シェアドリーダーシップは、リーダーの役割を 1 人の上司だけが担うのではなく、場面に応じて、その場面に詳しいチームのメンバーが担う考え方です。例えば、顧客対応の判断は顧客に詳しいメンバーが、新しい仕組みの使い方は仕組みに詳しいメンバーが、周りに働きかけて方向を示します。上司が全部の判断を抱える形では、仕事が複雑で変化が速い職場ほど、上司のところで判断が止まり、チームの動きが遅くなります。シェアドリーダーシップは、判断と働きかけをチームの中に分けることで、この詰まりを解くための考え方です。日本では立教大学の石川淳教授が研究を重ねており、著書『シェアド・リーダーシップ』(中央経済社、2016 年)で考え方と研究の結果を紹介しています。
従来のリーダーシップとの違い
| 観点 | 従来の形(上司 1 人) | シェアドリーダーシップ |
|---|---|---|
| リーダーの役割を担う人 | 上司 1 人 | 場面に応じて、複数のメンバー |
| 判断の場所 | 上司のところに集まる | 場面に詳しいメンバーのところで行われる |
| メンバーの動き方 | 上司の指示を待って動く | 自分の担う場面では、自ら周りに働きかける |
| 上司の役目 | 指示を出し、判断する | 目標を示し、役割の分け方を整え、最終の責任を持つ |
ここでいう「リーダーの役割」は、役職のことではありません。チームの目標に向けて、周りのメンバーに働きかけ、動いてもらうことを指します。役職が無くても、ある場面で周りに働きかけて仕事を前に進めていれば、その場面ではリーダーの役割を担っていることになります。
向いているチームと向いていないチーム
シェアドリーダーシップが力を発揮しやすいのは、仕事の中身が複雑で、1 人の上司が全部の場面に詳しくいられないチームです。新しい商品の開発、複数の専門の人が集まる案件、顧客ごとに対応が違う営業のチームなどが当てはまります。こうしたチームでは、場面に詳しいメンバーが判断したほうが、早く、正しい判断になりやすくなります。
一方、手順が決まっていて、正確さと速さが求められる仕事や、経験の浅いメンバーが大半のチームでは、上司がはっきり方向を示すほうがうまくいく場面が多くあります。また、緊急時の対応のように、1 人がすぐに決めて全員がそれに従う必要がある場面も、判断する人を 1 人に決めておくべきです。シェアドリーダーシップは、すべての場面に当てはめるものではなく、場面ごとに使い分けるものです。
導入の手順
手順 1:チームの目標をそろえる
リーダーの役割を分ける前提は、チームの全員が同じ目標を見ていることです。目標がそろっていないと、メンバーがそれぞれの判断で別の方向に動き、チームがばらばらになります。まず、チームの目標と、何を優先するかを、上司がはっきり示します。
手順 2:場面ごとに担う人を決める
チームの仕事を場面に分け、それぞれの場面で誰がリーダーの役割を担うかを決めます。「顧客 A の案件の進め方はこの人が決める」「新しい仕組みの使い方の決まりはこの人が作る」のように、具体的に決めます。担う人は、役職ではなく、その場面に詳しい人を選びます。役割と責任の分け方を表にする方法は、役割分担表の作り方で扱っています。
手順 3:任せる範囲と、上司に上げる基準を決める
担う人が自分で決めてよい範囲と、上司に相談してから決める範囲を決めます。例えば、「一定の金額までの値引きは担う人が決め、それを超える場合は上司に上げる」という形です。範囲が決まっていないと、担う人は判断をためらい、結局上司のところに判断が戻ってきます。上に上げる基準の作り方は、エスカレーションルールの作り方で説明しています。
手順 4:上司は判断を引き取らない
任せた場面で、上司が途中から判断を引き取ると、メンバーは「結局は上司が決める」と受け取り、自分で判断しなくなります。担う人の判断に違和感があっても、決めた範囲の中であれば、まず任せます。気になる点は、判断を覆すのではなく、次に生かす振り返りとして伝えます。仕事を任せるときの伝え方は、仕事の任せ方が参考になります。
手順 5:振り返りで分け方を直す
一定の期間ごとに、役割の分け方がうまく働いているかを振り返ります。判断が止まっている場面、担う人の負担が大きすぎる場面、担う人が決まっていない場面がないかを確かめ、分け方を直します。
メンバーが役割を担えるようにするための支え
役割を分けても、メンバーが周りに働きかけることに慣れていなければ、うまく機能しません。メンバーが役割を担えるようにするために、上司は次のような支えを行います。
1 つめは、判断に必要な情報を渡すことです。チームの目標、予算、顧客との約束など、上司だけが知っている情報があると、メンバーは正しく判断できません。判断に必要な情報は、チームの誰もが見られる場所に置きます。
2 つめは、担った結果を認めることです。メンバーが周りに働きかけて仕事を前に進めたときは、何がよかったのかを具体的に伝えます。うまくいかなかったときも、責めるのではなく、次にどうするかを一緒に考えます。伝え方は、フィードバックの仕方で説明しています。
3 つめは、評価の基準に入れることです。個人の成果だけで評価される仕組みのままだと、メンバーは自分の担当の仕事を優先し、周りへの働きかけを後回しにします。周りへの働きかけや、チームの成果への貢献を、評価の中で見る形にします。
実行時の落とし穴
「全員がリーダー」と言うだけで終わる
役割の分け方を決めないまま、「一人ひとりがリーダーのつもりで」と呼びかけるだけでは、何も変わりません。場面と担う人を具体的に決めます。
上司が責任まで手放す
シェアドリーダーシップは、上司が責任を手放すことではありません。任せた判断の結果についても、最終の責任は上司が持ちます。任せっぱなしにせず、振り返りの場で状況を確かめます。
担う人に負担が偏る
場面に詳しい人に役割が集まると、特定のメンバーの負担が大きくなります。担う場面の数や、本来の仕事との兼ね合いを確かめ、必要なら分け方を直します。




