっと少なくなります。
人数が多すぎるときに起きること
- 判断が遅れる:部下からの相談が管理職に集まり、返事を待つ時間が増える
- 指導が行き届かない:部下一人ひとりと話す時間が取れず、経験の浅い人が育たない
- 問題に気づくのが遅れる:部下の仕事の進み具合を見きれず、遅れや問題に気づくのが遅くなる
- 管理職が疲れる:面談、評価、相談への対応で管理職の時間が埋まり、本来の判断の仕事ができない
人数が少なすぎるときに起きること
- 階層が深くなる:管理職が増え、情報が上下に伝わるのに時間がかかる。現場の声が経営に届きにくくなる
- 細かく管理しすぎる:部下が少ないと、管理職が部下の仕事に細かく口を出しやすくなり、部下が自分で判断しなくなる
- 人件費が増える:管理職の数が増え、その分の人件費がかかる
- 責任の範囲があいまいになる:管理職の間で担当の境目が細かくなり、誰の責任かが分かりにくくなる
人数を見直す手順
手順 1:今の状態を一覧にする
管理職ごとに、直接見ている部下の人数と、上の表の要素(部下の仕事の似かより、経験、管理職の担当業務など)を一覧にします。人数だけでなく、管理職が部下の管理にどのくらいの時間を使えているかも確かめます。
手順 2:困りごとを確かめる
管理職と部下の双方に、困っていることを聞きます。管理職からは「相談が多くて自分の仕事ができない」、部下からは「相談しても返事が遅い」「面談の機会が無い」といった声が出ることがあります。こうした声が集まる管理職は、見ている人数が多すぎる可能性があります。
手順 3:見られる人数を増やす工夫を先に考える
人数が多すぎる場合、すぐに管理職を増やすのではなく、見られる人数を増やす工夫を先に考えます。
- 仕事の手順をそろえる:手順を決め、手順書にしておくと、例外への対応の相談が減る
- 権限を部下に渡す:部下が自分で判断してよい範囲を決め、その範囲の相談を減らす
- 進み具合を見える形にする:仕事の進み具合を一覧で見られるようにし、個別に聞く手間を減らす
- チームのリーダーを置く:日々の調整や新しい人の指導をリーダーに任せる
- 管理職の担当業務を減らす:管理職が持っている担当の業務を部下に移す
管理職が自分の担当業務と部下の管理を両方抱えている状態の分け方は、プレイングマネージャーとはで扱っています。
手順 4:組織の形を決める
工夫をしても見きれない場合は、チームを分ける、管理職を増やすなど、組織の形を変えます。その際は、階層が深くなりすぎないか、管理職の間で責任の範囲が重なったり抜けたりしないかを確かめます。階層を減らした組織で、権限と責任をそろえる考え方は、フラット組織の「無責任化」を防ぐ、権限と責任の一致プロセスで説明しています。
組織が大きくなるときの考え方
会社が大きくなり、社員が増えると、最初は社長 1 人が全員を見ていた組織に、管理職を置く必要が出てきます。このとき、管理職を置くことを急ぎすぎると、少人数のチームがいくつもでき、階層が増えます。反対に、管理職を置くのが遅れると、社長や一部の管理職に相談が集中し、判断が遅れます。
社員が増える時期は、どの仕事を誰が判断するのかを決め、手順をそろえる作業を並行して進めます。仕組みが整っていれば、管理職 1 人が見られる人数が増え、管理職を増やすペースを抑えられます。
実行時の落とし穴
人数だけで決める
「1 人あたり何人」という数字だけで組織を決めると、仕事の中身が違う部署に同じ人数を当てはめることになります。部署ごとの条件を見て決めます。
管理職を増やして終わる
管理職を増やしても、管理職の役割や判断の範囲が決まっていなければ、部下はどちらに相談すればよいか迷います。管理職を増やすときは、役割と責任の範囲を一緒に決めます。
一度決めて見直さない
部下の経験が積み重なれば、見られる人数は増えます。反対に、新しい人が多く入れば減ります。年に 1 回程度、管理職ごとの人数と困りごとを確かめ直します。



