公益通報者保護法は、会社の中で起きている一定の法令違反を通報した人を、解雇や降格などの不利益な扱いから守るための法律です。2004年に制定され、守られる人、通報の対象になる事実、通報先ごとの要件、会社が整える体制の四つを定めています。常時使用する労働者が300人を超える事業者には通報に対応する体制の整備が義務づけられ、300人以下の事業者には努力義務になります。2025年6月に成立した改正法は2026年12月1日に施行され、守られる人の範囲が広がり、通報者を不利に扱った場合の罰則が設けられます。
公益通報者保護法の全体像
法律の骨組みを表にまとめました。条文の番号は、2026年10月時点の公益通報者保護法(平成16年法律第122号)のものです。
| 論点 | 内容 | 主な条文 |
|---|---|---|
| 守られる人 | 労働者、退職後1年以内の人、派遣労働者、役員など | 第2条第1項 |
| 対象になる事実 | 別表に掲げる法律に規定する犯罪行為の事実、過料の理由とされている事実など | 第2条第3項 |
| 通報先と要件 | 社内(事業者内部)、行政機関、報道など外部で要件が違う | 第3条 |
| 守られ方 | 解雇の無効、降格・減給などの不利益な取扱いの禁止 | 第3条・第5条 |
| 会社の義務 | 従事者の指定と体制の整備(300人以下は努力義務) | 第11条 |
| 秘密を守る義務 | 従事者は通報者を特定させる情報を漏らしてはならない | 第12条 |
守られる人
「労働者」は労働基準法第9条の労働者を指すため、正社員に限らず、パートやアルバイトも含まれます。通報の日前1年以内に退職した人、派遣労働者、役員も、それぞれの要件のもとで対象になります。
対象になる事実
どんな不正でも対象になるわけではありません。法律の別表に掲げられた法律(消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保などにかかわる法律)に規定する犯罪行為の事実や、過料の理由とされている事実などが対象です。消費者庁の改正概要の資料では、対象となる法律は約500本とされています。
通報先ごとの要件の違い
通報先によって、守られるための要件が変わります。社内への通報が最も要件が緩く、外部に行くほど厳しくなります。
| 通報先 | 守られるための主な要件(第3条) |
|---|---|
| 社内(会社があらかじめ定めた窓口を含む) | 通報対象事実が生じ、または生じようとしていると「思料する」こと |
| 権限を持つ行政機関 | 「信ずるに足りる相当の理由」があること。または思料したうえで、氏名や事実の内容などを記した書面を出すこと |
| 報道機関など、その他の外部 | 「信ずるに足りる相当の理由」があり、かつ社内や行政に通報すると不利益を受けると信じる相当の理由があるなど、法律が定める場合に当たること |
会社にとっての意味は明確です。社内の窓口が信頼されていなければ、社員は行政や外部を選ぶことになります。社内で早く受け止めて是正できる体制を持つことが、会社自身を守ることにもつながります。
会社に課される義務
公益通報者保護法第11条は、事業者に次の二つを求めています。
- 公益通報を受け、調査し、是正に必要な措置をとる業務に従事する者(従事者)を定めること
- 公益通報に応じて適切に対応するために必要な体制を整えること
常時使用する労働者が300人以下の事業者は、この二つが努力義務になります(第11条第3項)。具体的に何をすればよいかは、消費者庁の法定指針(令和3年内閣府告示第118号)が定めていて、窓口の設置、経営陣からの独立性、利益相反の排除、通報者の探索の防止、記録の保管、社員への周知などが挙げられています。従事者には通報者を特定させる情報を守る義務があり(第12条)、正当な理由なく漏らした場合は30万円以下の罰金の対象になります(第21条)。制度の作り方は内部通報制度の作り方で手順と規程の例を示しています。
令和7年改正で変わること
公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)は、2025年6月4日に成立し、同月11日に公布されました。施行は2026年12月1日です。消費者庁の改正概要の資料によると、主な内容は次のとおりです。
- 体制整備の実効性の強化:300人を超える事業者について、体制の周知が義務として明示されます。従事者を定める義務に違反した場合は、命令を経て、従わないときは30万円以下の罰金の対象になります。立入検査の権限も設けられます。
- 守られる人の拡大:フリーランスとして業務を受けている人(契約の終了から1年以内の人を含む)が保護の対象に加わります。
- 通報の妨害と通報者の探索の禁止:正当な理由なく通報しないことを約束させるなどの妨害や、正当な理由なく通報者を特定しようとする行為が禁じられ、通報をしないことを約束させる合意などは無効とされます。
- 不利益な取扱いへの罰則:通報を理由に解雇や懲戒をした者には、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人には3,000万円以下の罰金が科されます。通報から1年以内の解雇や懲戒は、通報を理由としたものと推定されます。
施行に合わせて法定指針も改められ、社員に周知すべき事項として、窓口の連絡先、利益相反の排除、不利益な取扱いの防止、通報の妨害と通報者の探索の防止などが明確にされます。改正概要の資料では、300人超に限るとされているのは従事者を定める義務に対する命令などの措置で、通報の妨害と探索の禁止にはその限定が付いていません。300人以下の会社も、これらを規程に入れておくと改正後の考え方に沿った運用になります。
実務で押さえておきたい点
公益通報者保護法は、会社が不正を早く知り、自ら是正するための仕組みとしても読めます。ACFE(公認不正検査士協会)の「Occupational Fraud 2026: A Report to the Nations」でも、不正の発見のきっかけで最も多かったのは通報でした。横領などの社内不正を仕組みで防ぐ考え方は社内の横領を防ぐ対策でも扱っています。
この記事は法律の一般的な解説です。自社にどの義務がかかるか、個別の通報が保護の対象になるかは、弁護士や消費者庁の「公益通報者保護制度相談ダイヤル」などの公的な窓口に確かめてください。
出典
- 公益通報者保護法(平成16年法律第122号)第2条・第3条・第5条・第11条・第12条・第21条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000122
- 消費者庁「公益通報者保護法と制度の概要」(令和7年改正の成立・公布・施行日、2025年) https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/
- 消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律 改正概要」(2025年) https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/consumer_partnerships_cms205_260501_01.pdf
- 消費者庁「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号、2021年) https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_210820_0001.pdf
- ACFE「Occupational Fraud 2026: A Report to the Nations」(2026年) https://legacy.acfe.com/report-to-the-nations/2026/




