コーチングは、答えを教えるのではなく、問いかけと傾聴によって、相手が自分で考え、答えと次の行動を決めるのを手助けする関わり方です。上司が答えを教える関わり方(ティーチング)は早く確実ですが、それだけを続けると、部下は「上司に聞けばよい」と考え、自分で判断しなくなります。コーチングは、部下が自分で考える力を伸ばし、決めたことに自分で責任を持てるようにするために使います。ただし、どんな場面でもコーチングがよいわけではなく、相手の経験と場面によって、ティーチングと使い分けることが大切です。

ティーチングとの違い

観点ティーチングコーチング
答えを持っている人上司部下(部下の中から引き出す)
上司の主な行動教える、示す、指示する問いかける、聞く、考えを整理する手助けをする
向いている相手仕事の手順や知識がまだ無い人ある程度の経験と知識がある人
向いている場面急ぎの仕事、正確さが求められる仕事、決まった手順がある仕事答えが 1 つではない問題、部下の成長を促したい場面
時間短くて済む時間がかかる

新人に仕事の手順を教える場面で「どうしたらよいと思う」と聞いても、答えは出てきません。経験の無いことを考えさせると、部下は困り、上司を頼れないと感じます。一方、経験を積んだ部下にいつまでも答えを教えていると、部下の判断する力が育ちません。相手が知らないことは教え、相手が考えられることは問いかける、というのが使い分けの基本です。相手の経験に応じて関わり方を変える考え方は、リーダーシップ理論の種類で紹介している SL 理論とも通じます。

コーチングの基本の技術

聞く

相手の話を、途中でさえぎらず、評価や助言をはさまずに最後まで聞きます。うなずきやあいづちで聞いていることを伝え、相手の言葉を繰り返したり、要点をまとめて返したりして、理解が合っているかを確かめます。上司が話す時間より、部下が話す時間を長くすることを目安にします。

問いかける

「はい」「いいえ」で答えられる問い(閉じた問い)ではなく、相手が自分の言葉で考えて答える問い(開いた問い)を中心にします。「なぜできなかったのか」という問いは責められていると受け取られやすいため、「何があればできそうか」「どこでつまずいたか」のように、次に向けた問いにします。

認める

相手が考えたこと、やってみたことを、結果だけでなく過程も含めて認めます。認められると、相手は次も自分で考えようとします。伝え方は、フィードバックの仕方で説明しています。

GROW モデルに沿った面談の進め方

コーチングの面談の進め方として広く使われているのが、GROW モデルです。英国のジョン・ウィットモアの著書『Coaching for Performance』などで紹介され、目標、現状、選択肢、意思の 4 つの段階で話を進めます。

段階話すこと質問の例
Goal(目標)この面談で、またこの仕事で、何を目指すか「今日の時間で、何が決まるとよいですか」「この仕事で、どうなれば成功ですか」
Reality(現状)今どうなっているか、何が妨げになっているか「今、どこまで進んでいますか」「いちばん困っているのはどこですか」「これまでに何を試しましたか」
Options(選択肢)どんなやり方がありうるか「ほかにどんなやり方が考えられますか」「制約が無ければ、どうしますか」「似た場面で、前にうまくいったことは何ですか」
Will(意思)何を、いつまでにやるか「まず何から始めますか」「いつまでにやりますか」「そのために、私に手伝えることはありますか」

面談の最後には、部下が自分で決めた次の行動を、部下自身の言葉で確かめます。上司が決めたことを言わせるのではなく、部下が決めたことを確かめる形にします。次の面談では、決めた行動がどうだったかから話を始めます。1on1 の質問の例をテーマごとに知りたい場合は、1on1の質問例が参考になります。

コーチングがうまくいかない原因

答えを誘導する

上司の頭の中に答えがあり、そこに向けて問いを重ねると、部下は「答えを当てるゲーム」をしていると感じます。上司の考えがあるなら、問いの形で誘導せず、「私はこう考えるが、どう思うか」と率直に伝えます。

相手の経験に合っていない

経験の足りない相手にコーチングを続けると、相手は答えが出せずに困り、自信を失います。答えが出ないときは、ティーチングに切り替えます。

決めたことを確かめない

面談で次の行動を決めても、次の面談でそれを確かめなければ、行動は続きません。決めたことは記録し、次の面談の最初に確かめます。

評価の場と混ぜる

評価の面談の中でコーチングをしようとすると、部下は評価を気にして本音を話しにくくなります。成長を促すための面談は、評価の面談とは別の場として設けるほうが話が深まります。

管理職がコーチングを身に付けるには

コーチングは、知識として知っていても、面談の場ではつい答えを言ってしまうものです。身に付けるには、小さな行動を決めて続けます。例えば、面談で最初の 10 分は自分から助言をしない、答えを言う前に一度「あなたはどう考えますか」と聞く、面談の後に自分が話した時間と部下が話した時間を振り返る、といった行動です。

リーダーの行動を、仕事を前に進める働きと人との関係を保つ働きに分けて振り返る考え方は、PM理論とはで説明しています。コーチングは、このうち人との関係を保ちながら、部下の力を伸ばして仕事を前に進めるための手段の 1 つです。