リードナーチャリングとは、今すぐは購入を検討していない見込み客(リード)との接点を保ち、検討が進んだ時期を逃さずに営業へ渡すための仕組みです。問い合わせや名刺交換で得た見込み客のうち、その場で商談になるのは一部で、残りは「いつか検討するかもしれない」状態のまま放置されがちです。ナーチャリングは、この残りを対象に、①段階で分ける、②段階ごとに情報を届ける、③反応を記録する、④決めた基準で営業に渡す、の 4 つを回します。施策の前に「誰に・何を・いつ渡すか」を決めることが、続く仕組みにするための要点です。

見込み客が放置される構造

ナーチャリングが必要になるのは、営業とマーケティングの時間の感覚がずれているからです。

営業は「今月の商談」を追う

営業担当者の評価は、多くの場合その期の受注と商談の数で決まります。すぐに商談にならない見込み客に連絡を続けても評価につながらないため、手が回らなくなり、名刺や問い合わせの記録は台帳に残ったままになります。

検討の時期は相手が決める

見込み客が検討を始めるのは、予算の時期、担当者の交代、既存の取引先への不満など、相手の事情が起きたときです。売り手はその時期を選べません。接点が途切れていると、検討を始めた見込み客は、そのとき目に入った別の会社に問い合わせます。

誰の仕事か決まっていない

「すぐに商談にならない見込み客の担当」が組織の中で決まっていないと、営業もマーケティングも手を付けません。ナーチャリングは施策より先に、担当と引き渡しの基準を決める仕事です。

ナーチャリングの対象を分ける

まず、手元の見込み客を検討の段階で分けます。段階の名前は自社で決めてかまいませんが、判断の基準は行動や回答など、誰が見ても同じになるものにします。

段階状態判断の材料の例主な対応
認知会社名を知った程度名刺交換のみ・資料のダウンロード 1 回課題に気づく情報を届ける
関心課題を自覚している事例や解説の記事を複数回読む・セミナーに参加解決の方法を比べる材料を届ける
比較具体的に選び始めている料金や導入の流れのページを見る・個別の質問営業から連絡する
対象外当面は買わない競合・学生・取引の条件に合わない配信を止めるか頻度を下げる

段階は、担当者の印象ではなく記録から判断します。行動に点数を付けて並べる方法は、リードの評価基準とデータの整え方で扱っています。

段階ごとの施策

施策は多くありますが、段階と目的に合わせて選ぶと数を絞れます。

施策向く段階目的手間
メールマガジン(定期の配信)認知・関心接点を保つ中(原稿を続ける)
段階別のメール(行動に応じた配信)関心・比較次の段階の材料を届ける大(設計が要る)
解説記事・資料のダウンロード認知・関心課題への気づき中
セミナー・勉強会関心疑問に答え、関心の高さを確かめる大
導入事例関心・比較自社に当てはめる材料中
個別の連絡(電話・メール)比較商談の打診小〜中

中小企業で最初に作るなら、「月 1〜2 回の定期の配信」と「比較の段階に入った見込み客へ営業が連絡する基準」の 2 つで十分です。行動に応じて送り分ける仕組みは、定期の配信で反応の傾向が見えてから足します。

メールで届ける場合は、特定電子メール法の決まりに沿う必要があります。広告宣伝のメールは原則として受信者の事前の同意が必要で、名刺交換で得たアドレスなどには例外がありますが、送信を拒否する旨の表示がある場合は例外になりません。同意を得た場合も、送信者の氏名又は名称・受信拒否の連絡先・住所・問い合わせ先の表示が要ります(出典:日本データ通信協会 迷惑メール相談センター「特定電子メール法」)。個別の判断は専門家に確かめてください。配信の仕組みを選ぶときの上限の見方は、中小企業の無料メール配信システムの上限と移行の境目にまとめています。

営業へ渡す基準を決める

ナーチャリングの成果は、営業へ渡した見込み客が商談になるかで決まります。渡す基準が曖昧だと、営業は「質が低い」と受け取らず、マーケティングは「渡したのに追ってくれない」と不満を持ちます。

基準は、営業とマーケティングが一緒に決め、文書にします。

  • 渡す条件:比較の段階の行動(料金のページを見た・個別の質問をした など)と、対象の条件(業種・規模)の両方を満たしたとき
  • 営業の連絡の期限:渡してから何営業日以内に最初の連絡をするか
  • 戻す条件:連絡して「今は検討していない」と分かったら、ナーチャリングの対象に戻す。戻した理由を記録する
  • 見直しの頻度:月に 1 回、渡した件数と商談になった件数を一緒に見る

戻す条件を決めておくことが大切です。営業が一度連絡して終わりにすると、その見込み客は二度とナーチャリングの対象に戻らず、次に検討を始めたときの接点が失われます。

効果の測り方

配信の開封率やクリック率は、届け方の良し悪しを見る指標です。ナーチャリングそのものの成果は、次の指標で測ります。

指標見ること
段階が進んだ割合認知から関心、関心から比較へ、月ごとに何件進んだか
営業へ渡した件数と商談化率渡す基準が当たっているか
最初の接点から商談までの期間ナーチャリングで検討が早まっているか
ナーチャリング経由の受注最終的な売上への寄与

広告の獲得単価だけで判断すると、時間をかけて育てた見込み客の価値が見えなくなります。投資の回収を期間で見る考え方は、獲得単価だけを追うと資金が尽きる理由で説明しています。

実行時の落とし穴

全員に同じ内容を送り続ける

段階を分けずに同じ内容を送ると、比較の段階の見込み客には物足りず、認知の段階の見込み客には売り込みに見えます。最低でも「まだ課題に気づいていない人向け」と「比べ始めた人向け」の 2 種類は分けます。

配信が目的になる

配信の本数を目標にすると、中身の薄い配信が増え、配信の停止が増えます。目標は段階が進んだ件数と、渡した見込み客の商談化率に置きます。

ツールを先に入れる

MA ツールを先に入れると、設定と原稿づくりに追われ、段階の定義や渡す基準が決まらないまま運用が始まります。ツールで仕組みが止まる構造は、MA ツールが「穴の空いたバケツ」になる理由で扱っています。

結果を営業に返さない

営業に渡した見込み客が商談になったか・ならなかったかをマーケティングに返さないと、渡す基準を直せません。月 1 回の見直しの場で、商談にならなかった理由を一緒に確かめます。

出典