マーケティングKPIは、売上の目標(KGI)から逆算した「顧客が買うまでの段階」ごとの件数と、段階の間の転換率で置きます。アクセス数やSNSの「いいね」は、その段階の途中にある数字の1つにすぎず、問い合わせや商談とつながっていることを確かめて初めてKPIになります。KPIは3〜5個に絞り、担当者が自分の手で動かせる数字を選びます。以下、KPIが売上とつながらなくなる構造、KPIを決める6つの手順、業態別のKPIの例、計測の仕組み、実行時の落とし穴の順に説明します。
KPIが売上とつながらない構造
測りやすい数字を選んでいる
アクセス解析やSNSの管理画面を開くと、閲覧数、訪問者数、フォロワー数など、すぐに取れる数字が並んでいます。取りやすい数字をそのままKPIにすると、売上との関係が確かめられていないまま、数字を増やすこと自体が目的になります。
営業との境目で数字が切れている
マーケティングは問い合わせの件数まで、営業は商談からを見ていると、問い合わせのうち何件が商談になり、何件が受注したかを誰も見ていない状態になります。問い合わせの件数だけを増やしても、商談にならない問い合わせが増えるだけなら売上は増えません。原因の多くは、何をもって見込み客とし、何をもって商談とするかの定義が、部署の間でそろっていないことにあります。
KPIが多すぎる、または動かせない
指標を10も20も並べると、どれが悪化しても手を打つ優先順位が決まりません。また、担当者が自分の行動で動かせない数字(市場全体の需要など)をKPIにすると、達成・未達の理由が説明できません。
KPIを決める6つの手順
- KGIを決める。期間と数字を決めます(例:今期の新規の受注の件数、新規の顧客からの粗利)
- 顧客が買うまでの段階を書き出す。BtoBなら「サイトへの訪問 → 資料請求・問い合わせ → 商談 → 提案 → 受注」、店舗なら「店を知る → 情報を見る → 予約 → 来店 → 再来店」のように、自社の流れで書きます
- 段階ごとの件数と転換率を実績から出す。過去3〜6か月の件数を段階ごとに数え、段階の間の転換率(次の段階に進んだ件数 ÷ 前の段階の件数)を出します
- KGIから逆算する。受注の目標件数を受注率で割ると必要な商談の件数が、それを商談化率で割ると必要な問い合わせの件数が出ます
- 改善の余地が大きい段階をKPIにする。逆算した必要な件数と、今の実績の差が大きい段階、または転換率が低い段階を選びます
- 担当と見る頻度を決める。KPIごとに、責任を持つ担当と、見る頻度を決めます
逆算の例を示します。数字は説明のための仮のものです。
| 段階 | 転換の目安(仮) | 必要な件数 |
|---|---|---|
| 受注(KGI) | ― | 10件 |
| 商談 | 3件に1件が受注 | 30件 |
| 資料請求・問い合わせ | 4件に1件が商談 | 120件 |
| サイトへの訪問 | 100人に1人が資料請求 | 12,000人 |
この表で、今の資料請求が月に60件しか無いなら、訪問を増やす、資料請求の率を上げる、商談化率を上げる、のどれが最も現実的かを比べます。訪問を倍にするより、商談化率を上げるほうが早い場合もあります。どの段階に手を打つかを決めるための表であり、すべての段階の数字を同時に追うための表ではありません。
業態別のマーケティングKPIの例
| 業態 | 量の指標 | 転換の指標 | 金額の指標 |
|---|---|---|---|
| BtoB(法人向けのサービス・製造) | 資料請求・問い合わせの件数、商談の件数 | 商談化率、受注率 | 獲得単価(1件の受注にかかった費用)、受注の平均単価 |
| 店舗(飲食・美容・サービス) | 予約の件数、地図での経路の検索の件数 | 予約から来店の率、再来店の率 | 客単価 |
| 通販(EC) | サイトへの訪問数 | 購入率、2回目の購入の率 | 客単価、獲得単価 |
| 採用 | 採用ページへの訪問、応募の件数 | 応募から面接、面接から内定の率 | 1人の採用にかかった費用 |
量の指標は、先に動く数字(先行指標)で、週単位で動きが分かります。転換の指標と金額の指標は、結果が出るまでに時間がかかる数字(遅行指標)で、月や四半期の単位で見ます。KPIは、量の指標と転換の指標を1つずつ組み合わせると、数だけを追って質が落ちることを防げます。
計測の仕組みを作る
サイトの中の行動を数える
アクセス解析のGoogleアナリティクス(GA4)では、問い合わせのフォームの送信や資料のダウンロードなど、事業にとって重要な行動を「キーイベント」として印を付け、どの流入の経路がその行動につながったかを評価できます。キーイベントからGoogle広告のコンバージョンを作ることもできます(アナリティクス ヘルプ「イベントにキーイベントとしてマークを付ける」、2026年10月確認)。まずは、問い合わせと資料請求など、KPIにする行動をキーイベントにします。
サイトの外につなぐ
問い合わせから先は、アクセス解析では追えません。問い合わせのフォームに流入の経路(広告、検索、SNS、紹介など)を記録する項目を持たせ、営業の顧客管理の表やSFA・CRMに、同じ項目を引き継ぎます。こうすると、経路ごとに、問い合わせが何件の商談と受注になったかを数えられます。
定義をそろえる
「見込み客」「商談」「受注」の定義を、マーケティングと営業で文書にしてそろえます。たとえば商談を「予算と導入の時期を確認した打ち合わせ」と決めておけば、担当者によって商談の件数の数え方が変わることを防げます。
見る頻度を決める
| 頻度 | 見る数字 | 会議で決めること |
|---|---|---|
| 週 | 量の指標(問い合わせ、予約など) | 今週の施策の続行・停止 |
| 月 | 転換の指標、経路ごとの件数 | 手を打つ段階の見直し |
| 四半期 | KGI、金額の指標 | 予算の配分、KPIの入れ替え |
実行時の落とし穴
途中の数字だけを目標にする
資料請求の件数だけを目標にすると、誰でも申し込める景品や、対象の広すぎる広告で件数を増やすことができます。件数は達成しても、商談化率が下がり、営業の手間だけが増えます。量の指標には、必ず次の段階への転換の指標を組み合わせます。
期間のずれを無視する
BtoBでは、問い合わせから受注までに数か月かかることが珍しくありません。同じ月の問い合わせと受注を比べると、施策の効果を見誤ります。問い合わせを受けた月ごとに、その後の商談と受注を追う形で集計します。
根拠の無い目標を置く
「前年の1.2倍」のように、段階ごとの実績と関係なく目標を置くと、どの段階で何をすれば届くのかが説明できません。目標は逆算の表から、改善の余地がある段階に置きます。
獲得単価だけで判断する
1件あたりの獲得の費用だけを見て経路を比べると、単価は安いが継続しない顧客ばかりを集めることがあります。獲得した顧客がどれだけの粗利をもたらすかと合わせて見る方法は、ユニットエコノミクスの計算式と改善の順番と、CPAだけを追う危険と投資回収期間の管理で説明しています。見込み客と商談の定義のそろえ方はMQLとSQLの違いと引き渡しの基準、営業の段階の分け方は営業プロセスの可視化を参考にしてください。
出典
- Google アナリティクス ヘルプ「イベントにキーイベントとしてマークを付ける」 https://support.google.com/analytics/answer/13128484?hl=ja
まとめ
- マーケティングKPIは、KGIから逆算した、顧客が買うまでの段階ごとの件数と転換率で置きます
- 段階ごとの実績を数え、改善の余地が大きい段階をKPIにし、3〜5個に絞ります
- 量の指標と転換の指標を組み合わせ、数だけを追って質が落ちることを防ぎます
- アクセス解析のキーイベントと、問い合わせの流入の経路の記録で、サイトの中と外をつなぎます
- 見込み客・商談・受注の定義を営業とそろえ、問い合わせの月ごとに受注まで追って集計します




