失注分析が役に立たないのは、多くの場合、理由が「価格」「タイミング」「競合」のような大きな言葉で記録され、次に何を変えればよいかにつながらないからです。失注分析を営業の改善に使うには、①理由の分類を「自社で変えられること」が分かる細かさで作る、②失注が決まったその場で決まった項目を記録する、③月か四半期ごとに集計して打ち手を決める、④打ち手の結果を次の集計で確かめる、の 4 つを回します。記録の手間を小さくし、集計の結果を営業に返すことが、続けるための要点です。

失注分析が形だけになる構造

理由の言葉が大きすぎる

「価格が合わなかった」と記録されても、提案の範囲が広すぎたのか、値引きの判断が遅かったのか、そもそも予算の小さい相手だったのかが分かりません。理由の言葉が大きいと、集計しても「価格が多い」という結論しか出ず、打ち手が決まりません。

記録が営業の負担になっている

失注の記録に長い自由記述を求めると、営業は記録を後回しにし、時間がたってから思い出して書くことになります。記憶があいまいなまま書かれた理由は、どれも似たような内容になります。

集計の結果が返ってこない

記録を集めても、集計の結果や、それを受けて何を変えたかが営業に伝わらなければ、記録は「上に出すための作業」になります。記録の質はすぐに下がります。

失注を責める場になっている

失注の振り返りが担当者の責任を問う場になると、営業は自分に原因がない理由(価格・時期・顧客の事情)を選ぶようになります。分析の材料としての記録が歪みます。

理由の分類を作る

理由の分類は、「自社で変えられるかどうか」と「どの段階の問題か」が分かる形にします。大分類と小分類の 2 段にすると、集計のしやすさと具体性を両立できます。

大分類小分類の例変える先
提案課題の把握がずれていた/提案の範囲が合わなかった/価値が伝わらなかった営業の進め方・提案の型
価格予算の枠を超えた/比べた相手より高かった/費用対効果を示せなかった料金の形・提案の中身
商品必要な機能が無かった/連携できない仕組みがあった商品の開発・連携
競合既存の取引先が続投した/比べた相手の実績が上回った差別化の伝え方・実績の見せ方
時期・体制決裁が先に延びた/担当者が交代した/予算が凍結された商談の管理・追い方
対象外そもそも狙う顧客でなかった見込み客の選び方

「対象外」の分類があることが大切です。対象外の相手への商談が多いなら、問題は営業の進め方ではなく、商談にする前の判断の基準にあります。商談にする前の基準は、BANT の 4 項目と判定基準で扱っています。

分類は最初から完璧にする必要はありません。3 か月ほど運用して「その他」に入る理由が多ければ、その中身を見て小分類を足します。

記録の項目と聞き取り

失注が決まったら、その日のうちに次の項目を記録します。

項目記録の形
大分類・小分類選択肢から選ぶ(主な理由を 1 つ、あれば副の理由を 1 つ)
顧客の言葉顧客が言ったことを 1〜2 行でそのまま
比べた相手競合の名前、または「自社で対応」「見送り」
失注した段階初回の面談・提案・見積・最終の決裁 など
担当者の見立て何をしていれば結果が変わったか(任意)

「顧客の言葉」と「担当者の見立て」を分けて記録することが要点です。担当者の推測と顧客が実際に言ったことが混ざると、分析のときに区別できません。

顧客への聞き取りは、失注が決まった連絡の中で、短く行います。「今回はご縁がありませんでしたが、今後の参考にしたいので、決め手を教えていただけますか」と聞き、答えを遮らずに記録します。反論や再提案をすると、相手は本当の理由を話さなくなります。

集計の見方

月か四半期ごとに、次の切り口で集計します。

  • 大分類の内訳:どの分類が多いか、前の期と比べて増えた分類はどれか
  • 失注した段階の内訳:どの段階で多く失っているか
  • 担当者ごとの内訳:特定の担当者に偏った理由が無いか
  • 比べた相手ごとの内訳:特定の競合に負けている理由は何か

担当者ごとの内訳は、責めるためではなく、教え方を変えるために使います。例えば、ある担当者だけ「提案の範囲が合わなかった」が多ければ、課題の聞き取りの仕方を一緒に見直します。営業の知見を組織で共有する方法は、営業の成功例の共有と組み合わせると効果が上がります。

打ち手に変える

集計の結果から、分類ごとに変える先を決めます。

  • 提案の分類が多い:成功した提案と失注した提案を並べ、課題の聞き取りと提案の型を見直す
  • 価格の分類が多い:比べた相手と提案の範囲を確かめ、料金の形(段階の料金・小さく始める選択肢)を検討する。値引きで対応する前に、営業の値引きと粗利の評価の考え方で影響を確かめる
  • 商品の分類が多い:必要とされた機能と件数を開発の担当に渡す
  • 時期・体制の分類が多い:決裁の時期や関わる人を早い段階で確かめるよう、商談の管理の基準を直す。確度の付け方は、ヨミ管理のやり方で説明している

打ち手を決めたら、次の集計でその分類が減ったかを確かめます。減らなければ打ち手を変えます。このくり返しが、失注分析を「記録」から「改善の仕組み」に変えます。

実行時の落とし穴

失注だけを分析する

受注した案件の決め手も同じ形で記録すると、失注の理由と比べて、何が勝敗を分けたかが見えます。受注の決め手は、提案の型や営業の教え方の材料にもなります。

分類を増やしすぎる

小分類が多すぎると、営業は選ぶのに迷い、「その他」を選びがちになります。大分類は 5〜7 個、小分類は各 2〜4 個に収めます。

結果を営業に返さない

集計の結果と、それを受けて何を変えたかを、営業の会議で必ず共有します。自分たちの記録が改善につながったと分かれば、記録の質は上がります。