根回しとは、会議や交渉を円滑に進めるために、正式な場の前に関係者へ個別に説明し、意見を聞いたり了承を得たりしておくことです。もとは樹木を植え替える前に根を切りつめ、細い根を出させておく園芸の作業を指す言葉です。根回しそのものは悪いものではなく、提案の穴を事前に見つけられる利点があります。問題になるのは、根回しの場で実質的な結論が決まり、正式な会議が追認の場になってしまうときです。この記事では、言葉の意味を確かめたうえで、根回しが必要になる組織の構造、事前説明の進め方、公式の手続きとの分け方、運用で起きやすい失敗を順に説明します。

根回しの意味

小学館「デジタル大辞泉」(コトバンク掲載)は、根回しに2つの意味を載せています。1つは、樹木の移植の1〜2年前に根を切り、細い根の発生を促す作業です。もう1つは、交渉や会議などで事をうまく運ぶために、あらかじめ手を打っておくことで、「下工作」という言い換えが添えられています。同じコトバンクに収録されている「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典」は、会議や交渉を円滑・有利に運ぶために非公式の場で合意の形成をはかること、と説明し、「下工作」「下相談」とも言うとしています。

ビジネスで使う根回しは2つ目の意味です。辞書の説明にも「非公式の場」という言葉があるとおり、根回しは正式な手続きの外で行われる点に特徴があります。この「非公式」であることが、根回しの利点と弊害の両方を生みます。

根回しが必要になる組織の構造

根回しが欠かせない組織には、共通する構造があります。個人の性格や社風の問題として片づけず、どの構造が当てはまるかを確かめることが出発点です。

正式な会議に、懸念を出して提案を直す時間がない

会議が報告と承認の場になっていると、その場で懸念が出ても提案を直す時間がなく、差し戻しか否決になります。提案する側は差し戻しを避けるため、会議の前に懸念を集めて潰しておく必要に迫られます。

反対できる人と決める人が一致していない

決裁者は1人でも、実務では関係部門の責任者が事実上の拒否権を持っている組織があります。誰の賛成があれば通るのかが規程に書かれていないため、提案者は関係しそうな人に一通り説明して回ることになります。

判断の基準が文書になっていない

何を満たせば承認されるのかが書かれていないと、提案者は決裁者の意向を事前に確かめるしかありません。基準が人の頭の中にある限り、根回しは基準を知るための手段として残り続けます。決裁ルートや判断基準を整える方法は、決裁ルートの単線化から始める透明な意思決定プロセスの作り方で扱っています。

役に立つ根回しと弊害の出る根回しの違い

観点役に立つ根回し(事前相談)弊害の出る根回し(事前決定)
目的懸念や条件を集め、提案を直す会議の前に賛成を固め、結論を確定させる
聞いた内容の扱い提案書に反映し、会議資料に残す個人の記憶とメモにしか残らない
対象者決定に関わる人・影響を受ける人影響力のある人だけ
会議の役割論点を確かめ、決定する追認する
結果会議で懸念の再燃が減る会議で反対しにくくなり、異論が表に出ない

見分ける目安は、根回しで聞いた意見が正式な資料に残っているかどうかです。資料に残っていれば、会議の参加者全員が同じ情報で判断できます。残っていなければ、会議に出ている人の間で持っている情報が食い違い、会議で異論が出にくくなります。会議で意見が出ない組織の構造は、会議で意見が出ない原因と異論を歓迎する会議体の再設計で扱っています。

根回しの進め方(事前説明の手順)

根回しを事前相談として行う場合の手順です。

  1. 説明する相手を洗い出す。 決裁者、予算を持つ人、実行を担う部門、影響を受ける部門、反対できる立場の人を書き出します。洗い出しと優先順位の付け方は、ステークホルダーマップの作り方で扱っています。
  2. 説明の目的を相手ごとに決める。 「懸念を聞く」「条件を確かめる」「情報を先に渡す」のどれかに分けます。賛否を取りつけることを目的にしないのがポイントです。
  3. 説明に使う資料を正式な提案書の案と同じにする。 相手によって説明を変えると、会議で説明の食い違いが表に出ます。
  4. 相手ごとに次の3点を確かめる。 提案のどこに懸念があるか。どの条件なら受け入れられるか。会議で決める前に確かめたいことは何か。
  5. 聞いた懸念と対応を提案書に書く。 「〇〇部から△△の懸念があり、□□の対応をとる」の形で残します。対応しない懸念も、しない理由と一緒に書きます。
  6. 正式な会議で決める。 会議では、事前に出た懸念と対応を確かめたうえで、決め方に従って決定します。

根回しを公式の手続きに置き換える

根回しに頼る度合いを下げるには、根回しが担っている役割を正式な手続きに移します。

根回しが担っている役割置き換える手続き
懸念の事前収集提案書の事前回覧と、期限付きの意見募集(コメントは提案書に残す)
決裁者の意向の確認判断基準の文書化と、基準に照らした提案書の書式
関係部門の了承規程で「協議先」と「決裁者」を分けて定め、協議先の意見は記録するが拒否権にはしない
会議で揉めないための調整会議の前に論点表を配り、会議では論点ごとに決める

置き換えの目的は、事前の対話をなくすことではありません。事前の対話で得た情報を、会議に出る全員が見られる場所に置くことです。

運用で起きやすい失敗

  • 「根回し禁止」を掲げる。 事前の対話を禁じると、懸念が会議で初めて出るようになり、差し戻しが増えます。禁じるのではなく、事前の対話で得た情報を記録に残すことを求めてください。
  • 協議先が事実上の拒否権を持ち続ける。 規程で協議先と決裁者を分けても、協議先の反対で決裁者が判断を保留する運用が続けば、元に戻ります。反対意見は記録したうえで、決裁者が期限内に決めることを徹底します。
  • 一部の人にだけ先に説明する。 影響力のある人だけに先に説明すると、残りの関係者は会議で初めて聞くことになり、不信感が生まれます。説明の順番と範囲を手続きとして決めておきます。
  • 全員の賛成を集めようとする。 全員一致を条件にすると、1人の反対で止まり、根回しの回数が増えるだけです。決め方の選び方は、集団意思決定とは|全員一致・多数決・一任の使い分けで扱っています。

まとめ

  • 根回しとは、正式な場の前に関係者へ個別に説明し、意見を聞いたり了承を得たりしておくこと
  • 根回しが欠かせないのは、会議に提案を直す時間がない、拒否できる人と決める人が一致しない、判断基準が文書にない、といった構造があるため
  • 役に立つ根回しと弊害の出る根回しの違いは、聞いた意見が正式な資料に残るかどうか
  • 根回しをなくすのではなく、根回しが担う役割を事前回覧・判断基準・協議先の定義といった公式の手続きに移す

出典