広告代理店に運用を任せているのに成果が見えないときは、代理店の腕より、発注する側が「何を目指し、何で評価するか」を伝えていないことに原因があることが多くあります。目的と評価の基準が渡されていなければ、代理店は測りやすいクリック数や獲得単価を目標に運用するしかありません。丸投げを抜け出すには、①依頼の前に目的と評価の基準を文書にする、②広告のアカウントを自社で持つ、③定例会を報告ではなく判断の場にする、④決めた時期に見直す、の 4 つを整えます。代理店を替えるより先に、発注の側でできることから始めます。

丸投げになる構造

事業の目標が広告の言葉になっていない

「売上を伸ばしたい」「問い合わせを増やしたい」だけを伝えると、代理店はどの顧客の、どの問い合わせを増やせばよいのか判断できません。受注につながらない問い合わせが増えても、依頼の言葉のうえでは目標を達成したことになります。

成果の数字が広告の画面の中で閉じている

代理店が見られるのは、広告の管理画面の数字(表示回数・クリック・獲得の件数と単価)までです。その後に商談になったか、受注したかは発注側にしか分かりません。この情報を返さなければ、代理店は獲得単価を下げる方向にしか工夫できず、質の低い獲得が増えることがあります。獲得単価だけを追う危うさは、獲得単価だけを追うと資金が尽きる理由で扱っています。

担当が決まっていない

社内で代理店とのやり取りを受け持つ人が決まっていないと、定例会のレポートを受け取るだけで、判断が必要な提案が止まります。広告の担当は専門家である必要はありませんが、目標と予算について社内で決める権限を持つ人か、その人にすぐ相談できる人である必要があります。

依頼の前に決めること

代理店に渡す依頼の文書には、次の項目を入れます。1〜2 枚にまとまる量で十分です。

項目書くこと書き方の例
事業の目標広告で達成したいこと「新しいサービスの受注を月 5 件」
狙う顧客業種・規模・役職・地域など「関西の従業員 50〜300 名の製造業の総務部門」
成果として数える行動何を 1 件と数えるか「資料請求と見積の依頼。求人への応募は含めない」
成果の価値1 件あたりいくらまで払えるか「受注率と粗利から、1 件あたり上限○円」
予算月の上限と、増やす条件「月○円。獲得単価が上限の 8 割以下なら増額を相談」
表現の決まり使ってよい言葉・いけない言葉「『業界 No.1』などの根拠の無い表現は使わない」
返す情報自社から代理店に返すもの「月に 1 回、獲得した見込み客のうち商談になった件数」

「成果の価値」と「返す情報」の 2 つが、丸投げとそうでない依頼を分けます。1 件の獲得にいくらまで払えるかが分かれば、代理店は上限の中で件数を最大にする工夫ができ、商談の結果が返ってくれば、質の高い獲得に寄せていけます。

広告の表現は、代理店が作ったものでも自社が確かめます。景品表示法の表示の規制は商品やサービスを供給する事業者が対象で、広告代理店や媒体は、自ら供給していない限り規制の対象になりません(出典:消費者庁「表示に関するQ&A」)。表現の最終的な確認は、発注する側の仕事です。

広告のアカウントを自社で持つ

広告のアカウントは、自社の名義で作り、代理店を利用者として招く形にします。Google 広告の場合、アカウントの利用者には「管理者」「標準」「読み取り専用」「お支払いとご請求」「メール専用」のアクセス権があり、利用者の追加や削除ができるのは管理者だけです(出典:Google 広告ヘルプ「Google 広告アカウントのアクセス権の概要」)。

持ち方自社代理店
おすすめの形管理者(社内で 2 名以上)標準(運用の作業ができる)
避けたい形権限なし、またはメール専用管理者のみ

自社が管理者を持っていれば、代理店を替えるときも配信の記録や計測の設定を引き継げます。管理者を 1 名だけにすると、その人の退職や異動で誰も権限を変えられなくなるため、2 名以上にします。計測の仕組み(アクセス解析や、問い合わせの完了を数える設定)も、同じように自社の名義で持ちます。

定例会を判断の場にする

定例会がレポートの読み上げで終わるなら、レポートは事前に送ってもらい、会議では次のことだけを話します。

  1. 目標との差(10 分):成果の件数と単価、商談になった件数を、依頼の文書の目標と比べる
  2. 仮説と検証(15 分):前回決めた試み(広告文・狙い方・入口のページなど)の結果と、次に試すこと
  3. 自社が決めること(5 分):予算の増減、訴求の変更、入口のページの修正など、自社の判断が要る事項をその場で決める

3 つめが大切です。代理店の提案が「持ち帰って検討します」で止まり続けると、運用は前の月の繰り返しになります。予算の配分を決めるための指標の選び方は、メディア投資をフローとストックの KPI で分ける考え方が参考になります。

見直しの判断の仕方

代理店を替えるかどうかは、成果の数字だけでなく、次の点を合わせて判断します。

  • 依頼の文書と返す情報を渡したうえで、3 か月ほど成果が改善しないか
  • 定例会で、代理店から試すことの提案が出ているか
  • 自社が求めた情報(設定の内容・配信の内訳)を開示してくれるか
  • 担当者の交代が頻繁で、引き継ぎが行われていないか

発注側が目的と評価の基準を渡していない段階で代理店を替えても、次の代理店で同じことが起きます。先に依頼の文書を整え、それでも改善しないときに替える、という順にします。

実行時の落とし穴

広告だけで売上を増やそうとする

広告の獲得が増えても、問い合わせへの返事が遅い、営業が追い切れない、という状態では受注は増えません。広告を増やしても売上が伸びないときの確かめ方は、広告費を増やしても売上が増えない原因にまとめています。

手数料の率だけで比べる

手数料の率が低い代理店が、成果の面でも得とは限りません。比べるときは、手数料の率だけでなく、運用に含まれる作業の範囲と、定例会や報告の中身を合わせて確かめます。

一度に全部を自社に戻す

丸投げを反省して、運用のすべてを急に社内に戻すと、作業の量に追われて判断の時間がなくなることがあります。まず目的・評価の基準・アカウントの権限の 3 つを自社で持ち、作業は代理店に任せたまま、という段階を踏みます。

出典