ヘルススコアとは、利用の状況、問い合わせ、支払い、顧客の声などのデータから、顧客が解約しそうか、追加で使いそうかを点数で表す指標です。継続課金の商材では、顧客が解約を申し出たときには、すでに気持ちが決まっていることが多く、引き止めは難しくなります。ヘルススコアは、その前に表れる兆しをつかむための道具です。作るときは、①解約した顧客と続いている顧客の違いから項目を選ぶ、②項目ごとに点数を付ける、③点数の帯ごとに誰が何をするかを決める、④解約の実績と照らして見直す、の 4 つを回します。点数を出すことより、点数が下がったときの対応を先に決めることが要点です。
ヘルススコアが使われない構造
点数を出して終わっている
ヘルススコアを画面に並べても、点数が下がったときに誰が何をするかが決まっていなければ、担当者は見るだけで動きません。点数は、行動のきっかけとして決めておいて初めて役に立ちます。
項目が解約と関係していない
担当者が「大切そう」と思う項目を並べて点数を作ると、解約した顧客の点数が高いまま、ということが起きます。項目は、実際に解約した顧客のデータから選ぶ必要があります。
確かめる頻度が遅い
月に 1 回の会議でだけ点数を見ていると、兆しに気づくのが遅れます。急に下がった顧客に、その週のうちに連絡できる仕組みが要ります。
項目の選び方
過去 1〜2 年に解約した顧客と、続いている顧客のデータを並べ、差の大きい項目を探します。よく使われる項目は次のとおりです。
| 分類 | 項目の例 | 兆しの例 |
|---|---|---|
| 利用 | ログインの頻度、主な機能の利用、利用している人数 | 利用が減った、特定の担当者しか使っていない |
| 定着 | 導入の初期に決めた設定や使い方が済んでいるか | 導入から時間がたっても主な機能を使っていない |
| 問い合わせ | 問い合わせの件数と内容 | 不具合の問い合わせが続く、逆に問い合わせが途絶えた |
| 関係 | 担当者との打ち合わせの頻度、決裁者との接点 | 先方の担当者が交代した、打ち合わせを断られる |
| 支払い | 支払いの遅れ、契約の縮小 | 支払いが遅れた、席数を減らした |
| 声 | NPS や満足度の回答 | 低い点数、不満の書き込み |
「問い合わせが途絶えた」は見落とされやすい兆しです。問い合わせが多いのは使っている証拠でもあり、急に途絶えるのは使うのをやめた兆しのことがあります。顧客の声の集め方は、NPS の計算方法と改善につなげる運用で扱っています。
点数の付け方
項目ごとに、良い・普通・注意の 3 段階で点数を付け、合計します。
| 項目 | 良い(2 点) | 普通(1 点) | 注意(0 点) |
|---|---|---|---|
| 月のログインの人数 | 契約の席数の 7 割以上 | 4〜7 割 | 4 割未満 |
| 主な機能の利用 | 毎週使っている | 月に数回 | 使っていない |
| 打ち合わせの接点 | 四半期に 1 回以上 | 半年に 1 回 | 1 年以上無い |
| 支払い | 遅れなし | 1 回遅れ | 2 回以上遅れ |
区切りの値は、解約した顧客と続いている顧客の分布を見て決めます。上の表の値は説明のための仮の値です。合計の点数に加えて、「前の月から 3 点以上下がった」のような変化の大きさも見ます。点数が普通でも、急に下がった顧客は注意が必要です。
点数ごとの対応を決める
点数の帯と、変化の大きさごとに、担当と対応と期限を決めます。
| 状態 | 担当 | 対応 | 期限 |
|---|---|---|---|
| 注意(低い点数) | 担当者と責任者 | 連絡して状況を聞き、使い方の支援や打ち合わせを提案する | 1 週間以内 |
| 急に下がった | 担当者 | 何が変わったか(担当者の交代・利用の停止など)を確かめる | 1 週間以内 |
| 普通 | 担当者 | 定期の連絡で、使っていない機能の案内をする | 次の定期の連絡 |
| 良い | 担当者・営業 | 追加の提案や、導入事例への協力を相談する | 四半期ごと |
対応の結果(連絡がついたか、何が分かったか、点数が戻ったか)を記録しておくと、どの対応が効くかが分かってきます。顧客の分け方ごとに関わり方を変える考え方は、カスタマーサクセスの顧客セグメンテーションが参考になります。
作るまでの手順
初めてヘルススコアを作るときは、次の順に進めます。
- 解約の記録を集める:過去 1〜2 年に解約した顧客の一覧と、解約の理由を集める。理由が記録されていなければ、担当者に聞き取る
- データの有無を確かめる:利用の記録、問い合わせの記録、請求の記録のうち、顧客ごとに取り出せるものを確かめる
- 差の大きい項目を選ぶ:解約した顧客と続いている顧客で、解約の 3〜6 か月前の値を比べ、差の大きい項目を 3〜5 個選ぶ
- 点数と区切りを決める:項目ごとに 3 段階の区切りを決め、合計の点数と、注意の状態の基準を決める
- 対応を決めてから公開する:点数の帯ごとの担当・対応・期限を決め、担当者に説明してから運用を始める
3 の比較で、解約の直前の値ではなく、数か月前の値を比べることが大切です。直前の値では、兆しに気づいても対応が間に合いません。数か月前から差が出ている項目が、早めの対応に使える項目です。
データがそろっていない場合は、担当者の見立て(「最近連絡が取りにくい」「先方の担当者が替わった」など)を 1 つの項目として入れて始めてもかまいません。ただし、見立ては人によってばらつくため、何を見て判断するかを言葉で決めておきます。
見直しの仕方
四半期に 1 回、次の点を確かめます。
- 解約した顧客は、解約の前に点数が下がっていたか(下がっていなければ項目が合っていない)
- 注意の状態の顧客のうち、対応の後に点数が戻った割合
- 点数が低いのに続いている顧客、点数が高いのに解約した顧客の共通点
点数が高いのに解約した顧客がいたら、その顧客の解約の理由を確かめ、項目に足すべきものが無いかを見ます。例えば、先方の決裁者の交代や、事業の方針の変更は、利用の記録には表れないことがあります。
実行時の落とし穴
最初から精密に作ろうとする
項目を多く集め、重みを細かく調整してから始めようとすると、いつまでも運用が始まりません。3〜5 項目の簡単な点数で始め、解約の実績と照らして直すほうが早く精度が上がります。
点数を担当者の評価に使う
担当する顧客の点数を担当者の評価に直結させると、点数の低い顧客を報告しにくくなります。評価は、点数そのものではなく、注意の顧客への対応の速さと、解約の率で見ます。
解約の防止だけに使う
点数の高い顧客は、追加の提案や紹介をお願いする相手の候補です。解約の防止と、既存の顧客からの売上の拡大の両方に使うと、ヘルススコアを作る手間に見合う成果が出ます。既存の顧客への取り組みの全体像は、カスタマーサクセスで LTV を伸ばす進め方で扱っています。




