プレイングマネージャーとは、担当者として自分で成果を出す仕事と、部下を率いてチームで成果を出す管理職の仕事を兼ねる人のことです。多くの会社で、管理職は何らかの担当の仕事を持っており、それ自体は珍しいことではありません。問題になるのは、担当の仕事が管理の仕事を押しのけ、部下の育成や面談が後回しになり、本人も長時間の労働で疲れ切ってしまう状態です。原因は本人の能力より、担当の仕事と管理の仕事の配分が決まっていないこと、担当の成果ばかりが評価されること、任せる仕組みが無いことにあります。対策は、①今の時間の使い方を確かめる、②担当の仕事と管理の仕事の配分を上司と決める、③手放す仕事を選んで段階的に任せる、④評価と支援の仕組みを見直す、の 4 つです。

限界が来る理由

担当の仕事が優先される

担当の仕事には顧客や期限があり、遅れればすぐに問題になります。一方、部下の育成や面談、仕事の進め方の見直しといった管理の仕事は、先送りしてもすぐには問題が表に出ません。そのため、忙しくなるほど担当の仕事が優先され、管理の仕事は削られていきます。管理の仕事が削られると部下が育たず、部下に任せられる仕事が増えないため、担当の仕事はさらに減らない、という循環が起きます。

担当の成果で評価される

管理職の評価が、担当としての売上や成果に大きく依存していると、本人は担当の仕事に時間を使うことを選びます。部下の育成にどれだけ時間を使っても評価に表れないなら、育成に時間を使う理由がありません。この場合、本人が怠けているのではなく、評価の仕組みに合わせて合理的に動いた結果として、管理の仕事が後回しになっています。

自分でやったほうが早い

担当者として成果を出して昇進した管理職ほど、部下に任せるより自分でやったほうが早く、質も高いと感じます。実際、短い期間で見ればその通りです。しかし、自分でやり続ける限り、部下はその仕事を覚える機会を得られず、管理職の仕事は減りません。担当者として成果を出した人が管理職になったときに起きることは、ピーターの法則とはでも扱っています。

管理の仕事の中身が決まっていない

管理職に求められる仕事が言葉になっていないと、本人は何に時間を使えばよいかが分かりません。部下との面談、目標の設定と進み具合の確認、仕事の割り振り、他の部署との調整など、管理の仕事の中身が決まっていなければ、目の前の担当の仕事に時間が流れていきます。

手順 1:今の時間の使い方を確かめる

まず、1〜2 週間ほど、自分の時間を何に使っているかを記録します。細かく記録する必要はなく、1 日の終わりに、担当の仕事、管理の仕事、会議、事務作業のおおよその時間を書き出す程度で十分です。

分類例
担当の仕事自分の顧客への対応、自分の担当の作業
管理の仕事部下との面談、仕事の割り振り、進み具合の確認、育成、他の部署との調整
会議定例の会議、報告のための会議
事務作業承認、経費の処理、報告書の作成

記録してみると、管理の仕事に使っている時間が思っていたより短いことや、事務作業や会議に多くの時間が取られていることが分かります。管理職の事務の負担を減らす方法は、管理職に雑務が多い原因と権限委譲の設計で扱っています。

手順 2:担当の仕事と管理の仕事の配分を決める

記録をもとに、上司と話して、担当の仕事と管理の仕事の配分を決めます。配分を決めるときに考えるのは、部下の人数と経験です。部下の人数が多いほど、また経験の浅い部下が多いほど、管理の仕事に時間が要ります。

配分は、「週に何時間」という形で決めると、守られているかを確かめやすくなります。例えば、部下 1 人あたり月に 1〜2 回の面談の時間、週に 1 回のチームの進み具合の確認の時間など、管理の仕事を予定表にあらかじめ入れておきます。予定表に入れていない管理の仕事は、担当の仕事に押しのけられます。

配分を決めたら、担当の目標もそれに合わせて見直します。管理の仕事の時間を確保したのに担当の目標が変わらなければ、本人は時間を捻出するために長時間働くしかなくなります。担当の目標を下げることは、上司と本人の間で合意しておく必要があります。

手順 3:手放す仕事を選んで段階的に任せる

管理の仕事の時間を作るには、担当の仕事の一部を部下に任せる必要があります。手放す仕事は、次の考え方で選びます。

  • 部下の育成につながる仕事:部下が一段上の力を身につける機会になる仕事から任せる
  • 手順が決まっている仕事:手順書や過去の例があり、任せやすい仕事から任せる
  • 管理職でなければできない仕事は残す:大きな判断、重要な顧客との関係、他の部署との難しい調整など、役職の権限が要る仕事は手元に残す

任せるときは、一度に全部を渡さず、段階的に広げます。最初は一緒に進め、次に部下が進めて途中で確かめ、最後に部下に任せて結果だけを確かめる、という順です。途中で確かめる場を決めておくと、細かく口を出さずに済み、部下も相談しやすくなります。

任せた仕事の成果が一時的に下がっても、それは部下が育つための時間です。成果が下がったときにすぐ仕事を引き取ると、部下は育たず、また同じ状態に戻ります。成果を出している人のやり方を型にして任せやすくする方法は、営業の属人化を解消する方法が参考になります。

手順 4:評価と支援の仕組みを見直す

プレイングマネージャーの問題は、本人の努力だけでは解決しません。会社の側で、評価と支援の仕組みを見直す必要があります。

評価の面では、担当の成果だけでなく、部下の育成やチームの成果を評価の項目に入れます。部下が一人で任せられる仕事がどれだけ増えたか、部下との面談を予定通りに行えたか、チーム全体の目標をどこまで達成したか、といった項目です。管理の仕事が評価に表れるようになれば、本人は管理の仕事に時間を使う理由を持てます。

支援の面では、管理職が一人で抱え込まないように、相談の相手や、仕事が集中したときに手を貸す仕組みを用意します。管理職の疲弊を防ぐ支援の体制の作り方は、中間管理職が疲弊する構造と支援体制の設計で説明しています。

部下との面談の時間を守る

管理の仕事の中でも、部下との 1 対 1 の面談は、最も後回しにされやすい仕事です。面談を延期しても、その場では誰も困らないためです。しかし、面談が行われないと、部下の困りごとや仕事の進み具合が見えなくなり、問題が大きくなってから気づくことになります。

面談の時間を守るには、予定表に定例で入れ、担当の仕事の予定より優先することを本人と上司で決めておきます。面談の中身が決まっていないと、話すことが無くなって形だけになりやすいため、事前に部下が話したいことを書いておく、仕事の進み具合と困りごとを必ず確かめる、といった進め方を決めます。面談が形だけになる原因と、目的に沿った進め方は、1on1 の実施率の指標が形骸化を招く理由で扱っています。

実行時の落とし穴

本人の努力だけに任せる

「もっと部下に任せなさい」と言うだけで、担当の目標や評価の仕組みを変えなければ、本人は変われません。配分と目標と評価を、会社の側でそろえて変えます。

担当の仕事をすべて取り上げる

担当の仕事を急にすべて取り上げると、顧客との関係が途切れたり、本人が現場の感覚を失ったりします。担当の仕事は、管理の仕事と両立できる量まで減らすことを目指します。

配分を決めて終わる

配分を決めても、忙しい時期には崩れがちです。月に 1 回、上司と本人で時間の使い方を振り返り、管理の仕事の時間が確保できているかを確かめます。