NRR(Net Revenue Retention、売上の純増の率)は、ある時点の既存の顧客からの売上が、一定期間の後に、解約や縮小で減った分と、追加の販売で増えた分を差し引いてどれだけになったかを表す指標です。NRR が 100%を超えていれば、新しい顧客を 1 社も獲得しなくても売上が増えていることを意味します。似た指標の GRR(Gross Revenue Retention、売上の維持率)は、追加の販売を含めずに、既存の売上をどれだけ保てたかを表します。2 つを並べて見ると、売上の維持が弱いのか、追加の販売が弱いのかを分けて判断できます。

計算方法

NRR と GRR は、期間の始めにいた顧客だけを対象にして計算します。

  • NRR =(期初の月の売上 − 解約で減った分 − 縮小で減った分 + 追加の販売で増えた分)÷ 期初の月の売上
  • GRR =(期初の月の売上 − 解約で減った分 − 縮小で減った分)÷ 期初の月の売上

計算の例を示します(数字は説明のための仮の値です)。

項目金額(月の売上)
12 か月前にいた顧客の月の売上1,000 万円
そのうち解約した顧客の分− 80 万円
契約を縮小した顧客の分− 40 万円
上位の契約への切り替え・追加の販売+ 170 万円
12 か月後の同じ顧客の月の売上1,050 万円
  • NRR = 1,050 ÷ 1,000 = 105%
  • GRR =(1,000 − 80 − 40)÷ 1,000 = 88%

この例では、GRR が 88%で、既存の売上の 12%を解約や縮小で失っていますが、追加の販売がそれを上回り、NRR は 105%になっています。

GRR との違いと読み方

GRR は 100%を超えることがありません。追加の販売を含めないため、どれだけ売上を失わずに済んだかだけを表します。NRR は追加の販売を含めるため、100%を超えることがあります。

2 つの組み合わせで、事業の状態を読み分けます。

状態GRRNRR読み方
維持も追加も強い高い100%超既存の顧客が売上の伸びを支えている
追加で穴を埋めている低い100%前後一部の顧客の追加の販売が、解約の多さを隠している
維持は強いが追加が弱い高い100%未満〜前後解約は少ないが、既存の顧客への提案が足りない
維持も追加も弱い低い100%を大きく下回る新しい顧客を獲得しても売上が伸びにくい

特に注意したいのは「追加で穴を埋めている」状態です。NRR だけを見ると問題が無いように見えますが、解約が多い状態が続くと、追加の販売ができる顧客が減っていき、やがて NRR も下がります。NRR と合わせて GRR を必ず見る理由はここにあります。

NRR が下がる構造

解約の兆しに気づくのが遅い

解約は、申し出があったときには顧客の気持ちが決まっていることが多く、引き止めは難しくなります。利用の減少や担当者の交代など、数か月前に表れる兆しに気づけないと、GRR が下がり続けます。兆しのつかみ方は、ヘルススコアの項目の選び方と対応の決め方で扱っています。

追加の販売の担当が決まっていない

営業は新しい顧客の獲得を、カスタマーサクセスは解約の防止を担当し、既存の顧客への追加の提案は誰の役割でもない、という組織があります。顧客が追加の機能や上位の契約を必要としていても、提案されないまま時間がたちます。

合わない顧客を獲得している

営業が、商品が合わない顧客や、導入の準備ができていない顧客を獲得すると、導入の後に使いこなせず、解約や縮小につながります。NRR の問題が、実は獲得の段階にあることもあります。

NRR を上げる打ち手

打ち手は、GRR を上げる(解約と縮小を減らす)ものと、追加の販売を増やすものに分けて考えます。

GRR を上げる打ち手は、導入の支援、利用の定着の支援、解約の兆しへの早めの対応です。特に、契約の直後の導入の期間に、顧客が最初の成果を実感できるかどうかが、その後の継続を大きく左右します。導入の完了を先行の指標として追う方法は、カスタマーサクセスの KPI の選び方で説明しています。

追加の販売を増やす打ち手は、利用が定着している顧客への上位の契約や追加の商品の提案です。提案は、顧客の利用の状況から「次に必要になりそうなもの」を見つけて行うと、押し売りにならずに済みます。追加の提案が断られたときの考え方は、アップセルが断られるときのデータに基づく提案が参考になります。

どちらを先に進めるかは、GRR と NRR の組み合わせで決めます。GRR が低いなら、追加の販売より先に解約と縮小を減らします。解約の多いまま追加の販売を進めても、穴の空いた器に水を注ぐことになります。

経営の判断での使い方

NRR は、カスタマーサクセスの部門の成果を測るだけでなく、経営の判断にも使えます。

1 つめは、新しい顧客の獲得にどこまで投資するかの判断です。NRR が高い事業では、獲得した顧客からの売上が年々増えていくため、獲得の費用を回収しやすくなります。逆に NRR が低い事業では、獲得した顧客からの売上が年々減っていくため、獲得に投資しても売上が積み上がりにくくなります。顧客 1 社あたりの採算の見方は、ユニットエコノミクスの計算式と改善の順番で扱っています。

2 つめは、人員の配置の判断です。GRR が低いなら、導入の支援や解約の兆しへの対応に人を厚くし、GRR は高いが NRR が伸びないなら、既存の顧客への提案を担う人を置く、というように、2 つの指標の組み合わせから、どこに人を置くかを決められます。

3 つめは、料金の見直しの判断です。利用が増えるほど料金が上がる形や、段階ごとの契約を用意しておくと、顧客の事業の成長に合わせて売上が自然に増え、NRR が上がりやすくなります。料金の形を変えるときは、既存の顧客への影響と、解約が増えないかを合わせて確かめます。

いずれの判断でも、NRR の値を 1 つだけ見るのではなく、顧客の規模ごと、契約の種類ごと、獲得の経路ごとに分けて見ると、どこに手を打つべきかが具体的になります。

計算でよくある誤り

新しい顧客の売上を含める

期間の途中で獲得した顧客の売上を含めると、NRR は実態より高く出ます。対象は、期間の始めにいた顧客に限ります。

一時的な売上を含める

初期の費用や、1 回限りの作業の売上を含めると、継続の売上の変化が見えにくくなります。NRR は、毎月くり返し発生する売上だけで計算します。

値上げと追加の販売を区別しない

料金の改定で売上が増えた分と、顧客が追加で購入した分を区別しないと、打ち手の効果が分かりません。内訳を分けて記録しておくと、何が NRR を動かしたかを後から確かめられます。