サイレントカスタマーとは、商品やサービスに不満を持っていても、それを企業に伝えずに、利用を減らしたり、他社に移ったりする顧客のことです。不満を伝えてくれる顧客には対応の機会がありますが、サイレントカスタマーは、解約の申し出や契約の更新の見送りという形で、初めて不満が表に出ます。その時点では気持ちが決まっていることが多く、引き止めは難しくなります。対策は、①不満が届かない理由を知る、②利用の記録や接点の変化から兆しをつかむ、③兆しが出たときの対応を決めておく、④不満を伝えやすくする仕組みを作る、の 4 つです。
不満が届かない理由
顧客が不満を伝えないのは、不満が無いからではありません。主な理由は次のようなものです。
伝える手間に見合わない
不満を伝えるには、問い合わせの窓口を探し、状況を説明し、回答を待つ手間がかかります。顧客にとって、その手間をかけるより、使うのをやめるか、他社に移るほうが楽だと感じられれば、不満は伝えられません。特に、担当者が忙しい企業の顧客ほど、伝える手間を避ける傾向があります。
伝えても変わらないと思っている
以前に要望を伝えたのに何も変わらなかった、回答が形式的だった、という経験があると、顧客は「言っても無駄だ」と考えるようになります。この状態の顧客は、表面上は静かでも、他社を検討し始めていることがあります。
関係を悪くしたくない
担当の営業やサポートの担当者との関係が良好であるほど、「担当者に悪い」と感じて不満を言い出せないことがあります。担当者には感謝を伝えながら、社内では他社への切り替えを進めている、ということも起きます。
不満を伝える相手が違う
実際にサービスを使っている現場の担当者と、契約を決める決裁者が違う場合、現場の不満は決裁者には伝わっても、企業には伝わらないことがあります。企業が話している相手が現場の担当者だけだと、決裁者の側で解約の話が進んでいても気づけません。
兆しのつかみ方
サイレントカスタマーは不満を言葉にしないため、行動の変化から兆しをつかみます。代表的な兆しを示します。
| 分類 | 兆しの例 | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 利用 | ログインの回数や、主な機能の利用が減った | 利用の記録を月ごとに比べる |
| 利用 | 利用している人の数が減った | 契約の人数と、実際に使っている人の数を比べる |
| 接点 | 定期の打ち合わせを延期される、連絡への返事が遅くなった | 接点の記録を見る |
| 接点 | 問い合わせが急に減った、または急に増えた | 問い合わせの件数の推移を見る |
| 関係者 | 窓口の担当者や決裁者が替わった | 打ち合わせや連絡の中で確かめる |
| 契約 | 契約の縮小や、支払い方法の変更の相談があった | 契約の記録を見る |
問い合わせの件数は、減っても増えても兆しになります。減った場合は使わなくなっている可能性が、急に増えた場合は困りごとが重なっている可能性があります。
これらの兆しを 1 つずつ見ていくのは手間がかかるため、項目ごとに点数を付けて、顧客の状態を 1 つの数字で表す方法があります。これをヘルススコアと呼びます。項目の選び方と点数の付け方は、ヘルススコアの項目の選び方と対応の決め方で説明しています。
兆しの項目を決めるときは、過去に解約した顧客を振り返るのが近道です。解約の申し出の前の半年ほどに、どんな変化があったかを確かめると、自社の顧客に当てはまる兆しが見えてきます。利用の減少が先に来ていたのか、担当者の交代が先だったのかによって、見るべき項目が変わります。
兆しが出たときの対応
兆しをつかんでも、対応が決まっていなければ意味がありません。兆しの種類と重さに応じて、誰が、いつまでに、何をするかを決めておきます。
| 兆しの重さ | 対応の例 | 担当 |
|---|---|---|
| 軽い(利用が少し減った) | 使い方の案内や、便利な機能の紹介を送る | カスタマーサクセスの担当者 |
| 中くらい(利用が大きく減った、連絡への返事が遅い) | 打ち合わせを申し込み、困っていることを聞く | カスタマーサクセスの担当者 |
| 重い(決裁者の交代、縮小の相談) | 責任者が同行し、決裁者と話す場を作る | カスタマーサクセスの責任者・営業 |
連絡するときは、「解約しそうなので連絡した」という印象を与えないようにします。利用の状況の定期の報告、新しい機能の案内、活用の事例の紹介など、顧客にとって意味のある理由で接点を持ち、その中で困っていることや、社内の状況の変化を聞きます。
打ち合わせで聞くことは、あらかじめ決めておきます。「最近、使い方で困っていることはありますか」「社内で、この業務の進め方に変化はありましたか」「今後、見直しの予定はありますか」のように、不満を直接聞くのではなく、状況の変化を聞く形にすると、顧客は答えやすくなります。
聞いた内容は、顧客の記録に残し、社内で共有します。不満の中身が商品の機能に関するものなら開発の担当に、契約や請求に関するものなら営業や管理の担当に伝え、対応の結果を顧客に返します。「伝えたら変わった」という経験は、顧客が次に不満を伝えてくれるきっかけになります。
不満を伝えやすくする仕組み
兆しをつかむことと並行して、顧客が不満を伝えやすくする仕組みを作ります。
1 つめは、定期的に声を聞く機会を作ることです。四半期に 1 回の打ち合わせや、年に 1〜2 回のアンケートなど、企業の側から聞きに行く機会があれば、顧客は伝える手間をかけずに済みます。アンケートの取り方と、結果を改善につなげる運用は、NPS の計算方法と改善につなげる運用で扱っています。
2 つめは、伝えられた声への対応を見せることです。寄せられた要望のうち、何に対応し、何に対応しなかったかを、理由とともに顧客に伝えます。すべての要望に応えることはできませんが、検討したことが伝われば、顧客は「言っても無駄だ」とは考えにくくなります。
3 つめは、決裁者との接点を持つことです。現場の担当者とだけ話していると、決裁者の側の不満や方針の変化に気づけません。半年に 1 回程度、決裁者に成果を報告する場を設けると、決裁者の関心事を直接聞けます。
経営の数字との関係
サイレントカスタマーの問題は、解約の件数だけでなく、既存の顧客からの売上の維持にも表れます。不満を抱えた顧客は、すぐには解約しなくても、契約を縮小したり、追加の提案に応じなくなったりします。そのため、既存の顧客からの売上がどれだけ保てているかを表す GRR や、追加の販売も含めた NRR を追っていると、サイレントカスタマーの影響を数字で確かめられます。指標の計算と読み方は、NRR とは何か、計算と改善の仕方で説明しています。
兆しをつかむ仕組みを入れた後は、兆しが出た顧客のうち、対応の後に利用が戻った割合と、結局解約した割合を記録しておきます。この割合を半年ごとに見ると、兆しの項目や対応の中身が合っているかを確かめられます。解約した顧客に共通する兆しが、最初に決めた項目に入っていなければ、項目を見直します。
実行時の落とし穴
兆しの項目を増やしすぎる
見る項目を増やしすぎると、多くの顧客に兆しが出ているように見え、担当者は対応しきれなくなります。まずは過去の解約と関係が深い 3〜5 項目に絞ります。
兆しを担当者の評価に使う
担当する顧客の兆しの数で担当者を評価すると、担当者は兆しを報告しなくなります。兆しは、支援の優先順位を決めるための材料として扱います。
解約の申し出の後だけ動く
解約の申し出の後に引き止めの提案をしても、多くの場合は間に合いません。申し出の前の兆しの段階で動けるように、担当と対応を決めておくことが、この取り組みの中心です。




