ゼロベース予算は、前の年の予算を出発点にせず、すべての活動について「なぜ必要か」「いくら必要か」を一から説明して予算を組む方法です。英語では Zero-Based Budgeting と呼ばれ、ZBB と略されます。前年の予算に数%を足し引きして組む前年踏襲の予算では、効果の薄れた活動にも毎年同じように予算が付き続けますが、ゼロベース予算では、説明できない活動には予算が付きません。その代わり、準備と審査に手間がかかるため、すべての費用で毎年行うのではなく、会社の判断で増減できる費用から絞って使うのが現実的です。

前年踏襲の予算との違い

観点前年踏襲の予算ゼロベース予算
出発点前の年の予算や実績ゼロ(すべての活動を一から説明する)
説明が要るもの前年からの増減の理由活動そのものの必要性と金額
手間少ない多い
続いている活動の扱いそのまま続きやすい効果を説明できなければ予算が付かない
新しい活動への配分前年の枠の中で取り合いになりやすい既存の活動と同じ土俵で比べられる

前年踏襲の予算が悪いわけではありません。毎年大きく変わらない費用を効率よく組めるという利点があります。問題になるのは、事業の状況が変わっているのに、予算の配分が前年のまま続き、伸ばすべき活動に予算が回らないときです。ゼロベース予算は、この固まった配分を見直すための方法です。

メリットとデメリット

ゼロベース予算の主なメリットは次のとおりです。

  • 効果の薄れた活動を見つけられる:「毎年やっているから」という理由だけで続いている活動が、説明を求められることで表に出る
  • 予算を伸ばすべき活動に回せる:既存の活動と新しい活動を同じ基準で比べ、効果の高いものに配分できる
  • 費用の中身を担当者が理解する:なぜその金額が必要かを説明するため、担当者が費用の中身と効果を考えるようになる

一方で、デメリットもあります。

  • 手間がかかる:すべての活動について説明の資料を作り、審査するため、予算編成の時間が大きく増える
  • 短い期間で効果が見えない活動が削られやすい:研究や人材の育成のように、効果が出るまでに時間がかかる活動は、説明しにくく、予算を削られがちになる
  • 説明のうまさで決まりやすい:資料の書き方がうまい部署に予算が付き、実際の効果と配分がずれることがある

導入の手順

手順 1:対象の費用を決める

最初からすべての費用を対象にすると、手間が大きすぎて続きません。広告費、外注費、研修費、出張費、会議や行事の費用など、会社の判断で増減でき、前年踏襲が続いていそうな費用から選びます。

手順 2:活動の単位に分ける

対象の費用を、「何のための活動か」の単位に分けます。例えば広告費なら、「新しい顧客を集めるための展示会」「既存の顧客への案内」のように、目的ごとに分けます。費用の科目ではなく活動の単位で分けることで、それぞれの効果を説明できるようになります。

手順 3:活動ごとに説明の資料を作る

活動ごとに、次のことを書いた資料を担当の部署が作ります。

  • 活動の目的と、会社の方針との関係
  • 必要な金額と、その内訳
  • 期待する効果と、それを測る指標
  • 金額を減らした場合、やめた場合に何が起きるか

最後の項目が大切です。「予算を 3 割減らしたらどうなるか」「やめたらどうなるか」を書くことで、審査する側が、どこまで削れるかを判断できます。

手順 4:優先順位を付けて配分する

経営者と経営企画、各部署の責任者で、活動に優先順位を付け、使える予算の範囲で上から配分します。優先順位は、会社の方針や中期の計画に照らして付けます。中期の計画と予算の配分をつなげる考え方は、中期経営計画の作り方で扱っています。

手順 5:期の途中で効果を確かめる

配分した予算が、説明の資料に書いた効果を上げているかを、期の途中で確かめます。月ごとの予算と実績の比べ方は、予実管理のやり方で説明しています。効果が出ていない活動は、翌期の予算編成で重点的に見直します。

一部から始める考え方

ゼロベース予算は、全社で一度に始めるより、一部の費用や一部の部署から始めるほうがうまくいきます。最初の年は 1〜2 の費用に絞り、説明の資料の形と審査の進め方を固めます。次の年から対象を広げ、数年かけて主な費用を一巡させます。

一巡した後は、毎年すべての費用をゼロから組み直すのではなく、数年ごとに順番に見直す形にすると、手間を抑えながら、固まった配分を見直し続けられます。

ゼロベース予算が向いている場面

ゼロベース予算が特に効くのは、事業の状況が大きく変わった後です。主力の商品が入れ替わった、売り方を対面から通信に移した、新しい事業を立ち上げた、といった変化の後は、前年の配分が今の事業に合っていないことが多くなります。こうした時期に、前年踏襲で予算を組むと、縮小している事業に予算が残り、伸ばしたい事業に回りません。

業績が厳しく、費用を見直す必要があるときにも使われます。ただし、この場合も、一律に何%削るという方法とは違い、活動ごとに効果を比べて、効果の低いものから削る点に意味があります。一律の削減では、効果の高い活動も同じ割合で削られてしまうためです。

反対に、事業の状況が安定していて、前年の配分に大きな問題が無い場合は、手間をかけてすべてを組み直す必要は薄くなります。その場合は、新しく始める活動と、数年続けている大きな活動だけを、ゼロベースの考え方で説明させる程度でも、固まった配分を防ぐ効果があります。

説明の資料を書く側の考え方

説明の資料を作る担当者にとって、ゼロベース予算は負担が大きく感じられます。しかし、資料を作る過程で、自分の活動の目的と効果を言葉にし直すことになり、やめてもよい作業や、やり方を変えれば安く済む作業に気づくきっかけにもなります。

資料では、効果を大きく見せることより、測れる指標で書くことを優先します。「認知度が上がる」ではなく「問い合わせの件数」「受注の件数」のように、期の途中で確かめられる数字で書くと、翌期の審査で結果を示せます。効果が数字で示しにくい活動は、その理由と、何をもって続けるかどうかを判断するかを書いておきます。

実行時の落とし穴

すべての費用で毎年行おうとする

すべての費用を毎年一から組み直すと、準備と審査の手間で予算編成が回らなくなり、翌年から元の前年踏襲に戻ってしまいます。対象を絞り、順番に見直します。

効果が見えにくい活動を一律に削る

研究、人材の育成、仕組みへの投資など、効果が出るまでに時間がかかる活動は、1 年の効果だけで判断すると削られがちです。こうした活動は、何年で何を目指すのかを中期の計画の中で決め、その進み具合で判断します。

予算を削る道具としてだけ使う

ゼロベース予算を費用の削減のためだけに使うと、各部署は必要な予算を守ることに力を使い、本当に効果の高い活動に予算を回すという目的が果たせません。削った分を、伸ばすべき活動に回すことまでを一緒に決めます。