業務マニュアルは、仕事の手順と判断の基準を書き出し、担当者が替わっても、同じ品質で仕事ができるようにするための文書です。作り方は、①対象の業務を選ぶ、②業務の範囲と目的を決める、③手順と判断の基準を書く、④初めての人に試してもらって直す、⑤置き場所と更新の担当を決める、の 5 つの手順で進めます。マニュアルが使われなくなる原因の多くは、書き方より、探しにくいこと、内容が古くなっていること、判断が要る場面が書かれていないことにあります。作るときから、探しやすさと更新の仕組みを考えておくことが大切です。

マニュアルが使われなくなる構造

探しにくい

マニュアルが個人のフォルダや、いくつもの共有フォルダに散らばっていると、必要なときに見つかりません。見つからなければ、担当者は詳しい人に聞くことになり、マニュアルは使われなくなります。一度「探しても見つからない」経験をした人は、次からは最初から人に聞くようになります。

内容が古い

仕組みや手順が変わったのにマニュアルが直されていないと、書かれているとおりに進めても仕事が終わりません。一度でも古い内容で困った人は、マニュアルを信用しなくなります。マニュアルが古くなるのは、更新の担当と時期が決まっていないことが原因です。

判断が要る場面が書かれていない

手順だけが書かれていて、「こういう場合はどうするか」が書かれていないマニュアルでは、例外が起きたときに役に立ちません。実際の仕事では、例外への対応にこそ経験が要り、担当者に聞きたくなるのもその場面です。

手順 1:対象の業務を選ぶ

すべての業務のマニュアルを一度に作ろうとすると、途中で止まります。次の順で優先順位を付けます。

優先業務の例理由
高い担当者が 1 人しかいない業務その人が休んだり辞めたりすると止まる
高いミスが起きると影響が大きい業務(請求、支払い、顧客への連絡など)手順の抜けが大きな損失につながる
中くらい年に数回しか行わない業務(決算、年次の手続きなど)担当者でも手順を忘れやすい
中くらい新しく入った人が最初に覚える業務教える手間を減らせる

担当者が 1 人しかいない業務を洗い出すには、部署の業務を一覧にし、それぞれの業務を誰ができるかを書き込みます。業務と技能の一覧の作り方は、スキルマップの作り方が参考になります。

手順 2:業務の範囲と目的を決める

書き始める前に、そのマニュアルが扱う業務の範囲と目的を決めます。

  • 範囲:どこから始まり、どこで終わるか(例:「顧客から注文を受けてから、出荷の指示を出すまで」)
  • 目的:その業務は何のために行うのか、何ができれば終わりか
  • 読む人:誰が読むのか(新しく入った人、ほかの部署から応援に来た人など)

範囲が広すぎると 1 つのマニュアルが長くなり、探しにくくなります。1 つのマニュアルは、1 つのまとまった業務に絞ります。目的を書いておくと、手順どおりに進められない場面でも、読む人が目的に沿って判断できます。

手順 3:手順と判断の基準を書く

マニュアルの構成は、次の形が使いやすくなります。

  1. 業務の概要:範囲、目的、所要時間、頻度、関係する部署
  2. 始める前に用意するもの:必要な権限、使う仕組み、書類
  3. 手順:番号を付けて、1 つの手順に 1 つの動作を書く
  4. 判断が要る場面:「〇〇の場合は△△する」の形で、例外への対応を書く
  5. よくある間違い:過去に起きたミスと、その防ぎ方
  6. 困ったときの連絡先:誰に聞けばよいか

書き方のこつは、次のとおりです。

  • 1 つの手順に 1 つの動作:「〇〇画面を開き、△△を入力して保存する」ではなく、「1. 〇〇画面を開く」「2. △△を入力する」「3. 保存を押す」と分ける
  • 画面の名前やボタンの名前は、表示どおりに書く:読む人は画面と見比べながら進めるため、表示と違う言葉を使うと迷う
  • 画面の画像を入れる:特に最初の数手順と、間違えやすい箇所には画像を入れる。画像には、押す場所に印を付ける
  • 理由を短く添える:「必ず〇〇を確かめる(確かめないと二重に請求されるため)」のように、なぜその手順が要るのかを書くと、手順が守られやすくなる

「判断が要る場面」は、担当者に聞き取って書きます。「こういうとき、どうしていますか」と聞くと、担当者が普段何気なく行っている判断が出てきます。言葉になっていない判断を引き出す方法は、暗黙知が共有されない属人化を解消するナレッジ共有の仕組みで扱っています。

手順 4:初めての人に試してもらって直す

下書きができたら、その業務を行ったことのない人に、マニュアルだけを見て実際に業務を行ってもらいます。担当者は横で見ているだけにし、読む人が迷った箇所、質問した箇所、間違えた箇所を記録します。

迷った箇所は、書き方が足りないか、手順が抜けている箇所です。記録をもとにマニュアルを直し、もう一度別の人に試してもらえると、さらに抜けが減ります。この手順を省くと、担当者にとっては十分に書いたつもりでも、ほかの人には使えないマニュアルになります。

手順 5:置き場所と更新の担当を決める

置き場所は、チームで 1 つに決めます。共有の文書やウィキなど、誰でも見られ、検索できる場所が向いています。置き場所を決めたら、古い置き場所にあるマニュアルは消すか、新しい置き場所への案内に置き換えます。置き場所が 2 つあると、どちらが新しいのか分からなくなります。

マニュアルごとに、更新の担当者を決めます。更新の担当者は、その業務の手順が変わったときにマニュアルを直す責任を持ちます。あわせて、半年に 1 回など、定期的に内容を見直す時期を決めます。マニュアルの冒頭には、最後に更新した日と、更新の担当者を書いておくと、読む人が内容の新しさを判断できます。

業務の引き継ぎの場面でマニュアルを使う方法は、営業の引き継ぎのやり方でも、引き継ぎ書の項目として扱っています。

使われるマニュアルにするための工夫

マニュアルを作った後、使われるようにするには、仕事の流れの中でマニュアルに触れる機会を作ります。

1 つめは、質問を受けたときにマニュアルを示すことです。担当者が質問に口頭で答えるだけでなく、「マニュアルのこの箇所に書いてあります」と示すと、質問した人は次からマニュアルを見るようになります。マニュアルに書かれていないことを聞かれたら、答えた後にマニュアルに書き足します。

2 つめは、新しく入った人の教育でマニュアルを使うことです。教える側がマニュアルを見ながら説明すると、教える内容がそろい、教わる側も後から見返せます。

3 つめは、ミスが起きたときにマニュアルを見直すことです。ミスの原因が、マニュアルの書き方や抜けにあったなら、その場で直します。ミスを個人の責任として終わらせず、マニュアルに反映することで、同じミスを防げます。

実行時の落とし穴

一度に完璧なものを作ろうとする

最初から完璧なマニュアルを作ろうとすると、完成までに時間がかかり、その間に業務の中身が変わります。まず主な手順だけを書いて使い始め、使いながら足していきます。

作る人を 1 人に任せきりにする

マニュアルづくりを 1 人に任せると、その人の負担が大きくなり、途中で止まります。業務ごとに担当を分け、作る時間を業務として確保します。

更新の担当を決めない

作った直後は正確でも、更新の担当が決まっていなければ、半年もすれば古くなります。マニュアルごとに、更新の担当者と見直しの時期を必ず決めます。