営業の属人化とは、売上や顧客との関係が一部の担当者に偏り、その人のやり方が他の人に共有されていない状態です。原因は、個人の能力の差だけではなく、成果を出している人のやり方が言葉になっておらず、他の人が真似できないことにあります。解消するには、①売れる人の行動を段階ごとに分解する、②誰がやっても差が出にくい部分を型にする、③型とナレッジを使われる形で共有する、④共有や育成への貢献を評価に入れる、の 4 つを進めます。属人化は、担当者の退職や異動で売上が急に落ちる危うさを抱えているため、売上が好調なうちに手を付けることが大切です。

属人化が起きる構造

やり方が言葉になっていない

成果を出している営業担当者は、自分がなぜ売れているのかを言葉で説明できないことがよくあります。顧客の反応を見て話を変える、提案の前に確かめることがある、といった判断が、経験の中で自然に身についているためです。本人が説明できなければ、他の人は真似できません。

顧客と情報が一人に集まる

大きな顧客や難しい案件が、成果を出している担当者に集まり続けると、他の担当者は経験を積む機会がありません。顧客の情報もその担当者の頭の中にたまり、記録には残りません。

評価が個人の売上だけで決まる

個人の売上だけで評価されると、自分のやり方を他の人に教える理由がありません。教える時間は自分の売上の時間を減らすため、共有しないほうが得になります。評価の置き方と営業の行動の関係は、営業のチーム評価の設計でも扱っています。

売れる人の行動を分解する

まず、成果を出している担当者と、そうでない担当者の違いを、営業の段階ごとに確かめます。

段階確かめること違いの例
見込み客の選び方どの相手に時間を使っているか売れる人は、時期が決まっている相手から先に連絡している
初回の面談何を聞いているか売れる人は、課題だけでなく決め方と時期を聞いている
提案何を見せているか売れる人は、似た顧客の事例を必ず見せている
見積と条件どう金額を出しているか売れる人は、選択肢を 2〜3 案出している
決裁までのフォローいつ、何を連絡しているか売れる人は、決裁の会議の前に資料を追加で送っている

違いを確かめるには、本人への聞き取りだけでなく、商談への同席、商談の記録の比較、顧客への聞き取りを組み合わせます。本人が意識していない行動は、同席して初めて分かることが多くあります。

段階ごとの商談の数と、次の段階に進んだ割合を担当者ごとに並べると、どの段階で差が出ているかが数字で見えます。確度の管理の仕方は、ヨミ管理のやり方で説明しています。

営業の型を作る

分解した行動のうち、誰がやっても成果に差が出にくい部分を型にします。型は、次の 3 つに分けて作ると使いやすくなります。

  • 進め方の型:段階ごとに何をするか、次の段階に進む条件は何か。例えば「初回の面談で、課題・決め方・時期の 3 つを聞く。3 つが分かったら提案に進む」
  • 話し方の型:初回の面談の聞き取りの質問、よくある断り文句への答え方。一字一句の台本ではなく、聞くことと順番の目安にする
  • 資料の型:会社の紹介、事例、提案書、見積書の標準の形。担当者ごとに作り直す手間を減らす

型は、成果を出している担当者と一緒に作ります。マネージャーや企画の担当だけで作ると、現場で使われない型になりがちです。できた型は、まず数人で試し、使いにくい部分を直してから全員に広げます。

型とナレッジを共有する

型を作っても、使われなければ意味がありません。共有の仕方で、使われるかどうかが決まります。

共有の方法向くもの使われるための工夫
置き場所を 1 つに決める資料の型、事例、よくある質問への答え探す場所が 1 つだけになるよう、古い置き場所は消す
商談の振り返りの会受注と失注の事例週に 1 回、1 件ずつ、何が決め手だったかを話す
同行と同席話し方、場の読み方若手が売れる人の商談に同席し、終わった後に理由を聞く
型の見直しの会型そのもの四半期に 1 回、成果の出た工夫を型に取り入れる

受注と失注の事例は、型を直す一番の材料です。失注の理由の集め方と使い方は、失注分析のやり方で扱っています。

ナレッジの共有で大切なのは、量より探しやすさです。資料や事例が増えるほど、目的のものが見つからなくなります。事例は「業種」「課題」「規模」のような決まった項目で整理し、よく使われるものを上に置きます。

評価を見直す

型づくりと共有を続けるには、それに協力することが評価される仕組みが要ります。

  • 個人の売上に加えて、チームの売上を評価に入れる
  • 型づくり、事例の共有、後輩の同行への協力を評価の項目にする
  • 成果を出している担当者に、育成の役割と、そのための時間を正式に与える

売れる人に育成の役割を任せる場合は、個人の売上の目標をその分だけ下げます。目標を下げずに育成も求めると、どちらも中途半端になります。

実行時の落とし穴

型を細かく決めすぎる

一字一句の台本や細かすぎる手順は、顧客の状況に合わせた対応を妨げ、担当者の反発も招きます。型は「必ずやること」と「目安」に分け、目安の部分は担当者の判断に任せます。

顧客の担当を急に替える

属人化を解消しようとして、売れる人の顧客を急に他の担当者に移すと、顧客の信頼を失うことがあります。副の担当を置いて同席させ、時間をかけて関係を広げます。担当の交代の進め方は、営業の引き継ぎのやり方にまとめています。

一度作って終わる

商品や市場が変われば、売れるやり方も変わります。型を作った後も、受注と失注の事例を見て、少なくとも半年に 1 回は型を見直します。