業務の引き継ぎは、①引き継ぐ業務の一覧を作る、②業務ごとに引き継ぎ資料を書く、③後任と一緒に業務を行い、次に後任が行うのを見届ける、④引き継ぎの後に確認の場を設ける、の順で進めます。引き継ぎがうまくいかない原因の多くは、資料に何を書くかが決まっていないことと、資料を渡しただけで引き継ぎを終えてしまうことにあります。手順は資料に書けても、例外のときの判断や、関係者とのやり取りの経緯は、後任が実際に業務を行ってみないと抜けに気づけません。引き継ぎは、後任が一人で業務を回せることを確かめたところで終わりにします。

引き継ぎがうまくいかない構造

業務の全体が見えていない

前の担当者が、自分の業務をすべて把握しているとは限りません。毎日の業務は思い出せても、月末だけの作業、年に 1 回の手続き、頼まれて引き受けている小さな作業は、一覧に入らないことがよくあります。引き継ぎの後に「この作業は誰がやっていたのか」という問い合わせが相次ぐのは、このためです。

資料を渡して終わる

引き継ぎ資料を作って渡しただけでは、後任は書かれていることを理解したつもりになっても、実際に業務を行うと分からない点が次々に出てきます。資料には、前の担当者が当たり前だと思っていることが書かれていないためです。

期間が足りない

異動や退職が決まってから最終日までの期間が短いと、前の担当者は目の前の業務を片付けるのに精一杯になり、引き継ぎは後回しになります。資料は最終日の直前にまとめて書かれ、後任が質問する時間も取れません。

手順 1:引き継ぐ業務の一覧を作る

まず、引き継ぐ業務をすべて書き出します。抜けを減らすために、頻度ごとに分けて書き出すのが効果的です。

頻度業務の例
毎日問い合わせへの対応、受注の処理、日々の集計
毎週定例の会議の準備、週の報告、在庫の確認
毎月請求書の発行、月次の集計、支払いの処理
年に数回決算の準備、契約の更新、年次の手続き
不定期トラブルへの対応、頼まれて引き受けている作業

予定表や過去のメール、仕組みの操作の履歴を見返すと、思い出せなかった業務が見つかります。一覧には、業務ごとに、頻度、所要時間、関係者、期限を書き、引き継ぎの優先順位を付けます。期限が近い業務と、止まると影響が大きい業務を優先します。

手順 2:業務ごとに引き継ぎ資料を書く

業務ごとに、次の項目で資料を書きます。

項目書くこと
目的その業務は何のために行うのか、何ができれば終わりか
手順番号を付けた作業の順番。使う仕組みの画面や書類の場所
判断の基準「〇〇の場合は△△する」という例外への対応
関係者社内外の関係者、連絡の取り方、それぞれとのやり取りの注意点
進行中の案件今進んでいる案件、期限のある約束、未解決の問題
置き場所関係する文書・データ・パスワードの管理の場所(パスワードそのものは書かない)
過去のトラブル起きたことと、そのときの対応

特に大切なのは「判断の基準」と「進行中の案件」です。手順は、多少抜けていても後任が仕組みを触りながら補えますが、例外のときの判断や、期限のある約束は、知らなければ対応できません。

手順が多い業務や、ほかの人も行う可能性がある業務は、引き継ぎ資料ではなく、業務マニュアルとして書いておくと、次の引き継ぎでもそのまま使えます。マニュアルの構成と書き方は、業務マニュアルの作り方で扱っています。

顧客を担当する営業の引き継ぎでは、顧客ごとの関係者や経緯が中心になります。顧客へのあいさつの進め方を含めた営業の引き継ぎは、営業の引き継ぎのやり方で説明しています。

手順 3:一緒に行い、後任が行うのを見届ける

資料ができたら、実際の業務を使って引き継ぎます。進め方は、次の 3 段階です。

  1. 前の担当者が行うのを、後任が見る:資料と見比べながら、書かれていないことを質問する
  2. 後任が行うのを、前の担当者が見る:後任が資料を見ながら行い、迷ったところで前の担当者が助ける
  3. 後任が一人で行う:終わった後に、前の担当者が結果を確かめる

2 の段階で後任が迷った箇所は、資料の足りない箇所です。その場で資料に書き足します。この段階を経ることで、資料は後任にとって使えるものになります。

月に 1 回や年に数回の業務は、引き継ぎの期間中に機会が無いことが多くあります。その場合は、過去の実施の記録を使って、手順を一緒にたどります。そのうえで、次にその業務が来たときに、確かめられる相手(前の担当者が社内に残るなら本人、退職するならほかの詳しい人)を決めておきます。

手順 4:引き継ぎの後に確認の場を設ける

引き継ぎから 1 か月ほどたったら、後任と上司で、次の点を確かめます。

  • 業務の一覧のうち、引き継げていない業務は無いか
  • 期限のある約束や進行中の案件に、抜けや遅れは無いか
  • 引き継ぎの後に分かったことで、資料に書き足すべきことは何か

前の担当者が異動で社内に残る場合は、異動から一定の期間、質問を受ける時間を決めておくと安心です。異動先の仕事が始まると、質問に答える時間が取りにくくなるため、「最初の 1 か月は週に 1 回、30 分」のように、期間と時間を決めます。

急な退職や休みへの備え

引き継ぎの期間が十分に取れない場合もあります。急な退職や、病気による長い休みなどです。こうした場合に備えて、普段から次のことをしておきます。

1 つめは、担当者が 1 人しかいない業務を減らすことです。部署の業務を一覧にして、それぞれの業務を誰ができるかを確かめ、1 人しかできない業務には、2 人目を育てる計画を立てます。業務と担当者の一覧の作り方は、スキルマップの作り方が参考になります。

2 つめは、業務の記録を個人の手元ではなく、共有の場所に残すことです。メールを個人の受信箱だけに残す、書類を個人のフォルダに置く、といった状態では、担当者がいなくなったときに業務の経緯が分かりません。

3 つめは、半年に 1 回程度、主な業務の資料を「今引き継ぐなら」という前提で見直すことです。見直しの時期を決めておくと、資料が古くなるのを防げます。

実行時の落とし穴

最終日の直前に資料を書く

資料を最終日の直前に書くと、後任が読んで質問する時間がありません。引き継ぎの予定を立てるときは、資料の完成を期間の前半に置き、後半を一緒に業務を行う時間に充てます。

上司が関わらない

引き継ぎを前の担当者と後任の 2 人に任せきりにすると、忙しさの中で後回しになります。上司が業務の一覧を持ち、どの業務の引き継ぎが済んだかを確かめる役を担います。

資料を引き継ぎのためだけに作る

引き継ぎのためだけに作った資料は、引き継ぎが終わると更新されなくなります。業務マニュアルとして共有の場所に置き、日々の業務の中で使い、更新していく形にします。