カスタマーサクセスの KPI は、解約率や売上の維持率のような「結果の指標」と、利用の定着や顧客との接点のような「先行の指標」を組み合わせて決めます。結果の指標だけでは、数字が悪くなったときに何をすればよいかが分からず、先行の指標だけでは、活動が事業の成果につながっているかが分かりません。決めるときは、①部門の目的(解約を減らすのか、既存の顧客からの売上を伸ばすのか)を決める、②結果の指標を 1〜2 個選ぶ、③結果の指標を動かす先行の指標を 2〜3 個選ぶ、④四半期ごとに両者のつながりを確かめる、の順に進めます。
KPI が形だけになる構造
活動の量だけを数えている
問い合わせへの対応の件数や、顧客との打ち合わせの回数だけを KPI にすると、担当者は件数を増やすことに集中します。その活動で解約が減ったのか、利用が増えたのかは分かりません。
結果の指標だけを追っている
解約率だけを KPI にすると、担当者は数字が悪くなってから慌てて動くことになります。解約は申し出があった時点で気持ちが決まっていることが多く、結果の指標だけでは打つ手が遅れます。
営業と別々の目標を持っている
営業は新しい顧客の獲得を、カスタマーサクセスは解約の防止を別々に追うと、営業が合わない顧客を獲得し、カスタマーサクセスがその解約を防げない、ということが起きます。顧客の満足と売上の関係の見方は、顧客満足度と売上が相関しない理由で扱っています。
代表的な指標
結果の指標
| 指標 | 計算の仕方 | 表すもの |
|---|---|---|
| 解約率(顧客の数) | 期間中に解約した顧客の数 ÷ 期初の顧客の数 | 顧客がどれだけ離れたか |
| 解約率(金額) | 期間中に解約・縮小で減った月の売上 ÷ 期初の月の売上 | 売上がどれだけ減ったか |
| 売上の維持率(GRR) | (期初の月の売上 − 解約・縮小で減った分)÷ 期初の月の売上 | 追加の販売を除いて、既存の売上をどれだけ保てたか |
| 売上の純増の率(NRR) | (期初の月の売上 − 解約・縮小 + 追加の販売)÷ 期初の月の売上 | 既存の顧客からの売上が、全体として増えたか減ったか |
| 顧客生涯価値(LTV) | 顧客 1 社あたりの月の粗利 ÷ 月の解約率 など | 顧客 1 社から得られる粗利の合計 |
NRR が 100%を超えていれば、新しい顧客を獲得しなくても、既存の顧客からの売上が増えていることを意味します。NRR の考え方と上げ方は、NRR とは何か、計算と改善の仕方で詳しく扱っています。
先行の指標
| 指標 | 例 | つながる結果の指標 |
|---|---|---|
| 導入の完了 | 契約から○日以内に、初期の設定と主な機能の利用が済んだ顧客の割合 | 解約率 |
| 利用の定着 | 月に主な機能を使っている顧客の割合、利用している人数 | 解約率・GRR |
| 顧客の状態 | ヘルススコアが注意の状態の顧客の数 | 解約率 |
| 接点 | 決裁者との打ち合わせを四半期に 1 回以上持てた顧客の割合 | 解約率・NRR |
| 追加の提案 | 追加の提案をした件数と、成約の割合 | NRR |
顧客の状態を点数で表す方法は、ヘルススコアの項目の選び方と対応の決め方で説明しています。
段階ごとの選び方
カスタマーサクセスの部門の段階によって、重点を置く指標は変わります。
立ち上げの段階では、まず解約率(顧客の数と金額)と、導入の完了の割合を追います。顧客の数が少ないうちは、1 社ずつの状況を把握できるため、細かな指標より「導入が完了していない顧客に何をするか」を決めることが大切です。
顧客が増えてきた段階では、GRR と、利用の定着の割合、ヘルススコアの注意の顧客の数を追います。担当者 1 人あたりの顧客が増えると、全員に同じように関わることはできないため、点数で優先順位を付けて動く仕組みが要ります。顧客の分け方は、カスタマーサクセスの顧客セグメンテーションが参考になります。
既存の顧客からの売上を伸ばす段階では、NRR と、追加の提案の件数と成約の割合を加えます。この段階では、営業との役割の分担(誰が追加の提案をするか)を決めておかないと、同じ顧客に両方から提案が届くことになります。
指標のつなげ方
先行の指標と結果の指標は、「この先行の指標を上げれば、この結果の指標が良くなるはずだ」という仮説でつなげます。仮説は、四半期ごとにデータで確かめます。
例えば、「導入から 30 日以内に主な機能を使い始めた顧客は、1 年後の解約が少ない」という仮説を置いたら、実際に導入の完了が早かった顧客と遅かった顧客の解約率を比べます。差が無ければ、先行の指標の選び方が合っていないため、別の指標を探します。差が大きければ、導入の完了を早める取り組みに力を入れます。
このつながりを確かめることで、担当者は「何をすれば部門の成果が良くなるか」が分かり、日々の活動の優先順位を自分で決められるようになります。
実行時の落とし穴
担当者ごとの解約率で評価する
担当する顧客の構成は担当者によって違うため、解約率をそのまま比べると不公平になります。担当者の評価には、先行の指標(導入の完了の割合、注意の顧客への対応の速さなど)を使い、解約率は部門全体で見ます。
指標を毎月変える
指標をひんぱんに変えると、担当者は何を追えばよいか分からなくなり、前後の比較もできなくなります。指標の見直しは四半期か半年に 1 回にします。
数字だけで判断する
解約率が低くても、不満を抱えたまま契約の更新を待っている顧客がいることがあります。数字と合わせて、顧客の声を定期的に聞きます。聞き方は、NPS の計算方法と改善につなげる運用で扱っています。




