出店の可否が「この立地なら行ける」という感触で決まっている限り、不採算店は一定の割合で出続けます。さらに、自分の感触で決めた拠点ほど撤退の判断が遅れるため、損失は開業時ではなく撤退時に確定します。

本記事では、候補地の評価を公的統計で数値化し、出店の決裁と撤退基準を同じ文書で決めるまでの手順を示します。撤退の判断そのものから過去の投資額を外す方法はサンクコスト効果で撤退できない組織の構造と対策で扱っています。

直感で決める出店が生む3つの損失

不採算拠点が一定の割合で出続ける。 候補地の評価軸が担当者ごとに違う状態では、出店の可否は提案者と決裁者の組み合わせで変わります。同じ条件の物件が、担当者が違うだけで通ったり落ちたりする状態は、基準がないことの現れです。

撤退の判断が遅れる。 決裁者自身の感触で出した拠点は、撤退の提案がその判断への異議として受け取られます。結果として、赤字が数期続いてから議題になります。

自社店舗どうしで商圏が重なる。 既存店の商圏を数値で把握していないと、新店の商圏がどこまで重なるかを事前に見積もれません。全社の売上が伸びないまま店舗数だけが増えます。

自社の状態を確かめる5つの問い

  1. 既存店の商圏人口と売上を、同じ書式で一覧にできますか
  2. 候補地の評価項目は、担当者が違っても同じですか
  3. 出店の稟議書に、想定売上の根拠となる数値が載っていますか
  4. 開業後、想定と実績の差を検証する時期が決まっていますか
  5. 出店を決めた時点で、撤退を検討する条件が決まっていますか

答えられない項目が、そのまま着手すべき順序になります。

公的統計で商圏を数値にする

有料のツールを導入する前に、公的統計で確認できる範囲を押さえます。

政府統計の総合窓口 e-Stat では、統計地理情報システム(jSTAT MAP)が公開されています。国勢調査、経済センサス、小地域統計、地域メッシュ統計などの結果を地図上に表示できる地理情報システムで、無料で利用できます。統計データを地図上に表現する統計地図の作成、項目を選ぶだけで作成できる統計グラフ地図、統計データと境界データのダウンロード、作成した地図のURLでの共有といった機能があり、ログイン不要で使える範囲と、アカウント登録で使える範囲が分かれています。

事業所側のデータとして使えるのが経済センサスです。総務省統計局が統計法に基づいて実施している調査で、事業所の基本的構造と経済活動の状況を明らかにすることを目的としており、地域の事業所数・従業者数の把握に用いられます。周辺の就業人口や競合となる業種の事業所数を見る際の基礎になります。

この2つで、候補地について次の項目が数値で取れます。

見る対象使う統計取れる項目の例
住んでいる人国勢調査(小地域・メッシュ)一定範囲内の人口、世帯数、年齢構成
働いている人経済センサス一定範囲内の事業所数、従業者数
同業の分布経済センサス産業分類ごとの事業所数

ここで得られるのは「その場所にどれだけの人がいるか」であって、「その人たちが自社の店に来るか」ではありません。来店に変換する係数は、次の手順で自社のデータから作ります。

自社の勝ちパターンを基準に落とす手順

1. 既存店を同じ書式で棚卸しする

全店について、商圏データと実績を1行ずつ並べます。列は最初から多くする必要はありません。商圏人口、従業者数、同業の事業所数、最寄りの交通結節点からの距離、賃料、開業からの経過月数、月商。この程度で始めます。

重要なのは、全店を同じ定義で揃えることです。商圏の範囲を店舗ごとに変えていると比較になりません。半径何メートルか、徒歩何分か、定義を1つに固定します。

2. うまくいっている店といない店で、差の出る項目を選ぶ

店舗数が十分にあれば統計的な分析を行えますが、数十店の規模では、上位と下位を並べて明らかに違う項目を2つか3つ選ぶ程度で実務上は足ります。ここで選んだ項目が、候補地の評価軸になります。

選んだ項目が現場の感覚と食い違う場合は、どちらかが間違っているのではなく、定義が揃っていないことが多いため、まず商圏の定義と実績の期間を確認します。

3. 評価表にして、候補地を同じ軸で並べる

項目ごとに水準を決め、候補地を評価します。配点の細かさを競う必要はありません。全候補地が同じ表で並ぶことが目的です。

4. 想定売上の根拠を稟議書に載せる

稟議書には、想定売上の数字だけでなく、その数字が商圏データのどの項目から導かれたかを書きます。根拠が書かれていれば、開業後に想定と実績がずれたときに、どの前提が外れたのかを特定できます。数字だけが載っている稟議書は、検証に使えません。

出店の決裁と同時に、撤退の条件を決める

出店を決める文書に、撤退を検討する条件を同時に書きます。開業後に決めようとすると、その時点の実績を前提に条件が甘くなります。

書くのは次の4点です。

  1. 検証の時期:開業から何か月後に、想定と実績を突き合わせるか。複数回置きます
  2. 判定に使う指標:月商だけでなく、来客数や客単価など、どの前提が外れたかを分解できる指標を含めます
  3. 水準と猶予期間:どの水準を、どれだけの期間下回ったら撤退の検討に入るか
  4. 判定の担い手:出店を起案した担当者ではなく、別の部署が判定します

不採算となった拠点を見極める際の考え方は、不採算事業と不採算部門の見極め方にまとめています。

商圏の重なりを、出店前に見積もる

複数店舗を展開している場合、新店の商圏が既存店とどれだけ重なるかを事前に確認します。地図上で既存店と候補地の商圏を重ねれば、重複する範囲は目視でも把握できます。重なりが大きい場合、全社の売上が増えるのか、既存店から移るだけなのかを、稟議の段階で議題にします。

この確認をしていないと、新店の売上だけを見て成功と評価し、既存店の減少を別の原因に帰属させることになります。

運用でつまずく3か所

評価表が「つけるだけ」になる。 基準に満たない候補地が承認され続けると、評価表は稟議書の添付資料に格下げされます。基準未達を承認する場合は、誰の判断で外したかを記録し、その案件の実績を分けて集計します。

商圏の定義が途中で変わる。 担当者の交代や分析ツールの入れ替えで定義が変わると、過去のデータと比較できなくなります。定義を変える場合は、過去分も新しい定義で引き直します。

開業後の検証が行われない。 出店の判断は、検証の記録が積み上がって初めて精度が上がります。検証の時期を稟議書に書き込み、担当を決めておかないと、日々の運営に埋もれます。

まとめ

出店の精度は、物件を見に行く前の段階で決まります。

  1. 既存店の商圏データと実績を、同じ定義で一覧にする
  2. 公的統計(国勢調査・経済センサス)で候補地を数値化する
  3. 差の出る項目を選び、全候補地を同じ表で評価する
  4. 稟議書に想定売上の根拠を書き、検証の時期を決める
  5. 出店の決裁と同じ文書で、撤退の条件と判定の担い手を決める

撤退の条件を出店時に決めておくことが、開業後に感情の入らない判断を可能にします。事業ポートフォリオ全体での考え方は事業ポートフォリオ最適化と戦略的撤退の意思決定を参照してください。