ユニットエコノミクスとは、顧客 1 人(1 社)あたりの採算を、獲得にかかった費用とその顧客から得られる利益で比べ、顧客を増やすほど儲かる事業になっているかを確かめる考え方です。中心になるのは、顧客生涯価値(LTV)と顧客獲得費用(CAC)の 2 つの数字と、獲得の費用を回収するまでの期間です。LTV が CAC を上回っていなければ、顧客を増やすほど赤字が広がります。逆に、上回っていても回収に時間がかかりすぎれば、手元の資金が先に尽きます。以下、計算の仕方、数字の読み方、合わないときに直す順番を説明します。

ユニットエコノミクスが必要になる構造

売上が伸びているのに利益が残らない

広告や営業の費用を増やして顧客が増えると、売上は伸びます。しかし、1 人あたりの獲得の費用が、その顧客から得られる粗利を上回っていれば、顧客が増えるほど赤字が大きくなります。全社の損益計算書では、既存顧客の利益に隠れてこのことが見えにくくなります。

獲得単価だけで判断している

獲得単価(CPA)は、獲得のときの費用しか見ていません。安く獲得した顧客がすぐに解約し、高く獲得した顧客が長く使い続けるなら、獲得単価の低い経路に予算を寄せるほど採算は悪くなります。この構造は、CPA だけを追うと資金が尽きる理由でも扱っています。

計算の仕方

CAC(顧客獲得費用)

CAC は、一定の期間に新しい顧客の獲得にかかった費用を、その期間に獲得した顧客の数で割って出します。

  • CAC = 獲得にかかった費用 ÷ 獲得した顧客の数

獲得にかかった費用には、広告費だけでなく、獲得のための営業やマーケティングの人件費、展示会の出展費、ツールの費用なども含めます。広告費だけで計算すると、CAC を実態より低く見積もることになります。

LTV(顧客生涯価値)

LTV は、1 人の顧客が取引を続ける期間に、自社にもたらす粗利の合計です。売上ではなく粗利で計算するのが要点です。

  • 継続課金の場合:LTV = 月あたりの平均の売上 × 粗利率 ÷ 月の解約率
  • 売り切りの場合:LTV = 1 回あたりの平均の売上 × 粗利率 × 平均の購入回数

解約率が月 2%なら、平均の継続期間はおよそ 50 か月(1 ÷ 0.02)と見積もります。ただし、実績の少ない段階では解約率が低めに出やすく、LTV を過大に見積もる危険があります。

回収期間

獲得の費用を、顧客 1 人の月あたりの粗利で何か月かけて取り戻せるかを表します。

  • 回収期間(か月)= CAC ÷(月あたりの平均の売上 × 粗利率)

計算の例

数字は説明のための仮の値です。

項目経路 A(検索広告)経路 B(展示会)
獲得にかかった費用300 万円400 万円
獲得した顧客の数30 社10 社
CAC10 万円40 万円
月あたりの売上3 万円10 万円
粗利率60%60%
月の解約率5%2%
LTV36 万円300 万円
LTV ÷ CAC3.6 倍7.5 倍
回収期間約 5.6 か月約 6.7 か月

獲得単価だけを見れば経路 A が 4 分の 1 の費用で済みますが、顧客 1 社あたりの採算では経路 B のほうが大きく上回ります。回収期間は B のほうが長いため、B に予算を寄せるなら、回収までの資金の余裕があるかを合わせて確かめます。

計算に必要なデータの集め方

ユニットエコノミクスは、計算の式よりも、材料のデータをそろえるところで止まることが多くあります。最初にそろえるのは次の 4 つです。

  1. 顧客ごとの獲得の経路:最初の接点が広告か、展示会か、紹介か。顧客の台帳に 1 列足し、受注のときに営業が記入する
  2. 経路ごとの費用:広告費は管理画面から、展示会は出展費と準備の人件費から、月ごとに集計する
  3. 顧客ごとの月の売上と粗利:請求の記録から出す。粗利率が商品で大きく違う場合は商品ごとに分ける
  4. 解約・取引の終了の日付:いつ取引が止まったかを台帳に残す

獲得の経路の列が空欄の顧客が多いと、経路ごとの比較ができません。過去の分は分かる範囲で埋め、分からないものは「不明」とし、これから獲得する顧客から確実に記入する決まりにします。

経営の判断に使う場面

ユニットエコノミクスは、マーケティングの担当者だけの指標ではありません。経営の判断では、次のような場面で使えます。

  • 予算を増やすかどうか:LTV が CAC を十分に上回り、回収期間を資金で耐えられる経路なら、予算を増やすほど将来の粗利が増える
  • 値上げや料金の見直し:1 人あたりの粗利が上がると、同じ CAC でも回収期間が短くなる。値上げで解約がどれだけ増えるかと合わせて見る
  • 新しい商品や市場に出るかどうか:既存の顧客への追加の販売は CAC がほとんどかからないため、新規の顧客を獲得するより採算が良いことが多い
  • 採用の計画:営業の人数を増やすときは、1 人あたりが獲得できる顧客の数と人件費から、増員後の CAC を見積もる

数字が合わないときに直す順番

LTV が CAC を十分に上回っていない場合、直す手段は 3 つに分かれます。効果が出るまでの早さと、ほかへの影響を考えて、次の順に確かめます。

順手段具体的な打ち手
1解約を減らす導入直後の支援、利用が止まった顧客への連絡、解約の理由の記録
21 人あたりの粗利を上げる上位の契約への切り替え、追加の商品、値引きの抑制
3獲得の費用を下げる採算の悪い経路の停止、問い合わせから商談への歩留まりの改善

獲得の費用を下げることから手を付けたくなりますが、解約が多いままでは、獲得を効率化しても出ていく顧客を補うだけになります。解約を減らす取り組みは、カスタマーサクセスで LTV を伸ばす進め方で扱っています。値引きが粗利を削る構造は、営業の値引きと粗利の評価が参考になります。

実行時の落とし穴

全社の平均だけを見る

全社の平均の LTV と CAC では、採算の良い経路と悪い経路が打ち消し合って見えません。獲得の経路ごと、顧客の規模ごと、商品ごとに分けて出すと、どこに予算を寄せるべきかが見えてきます。

売上で LTV を出す

売上で計算した LTV は、粗利で計算したものより大きく見えます。原価の高い商品では、売上の LTV では採算が合っているように見えて、実際には赤字ということが起きます。

一度出して終わる

解約率や獲得の費用は、市場や競合の状況で変わります。四半期に 1 回は計算し直し、経路ごとの予算の配分を見直します。広告の予算をどの時点で増減するかは、広告費を増やしても売上が増えない原因も合わせて確かめてください。