事業計画書は、社内の意思統一にも使えますが、実際に作成が必要になる場面の大半は融資・出資・補助金の申請です。

そして、この場面で読み手が知りたいことは1つに集約されます。「この事業は、約束した期日に、約束した額を返せるのか」。

書き方の解説はこの1点から逆算するのが最短です。本記事では、審査で実際に見られる項目、数値計画の組み立て方、そして説得力を落とす典型的な書き方を整理し、そのまま使える構成を示します。

読み手が見ている4点

読み手最も知りたいこと弱いと落ちる箇所
金融機関返済原資があるか資金繰り表、売上根拠
投資家どこまで伸びるか、出口はあるか市場規模、競合優位、成長の想定
補助金の審査公募要領の要件を満たしているか政策目的との適合、実現可能性
社内(経営会議)撤退条件が決まっているかやめる基準、責任の所在

提出先によって、力を入れる箇所が変わります。同じ計画書を使い回すと、金融機関には成長ストーリーばかりが目立ち、投資家には保守的すぎる計画に映ります。骨格は共通で構いませんが、冒頭の要約と数値計画の見せ方は相手に合わせてください。

構成テンプレート

以下をコピーし、〔 〕を自社の内容に置き換えてください。本体10〜15ページ、詳細な表は別添という配分が扱いやすい分量です。

1. エグゼクティブサマリー(1ページ)
   〔何の事業を、誰に、いくらで、どう届けるか〕
   〔必要な資金額と使途〕
   〔3年後の売上・利益の見通し〕

2. 事業の概要
   2-1 解決する課題 〔誰が、何に、どれだけ困っているか〕
   2-2 提供する解決策 〔製品・サービスの内容〕
   2-3 収益の構造 〔誰が、何に対して、いくら払うのか〕

3. 市場と競合
   3-1 対象市場 〔規模、成長性、その根拠となる出典〕
   3-2 競合 〔主要な3社と、それぞれの強み〕
   3-3 自社の優位性 〔なぜ自社が選ばれるのか。模倣されない理由〕

4. 実行計画
   4-1 これまでの実績 〔既存事業の売上、顧客数、開発の進捗〕
   4-2 今後のマイルストーン 〔いつまでに何を達成するか〕
   4-3 体制 〔誰が何を担当するか。不足する人材と採用計画〕

5. 数値計画
   5-1 売上計画 〔変数に分解した根拠つき〕
   5-2 費用計画 〔固定費と変動費を分けて〕
   5-3 損益計画 〔3〜5年分〕
   5-4 資金繰り計画 〔月次。最低12か月分〕

6. 資金計画
   6-1 必要資金と使途の内訳
   6-2 調達方法 〔自己資金、融資、補助金の内訳〕
   6-3 返済計画 〔返済原資と月々の返済額〕

7. リスクと対応
   〔想定される3つのリスクと、それぞれへの対処〕
   〔撤退・縮小の判断基準〕

別添:詳細な数値表、見積書、既存事業の決算書、代表者の経歴

最初の1ページで決まる

読み手は多くの案件を見ています。エグゼクティブサマリーの1ページで全体像が掴めなければ、残りは流し読みになります。

ここに書くのは3つだけです。何の事業か、いくら要るか、いつどう返すか。事業への思いや業界の背景はここには置きません。

数値計画の組み立て方

事業計画書で最も差がつくのがここです。

売上は必ず変数に分解する

やってはいけないのは、売上を1行の数字で置くことです。

  • 悪い例:「初年度 5,000万円、2年目 8,000万円、3年目 1億2,000万円」
  • 良い例:「単価30万円 × 月間新規10社 × 12か月 + 既存継続分」

分解する理由は2つあります。

  1. 根拠を示せる — 単価は既存の受注実績、成約率は過去の商談データ、と出どころが言えます
  2. ずれたときに原因が分かる — 未達のとき、単価が低かったのか件数が足りなかったのかを特定できます

2番目が本質です。計画は当てるためではなく、ずれを検知するために作ります。1行で置いた計画は、外れても何が起きたのか分かりません。

「市場規模の◯%を取る」は根拠にならない

よく使われますが、審査では通用しません。市場の何%を取れるかは、自社が動かせる変数ではないからです。

使うべきは、自社が動かせる変数です。営業人員数、訪問件数、成約率、単価、解約率。これらは自社の行動で変えられ、実績と照らして検証できます。

費用は固定費と変動費を分ける

この区分をしておくと、損益分岐点が計算でき、「あと何件売れば黒字か」が言えるようになります。読み手が最も知りたい数字のひとつです。区分の仕方は管理会計とは?会社の意思決定の質を高める、経営者のための実践的会計入門で扱っています。

資金繰り表は月次で、最低12か月

損益計画だけでは不十分です。利益が出ていても現金が尽きれば事業は止まります。

とくに注意するのは、入金と支払のタイミングのずれです。売上が立つ月と入金される月は違い、仕入の支払は先に来ます。売上が伸びる計画ほど、その期間の資金は苦しくなります。この構造は企業財務とは?経営者が最低限知るべき財務三表(B/S・P/L・C/F)の読み方と分析の基本で詳しく扱っています。

説得力を落とす5つの書き方

1. 右肩上がりのグラフしかない

3年で売上が5倍になる計画に、何の停滞も書かれていない。読み手は前提が甘いと判断します。

対処は、成長が鈍る要因を自分から書くことです。「2年目は採用の立ち上がりに時間がかかるため、成長率は鈍化する見込み」と書いてあるほうが、計画全体の信頼度は上がります。

2. リスクの欄が「特にありません」になっている

リスクを書かない計画は、リスクを認識していない計画として読まれます。最も不利な書き方です。

書くのは3つで足ります。発生する可能性が高いもの、影響が大きいもの、自社ではコントロールできないもの。それぞれに対処を1行添えます。

3. 競合を「いない」と書く

競合がいない市場は、需要がない市場である可能性が高いという読まれ方をします。

直接の競合がいない場合でも、顧客が今その課題をどう処理しているかは必ずあります。手作業、Excel、既存の別サービス。それが実際の競合です。

4. 数字と文章が食い違っている

本文で「主力は既存事業」と書きながら、数値計画では新規事業が売上の8割を占めている。この種の不整合は、読み手に最も強い不信感を与えます。

提出前に、本文の主張と数値表の数字を突き合わせてください。複数人で分担して作成した計画書で頻発します。

5. 撤退条件が書かれていない

社内向け・投資判断向けでは特に重要です。やめる条件が書かれていない計画は、始めたら止まらない計画です。

「18か月後に有料契約が◯件に達しなければ縮小する」のように、数字と期限で書きます。この基準を事前に置いておくことが、後の撤退判断を個人の責任から切り離します。構造は赤字プロジェクト継続理由とは?早期撤退を促す評価制度の設計で扱っています。

作成の順序

書きやすい順ではなく、次の順で作ります。

順作るもの理由
1数値計画(売上の変数分解)ここが固まらないと他が書けない
2資金繰り表必要な調達額がここで確定する
3資金計画・返済計画2の結果から逆算する
4事業の概要、市場・競合1〜3の前提を言葉で裏づける
5リスクと撤退条件全体が見えてから書く
6エグゼクティブサマリー最後に書く。要約は本体がないと書けない

サマリーを最初に書かないことが要点です。先に書くと、その内容に合わせて数字を作ることになります。

まとめ

  • 読み手が知りたいのは「返せるか」です。この1点から逆算して構成します
  • 売上は1行で置かず、自社が動かせる変数に分解します。ずれたときに原因が特定できる形にするためです
  • 「市場規模の◯%」は根拠になりません。営業人員数・成約率・単価のように、自社の行動で変わる数字を使います
  • 損益計画だけでは足りません。月次の資金繰り表を最低12か月分作ってください
  • リスクと撤退条件を書かない計画は、認識していない計画として読まれます

調達手段ごとの違いは資金調達とは?種類(融資・出資・補助金)とメリット・デメリット、事業ステージ別の最適な選択肢で整理しています。