業務の属人化とは、特定の人しか仕事のやり方や状況を知らず、その人がいないと仕事が止まったり、ほかの人が中身を確かめられなかったりする状態のことです。属人化が起きる原因の多くは、個人の性格ではなく、忙しさの中で一人に任せ続けたこと、手順を書き残す時間や評価の仕組みが無いことにあります。解消は、①属人化している業務を洗い出す、②優先順位を付ける、③手順と判断の基準を書き出す、④2 人目ができるようにする、⑤記録を共有の場所に残す、の順で進めます。ただし、すべての属人化をなくす必要はありません。止まると困る業務と、複数の目が要る業務から手を付け、高い技能が要る仕事は一人に任せたまま止まらない備えをする、という見分けが大切です。

業務の属人化が起きる原因

忙しさの中で、できる人に任せ続ける

新しい業務や急ぎの業務は、たいてい、その場で一番早くこなせる人に任されます。一度任されると、その人が慣れて早くなるため、次もその人に任されます。これを繰り返すうちに、その業務はその人しかできないものになります。任せる側も任される側も、その場では合理的な判断をしているため、属人化は気づかないうちに進みます。

手順を書き残す時間が無い

仕事を回すことに追われていると、手順を書き残す時間は後回しになります。書き残すことが業務として認められておらず、書いても誰にも評価されないなら、書く理由がありません。その結果、仕事のやり方は担当者の頭の中にだけ残ります。

自分しかできないことが、自分の価値になっている

「この仕事は自分しかできない」という状態は、担当者にとって、職場での立場を守るものにもなります。手順を共有すれば、自分の価値が下がるのではないかと感じる人もいます。これは担当者の心がけの問題ではなく、ほかの人を育てたことや手順を共有したことが評価されない仕組みから生まれる行動です。

仕組みや道具が個人ごとにばらばら

同じ業務でも、担当者ごとに違う表計算のファイルや、個人の受信箱、個人のフォルダで仕事を進めていると、ほかの人は中身を見ることができません。担当者が作った独自の計算の仕組みや、その人だけが中身を分かっている自動化の仕組みも、属人化の原因になります。

属人化を放っておいたときの影響

影響起きること
業務が止まる担当者の休み・異動・退職で、業務が止まったり、期限を守れなかったりする
品質がばらつく担当者によって仕事の出来が変わり、顧客への対応がそろわない
誤りや不正に気づけないほかの人が中身を確かめられないため、誤りや不正が長く見過ごされる
担当者に負担が集中する休みを取りにくくなり、疲れや離職のきっかけになる
業務を変えられない仕組みの入れ替えや改善をしようにも、今のやり方が分からない

特に注意したいのは、誤りや不正に気づけないことです。お金の出入りや、取引先との契約に関わる業務を一人が最初から最後まで受け持ち、誰も中身を確かめない状態では、意図しない誤りも、意図的な不正も見つけにくくなります。こうした業務は、手続きを複数の人で分け、別の人が中身を確かめる形にしておくことが、属人化の解消と同じくらい大切です。

解消の進め方

手順 1:属人化している業務を洗い出す

部署の業務を一覧にし、それぞれの業務を「誰ができるか」を書き込みます。できる人が 1 人しかいない業務が、属人化している業務です。一覧を作るときは、毎日の業務だけでなく、月末や年に数回しか行わない業務、頼まれて引き受けている小さな業務も書き出します。業務と技能の一覧の作り方は、スキルマップの作り方で説明しています。

担当者本人にも、「自分が 1 週間休んだら、どの業務が止まるか」を書き出してもらうと、上司が把握していなかった業務が見つかります。

手順 2:優先順位を付ける

洗い出した業務のすべてに一度に手を付けることはできません。次の 2 つの点から優先順位を付けます。

見る点優先度が高い業務の例
止まったときの影響請求・支払い、顧客への納品、法令で期限が決まっている手続き
複数の目が要るかお金の出入り、取引先との契約、個人情報の扱い

担当者の退職や異動が近い業務は、この 2 つに関係なく、最優先で手を付けます。

手順 3:手順と判断の基準を書き出す

優先度の高い業務から、手順と判断の基準を書き出します。書き出すのは担当者ですが、担当者だけに任せると、本人にとって当たり前のことが抜けます。上司や後に担当する人が、「このときはどうしているのか」と聞きながら一緒に書くと、抜けが減ります。

書き出すときは、手順だけでなく、「こういう場合はこうする」という例外の判断を必ず入れます。手順は後から画面を見ながら補えますが、例外の判断は担当者にしか分かりません。業務マニュアルの構成と書き方は、業務マニュアルの作り方で、言葉になっていない判断の引き出し方は、暗黙知が共有されない属人化を解消するナレッジ共有の仕組みで扱っています。

手順 4:2 人目ができるようにする

手順を書き出しただけでは、属人化は解消しません。2 人目が実際にその業務を行えるようになって、初めて解消したと言えます。2 人目は、書き出した手順を見ながら担当者と一緒に業務を行い、次に自分で行って担当者に確かめてもらいます。迷ったところは手順の足りない箇所なので、その場で書き足します。

一度できるようになっても、長く行わないと忘れます。2 人目が定期的にその業務を受け持つよう、担当を交代で回したり、月に 1 回は 2 人目が行う日を決めたりします。

手順 5:記録を共有の場所に残す

業務の記録を、個人の受信箱やフォルダではなく、チームの誰もが見られる場所に残す決まりにします。メールでのやり取りは共有の受信箱やチームで見られる場所に、書類は共有のフォルダに、進み具合はタスクの一覧に残します。記録が共有されていれば、担当者が急に休んでも、ほかの人が経緯をたどれます。

担当者が作った表計算の計算の仕組みや自動化の仕組みは、何をしているかの説明を残し、ほかの人も中身を確かめられるようにしておきます。

すべての属人化をなくさなくてよい

属人化の解消は、すべての仕事を誰でもできる状態にすることではありません。高い技能や長い経験が要る判断、顧客との長い関係が価値になっている仕事を、無理に誰でもできるようにしようとすると、手間ばかりかかり、仕事の質が下がることもあります。

こうした仕事は、一人に任せたまま、次の備えをしておく形が向いています。

  • 進み具合と経緯を記録に残す:その人がいなくても、どこまで進んでいて、何を約束しているかが分かるようにする
  • 代わりに対応する人を決めておく:すべてはできなくても、急ぎの連絡を受け、顧客に状況を伝えられる人を決めておく
  • 後に続く人を育て始める:すぐに同じ水準にならなくても、少しずつ経験を積ませる

営業のように、成果が個人の力に大きく左右される仕事の属人化は、営業の属人化を解消する方法で、型の作り方と共有の仕方を説明しています。

担当者の協力を得るために

属人化の解消は、担当者の協力が無ければ進みません。協力を得るために、次の点を整えます。

1 つめは、手順を書き出す時間を業務として確保することです。「空いた時間で書いておいて」では、忙しい担当者ほど書けません。週に何時間と決め、その分ほかの業務を減らします。

2 つめは、手順を共有したことや、ほかの人を育てたことを評価に入れることです。自分しかできない状態を作ることより、チームで回せる状態を作ることが評価されると分かれば、担当者の行動は変わります。

3 つめは、属人化の解消が、担当者の負担を減らすためでもあると伝えることです。自分しかできない業務を抱えている人は、休みを取りにくく、急な呼び出しも受けやすい立場にあります。2 人目ができれば、その負担は軽くなります。

実行時の落とし穴

手順書を作って終わりにする

手順書ができても、2 人目が実際に業務を行えなければ、担当者が休んだときに業務は止まります。書き出した後、2 人目が実際に行うところまでを、解消の作業に含めます。

担当者を責める

属人化を担当者の抱え込みとして責めると、担当者は身構え、手順を出すことにさらに消極的になります。属人化は任せ方と評価の仕組みから生まれることを前提に、仕組みの側を直します。

一度に全部をやろうとする

すべての業務を一度に書き出そうとすると、通常の業務と並行できず、途中で止まります。優先度の高い業務から、1 つずつ進めます。